謎の集団
「あんな大柄な刑事、ウチにいたっけ……?」
悠真が不審に思った箇所をサブモニターに拡大表示し、司と志乃に共有する。
「……四課の熊田課長より一回り以上大きい。あんな規格外の体格をした人間、警視庁の全職員名簿にも載っていないはずよ。誰なの……?」
カメラに映るその男は、まさに「動く城壁」だった。
そして異様なのはその大男だけではない。
彼の背後には、およそ警察組織には似つかわしくない三人組が悠然と歩いていた。
小柄で神経質そうな若い男。
背中を丸め、枯れ木のように細身の老人。
そして、場違いなほど鮮やかな金髪をなびかせた、女子高生風の少女。
「志乃さん、顔認証の照合を急いで!」
「了解! ……ダメです、データベースにヒットしません。完全に『外部』の人間です!」
「直ちに各課に通達! 非常ベルを鳴らして! 全員、警戒レベルを最大に引き上げて!」
司の鋭い指示と同時に、庁舎内に警告音が鳴り響く。
映像の中では、異変に気づいた十数名の警官たちが、不審な四人組を取り囲もうと駆け寄っていくのが見えた。
「ただ誰かを訪ねてきただけ……ならいいのだけれど……」
司の微かな希望は、次の瞬間に打ち砕かれた。
「あっ!!」
悠真が声を上げる。
先頭を歩いていた大男が、警告を発しようとした警官の首を無造作に掴むと、紙屑のように壁際まで投げ飛ばしたのだ。
その一撃を合図に、現場の温度が沸騰する。
「不審者制圧!」の叫びとともに、周囲の警官たちが一斉に四人へ飛びかかる。
数からすれば圧倒的に警察側が有利。
ここは日本警察の中枢、警視庁なのだから。
しかし、モニターに映し出された光景は、一方的な「蹂躙」だった。
「あの子……信じられない強さだわ!」
大男が重戦車のように警官をなぎ倒す傍らで、金髪の少女が舞うように動く。最短距離で急所を打ち抜くその格闘術は、訓練された警官たちを赤子のようにあしらっていく。
「あの小柄な男性は……ただ隠れて見守っているだけですね」
「待って、あのおじいちゃん……何かやってる。……みんな、マスクを着けました!」
老人が古びた鞄から「それ」を取り出した瞬間、他の三人はあらかじめ用意していたかのように、奇怪な形状のマスクを装着した。
「あれは……ガスマスク!?」
司の血の気が一気に引く。
老人の手にある容器から、無色の死神が解き放たれようとしていた。
「全館に通達! 敵は何らかの神経ガス、または毒素を所持している! 全員、防護装備を着用して! 換気システムを遮断!」
司は叫びながら、コンソール横の非常用レバーを引き下げた。
警視庁全体を包み込む「完全封鎖」の重低音が足下から響いてくる。
「志乃さんと悠真くんは、ここから絶対に出ないで。司令室を内側から完全ロックして!」
「司さん、あなたは!?」
「私は……現場に向かう。これだけの戦力を投入して侵入してきたのよ、あいつらには明確な『目的』がある。ここで座して死を待つわけにはいかないわ」
司は、壁のロッカーから予備のガスマスクと特殊警棒をひったくった。
その瞳には、8年前のあの日に誓った「二度と仲間を失わない」という強い決意が、スタイリッシュな冷徹さとなって宿っていた。
「司令室を頼んだわよ」
一言だけ言い残すと、司は自動ドアの向こう側、静寂と悲鳴が入り混じる暗い廊下へと消えていった。




