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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第11話:絶望の夜

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ジョーカー

一方、狙撃手・高橋を逮捕した北条たちは、封鎖された警視庁の正面で立ち往生していた。


「……駄目だ。中にいる連中と連絡がつかない」


「特務課の専用無線も、雑音ばかりで使い物にならねぇな」


稲取と虎太郎がそれぞれの無線機や端末を操作するが、返ってくるのは虚しい砂嵐の音だけだ。


「全ての出入口がロックされ、シャッターも下ろされている。物理的な侵入さえ拒むつもりか……」


「でも、逆に考えれば侵入した奴らも出られないってことじゃない?」


北条、あさみ、辰川の三人は警視庁の外周を慎重に歩き、突破口を探る。


「そんなに甘い連中じゃないよ、うちの幹部たちは。出入口を封鎖した張本人が、一緒に中に入っているんだ。出るときは、そいつが指先一つで操作するだけさ」


高橋は、稲取に連れられるまま大人しく行動を共にしていた。

もはや逃走する意志はないのか、手錠をかけられた状態で静かにそこに留まっている。


「なるほど、腕利きのハッカーが同行しているというわけか」


「……それにしても、『神の国』の幹部ってのは一体何人いるんだ? まったく、次から次へと……」


虎太郎が毒突くのも無理はなかった。

本宮、姉崎、そして目の前の高橋。

これまでも十分に強力な敵と対峙してきたはずだった。


「これまでの事件の犯人……本宮、姉崎、香川。あいつらは皆、幹部じゃないよ」


「……マジかよ」


「あぁ。あいつらは『幹部候補』に過ぎない。俺たち幹部の指示に従い、支給された物資で犯行を重ねた駒だ。……まぁ、桜川に関しては、すでに幹部と同等の裁量を持っていたがな。あいつには、あいつにしかできない役割があった」


「じゃあ、実際のところ幹部は何人いるんだ!」


高橋は、指を折りながら淡々と数え始めた。


「まず盟主。そして『JOKER』、『アサシン』、『ハッカー』に『ドクター』。そして俺こと『狙撃手』。この五人が、組織を支える真の幹部だ」


「なるほど。その一角を、ようやく俺たちが逮捕したということか……」


「そう。だからこそ、こっちは強攻手段に出たんだよ。残りの幹部を全員投入してでも、一気に目的を果たそうとな」


特務課がその足取りを掴めなかった幹部たちが、今度は向こうから警察の中枢へと乗り込んできたのだ。


「そいつら、どんな連中なんだ?」


虎太郎が苦笑いを浮かべながら問う。

かつて虎太郎とあさみが二人がかりで、辛うじて退けたのが『アサシン』だった。

彼と同クラスの化け物が、高橋を除いてあと三人。


「アサシンは殺し屋、ハッカーは悠真のようなタイプだろう。……ドクターは医者か? 薬物を操るのか?」


敵の特性を知らなければ、攻略の糸口さえ掴めない。

虎太郎は高橋の瞳の奥を覗き込むように、その視線を向けた。


「ひとりだけ、俺も正体の分からないヤツがいる」


高橋の真剣な表情が、事態の深刻さを物語っていた。


「ジョーカー……そう呼ばれる少女だ。そいつの素性だけは、幹部である俺すらも知らない」


高橋(アンタ)ですら知らない幹部がいるってのかよ……」


虎太郎が毒突く。

警視庁潜入という大胆不敵な計画を実行に移した『神の国』の精鋭たち。

その実力が驚異的であることは疑いようもなかったが、組織内部でさえ秘匿されている存在がいるという事実は、一同にさらなる緊張を強いた。


「アサシン、ハッカー、ドクターの三人は、俺も現場を共にしたことがあるからよく知っている。だが、ジョーカーに関しては、少女であること以外は何も知らないんだ」


北条は、淡々と語る高橋の指先が、わずかに震えているのを見逃さなかった。


(……あの高橋さんほどの男が、語るだけで恐怖を感じる存在だというのか?)


「ジョーカー。文字通り、切り札だ。俺やアサシンが仕損じた標的がいたとしても、彼女が出向けば必ず息の根を止める。そう『彼』……盟主は言っていたよ。たとえ一度逃げ延び、どれほど警戒を強めた標的であっても、ジョーカーからは逃げられない、とな……」


「だから、ジョーカーか。死神、あるいは最終手段……。組織にとっては『引いたら最期、命はない』という意味のジョーカーなんだろうね」


北条が冷静に分析を加える。


「そんなジョーカーが、わざわざ自ら出向いてきた。それだけ確実に仕留めたい標的がいるってことだ。そしてその標的は……遠藤副総監」


虎太郎が拳を固く握り、副総監の執務室がある警視庁ビルの上層階を睨み上げた。


「どっちにしても、まずは中に入らねぇことには始まらねぇ。古橋さん、手動で開けられる仕掛けはねぇのか?」


「無理だな。そもそも外部からの侵入と内部からの逃走、その両方を防ぐための『完全封鎖』だ。外側に操作盤なんてものは存在しない。一部の上層部だけが緊急用リモコンを所持しているが、今この場にはない」


古橋の断言に、現場に焦りが広がる。


「じゃあ、リモコンなしでシャッターを操作するとしたら……」


「システムそのものを乗っ取るしかない。だが、警視庁のメインサーバーをハッキングできる人間など、この国にそう何人もいないぞ。国家最高機密レベルのセキュリティだからな」


「でも、奴らはそれを破って中に入り、再びシャッターを下ろした。それだけの化け物が中にいるんだ」


虎太郎は、八方塞がりの状況に歯噛みし、必死に思考を巡らせた。そして——。


「……いや、問題ねぇ。ひとりだけいるじゃねぇか!」


虎太郎の瞳に、確信に満ちた光が宿る。


「いるぞ、ウチの課に。あの中のハッカーに対抗できる、とびきり凄腕の『裏方』がさ!」


虎太郎の視線の先には、冷静にタブレットを展開し、すでに指先を走らせ始めている北条の姿があった。

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