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SEVEN~警視庁特務課~  作者: 桂木 京
第11話:絶望の夜

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盟主

「あーあー、全く手応えがねぇな。これが天下の警視庁とは、笑わせてくれるぜ」


周囲に横たわる警官たちを冷ややかに見下ろし、大男が退屈そうに大きな欠伸をした。その足元には、数分前まで誇り高く職務に励んでいた男たちが、糸の切れた人形のように転がっている。


「ホントに。私ひとりで充分だったんじゃない? みんなで相手して、ホント時間の無駄~」


金髪の少女が、血のついた警棒を無造作に放り投げながら不満を漏らす。

その仕草は、放課後のカフェで愚痴をこぼす女子高生そのものだが、その瞳には凍てつくような殺意が宿っていた。


「私は、ただ新作のガスを試してみたかっただけだよ。ほっほっ」


老人は、手にしたアタッシュケースを愛おしそうに撫でながら、にこやかに微笑んだ。

その柔和な表情と、周囲に漂う「死の空気」とのコントラストが、見る者の神経を逆撫でする。


「ほ、ほんとに……あ、あまり荒事はやめてほしいよ。セキュリティ解除は僕に任せればいいんだから、もっと隠れながら……穏便にいこうよ……」


小柄な男は、震える手で眼鏡を拭いながら、物陰からようやく姿を現した。


「ま、そっちの方が効率は良かったかもな。でもほら、警察に恨みがあるのはみんな一緒だろ? 少しだけ『お掃除』してやったってことで良しとしようぜ」


少女がガスマスクを無造作に外す。


「ちょっ……危ないよ!」


「一過性の神経毒でしょ? パッと作れるくらいだから効果時間も短いし、もう充分薄まってるわよ」


「ほっほっ……仰る通り。よく見ておられますな」


四人の間に、この場にふさわしい緊張感は微塵もなかった。

しかし、彼らが共有しているのは、警察組織に対する底知れぬ「怨嗟」と、変革への歪んだ渇望。

それは特務課の面々が持つ正義感と同じくらい、強固な信念となっていた。


「じゃぁ……この先のロック、開けるよ?」


小柄な男が、カードキーの認証パネルに小型のノートパソコンを直結する。


「何秒で開く?」


「この程度なら、30秒……いや、25秒かな」


静かな廊下に、軽快なタイピング音がリズムを刻む。

予告通り、25秒ジャストで電子ロックが解除され、重厚な扉が音もなく滑り出した。


「やるー! さすがハッカーくん」


「ほっほっ、お見事ですな」


四人は、薄暗い廊下の奥へと歩を進める。

しかし、ハッカーと呼ばれた男だけは、不意に足を止めて首を傾げた。


「……? でも、変なんだよなぁ」


「ん? 何が~?」


「うん……さっきのロックを開けたとき、『誰か』が干渉してきたような気がしたんだ。僕のプログラムを、ほんの数ミリ秒だけ押し戻したような……。その邪魔がなければ、20秒で開いてた」


「アンタと張り合えるハッカーが、この中にいるってこと? まさか、それはないっしょ」


「うーん、心当たりがないわけじゃないんだけど……まさか、ね」


ハッカーの脳裏に、ある一人の少年の顔がよぎる。

しかし、彼はすぐにそれを打ち消すように首を振った。


「どちらにしても、我々の後から『盟主殿』が直々に来られるのです。その妨げにだけはならないようにせねばなりませんな」


「ハッカー! アンタ、ちゃんとバックドアもチェックしときなさいよね!」


「分かってるよ……」


一見、緩慢な動き。

しかし、彼らの目的は明確だった。

目的地は、ある高官の執務室。


「執務室に着いたら、抵抗する前に拘束。そこで盟主さんを待つことにしよーよ。アサシン、頼むね」


「へいへい。あー、だりーな……」


神の国の幹部、そして『盟主』。

ついにその全容が、警視庁の闇の中に浮かび上がろうとしていた。

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