間話(山の探索3)
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山に魔動物が出た。ホーンホースが持っていかれた。そんな噂がギルドに内に広がっていた。今のところは噂に過ぎないが、もし本当に大型の魔動物が住み着いたのであれば対策を練らなければならない。ギルドマスターは信頼できるいくつかのチームに声をかけたが、即対応できるところは少なかった。
当然、ジェニアスが率いるコアにも声が掛かった。
単なる調査に過ぎない簡単なはずの依頼。討伐は考えなくて良いが、万が一対処できないような魔動物だったら、損害無く退避して報告しなければなら無い。自チームの報酬の為だけではなく、安心して日常の狩りをする為の不安を払拭する為に、誰かがやらなければならない仕事なのだ。
ジェニアスは調査を受ける事にした。幸い八割ほどのメンバーが動ける。どうやってメンバーを分けようか頭の中でパーティー分けを考えていたらマリーが入って来るのを見つけた。マリーさんはパーティーに加わってくれないだろうか。挨拶を交わした後、勧誘してみたが、一応話は聞いてくれそうだ。ギルドでは落ち着いて話が出来なさそうなのでチームハウスへと案内して話をする事にした。
山に空を飛ぶ魔動物が出るらしい。ホーンホースもやられた。大型の魔動物という疑いがあり、本当に居るのか、デマなのか。調査をコアで引き受けたので手伝ってほしい。そうジェニアスはマリーに説明をする。
少し思案顔になったマリーだが、同意してくれた。さらにはいつも一緒にいる大きな男、ティーといったか、彼も同行してくれるとの事だ。実力が不明だか、マリーが保障すると言うからには、かなりの力の持ち主なんだろう。ジェニアスにとってはありがたい話だった。
コアのメンバーを三パーティに分けて調査を進める事になった。ジェニアスが率いるのはチームの中でもかなり攻撃力の高い魔法士二人モナ、リーン、それを守るべき盾士二人ジェニアス、レティ、弓士トレースと近接戦士ハッチ、それとマリー達二人、回復士とたぶん近接戦士だろう、合わせて八人だ。
マリーの実力は計りきれていないが、ソロで地竜を倒した事を考えると決して低くは無いはずだ。彼女とティーが加わってくれたのでジェニアスも大分気が楽になった。
マリー達は何時ものように真っ白な服装に身支度をして来た。全てが貴重なアルケニーシルクで作られているらしい。入手するのにいくらか掛かったのかジェニアスには想像もつかない。
馬車にメンバーが乗りこんだので出発する。万が一大物に遭遇したらと心配なのかみんなの口は重い、いつも口を閉じている事が少ないハッチですら黙り込んでいる。
山の麓で他のパーティと別れた後も馬車を進める。これ以上は馬車では無理なところまで進むとあとは徒歩だ。重い装備を身につけての山道は結構厳しい。だんだん急になって行く岩山。上までもうわずかとなったところでマリーが何かを感じたようだ。山の向こう側にやばいのが居る、みつからない様にしたほうが良いとの進言を受けてジェニアス達は腹ばいになって稜線まで登る。
辿り着いた稜線。頭を持ち上げて覗いたその向こう側には飛竜がいた。
お、おいっ・・こいつはまずい。最初から当たりを引いたって事か。見つかる前に撤退しないといかん。
マリーと目をあわせるジェニアス。同じ思いのようでお互いに頷いた。手振りで降りるぞと合図すると、全員がじりじりと後ずさりを始める。五メートル程も降りたろうか、誰かが落としてしまった岩が転がりながらガラガラと大きな音を立ててしまう。
ばかやろう、気づかれるぞ。心の中で悪態をつくジェニアス。
その音に気づいた飛竜が稜線から上に顔を出し、口を開いた。
やばい、ブレスが来る。ジェニアスは思わず叫んだ。
「ブレスだ、逃げろっ」
転がるように斜面を降りたが、火のブレスはそれより速い。端に居たレティの半身が火に炙られて大火傷を負い転倒してしまう。
「ぎゃぁっ」
一瞬にして燃え上がる髪、服。目も当てられない惨状だ。
マリーが戻ってきて治癒魔法を掛けが、こんな状態では治癒魔法も気休めにしかならないだろう。ジェニアスはブレスを受けた事、瀕死のメンバーが目の前に横たわっている事にショックを受けていた。
何度も治癒魔法を掛けるマリー。驚くべき事にレティの火傷が回復して行く。どんだけの魔力を使えばそんな事ができるんだ。
マリーは緑の宝石のようなものをレティに乗せてなおも回復魔法を掛け続けながらテイーに声を掛ける。ティーは大剣を抜き飛竜へと向かって行き、投石や、剣で気を引き始めた。
「マスター、彼女をお願い。モナさんとリーンさん、全力で攻撃してくれる? ティーさん三分持たせて」
マリーの言葉にジェニアスは「あ、ああ」と生返事をしてレティをブレスが直射しない岩陰へと運んで行く。
モナたちが放つ攻撃魔法の音が聞こえる。その間隔が普段より短い。焦って、かなり無理をして放っているんだろう。魔力が尽きなければいいが。ジェニアスは他人事の様に感じながら自分の体でレティを覆う様に岩陰に隠れていた。
「マスター、魔法士さん達は一度下がってもらいます。ガードお願いできます?」
「・・無理だ、あんなやつの相手なんて・・」
マリーの声にジェニアスは思わず答えしまう
「体勢立て直さないと、ほんとにみんなやられてしまいます」
物理攻撃も魔法攻撃も効かない相手にどうしろと言うんだ。
「・・・」
「マスター、しっかりしてください。チームマスターなんでしょ」
チームマスターだろうが、単なる盾士に過ぎない俺にどうしろって言うんだ。不甲斐無いのはジェニアスも判っていた。だがあんなブレスに自分の盾が通じるとは思えない。
「・・・」
「ジェニアス、あんたの股には、蚤のキンタ○すらぶら下がってないの?」
おい、そこまで言うか。
「それは言い過ぎだろう」
「あんたが皆を守らないで誰が守れるの、メンバーを引っ張って行くのがマスターの仕事じゃないの。今やらないで何時やるっていうの。メンバーがやられても良いって思ってるなら、今すぐ武器置いて一人で逃げれば良いじゃない」
マリーの言葉は至極当然だ。返事に詰まってしまうジェニアス。
「むう・・」
「お願いだから今だけお仕事して」
蔑む様な口調、もうチームのマスターとしてなんか認めないとでも言うようなマリーの言葉に我に返るジェニアス。
「わ、わかった・・」
こんな事ではいかん。たとえ自分の身に何があろうともメンバーを守るのがマスターとしての仕事じゃないか。しかも自分は盾士、最前線に立って敵の気を引いて防御の弱いメンバーを守らねば。
ジェニアスはレティの火傷を負っていない方の手をぎゅっと握り締めた。
頑張れ、俺は連中を守ってくる。
そう心の中で声を掛けると、立ち上がり岩陰から二人の魔法士のほうへと走り出す。
ふらつきながらも魔法を放ち続けてるモナとリーンの間を通り抜けて盾を構えるジェニアス。
「レティは大丈夫だ」
ふたりを安心させる為に声を掛ける。後ろからは二人の荒い息遣いが聞こえる。
「良かった」
「マスター、これきついよ」
「正念場だ、頑張ってくれ」
稜線ではティーが大剣を振り回している。その刀身は何故かゆらゆらと揺らいで見える。トレースは目を射ろうとしているのか弓を構えて狙いを定め、ハッチも短刀を握り締めて飛び込む隙を覗っている。
飛竜には魔法攻撃の痕や剣の傷が出来ていた。ティーが切りつける度、物理耐性が有る筈の飛竜に傷が増えて行く。
下から上がってきた飛竜はさらに大きかった。
二匹目か・・ ジェニアスは反射的に大きいほうへと駆け出す。あの小さいので手一杯なら、こいつは俺が抑えなければ。盾を構えて覚悟を決める。この場をしのげなければ後が無い。盾の取っ手を握り締めて叫ぶ。
「うおおぉぉぉっっ」
しばらく使っていなかった【限界突破】。盾と斧へと魔力を集めて飛竜をにらみつける。
飛竜が口を開く。ブレスか? さらに盾へと魔力を込める。受けるダメージを跳ね返す【反射】魔法を掛けると盾が膨らむように光を放った。
その横をとんでもなく熱い目に見えない何かが飛んで行く。なんだ? と思う間もなく飛竜は翼から煙が噴出してふらふら落ちていった。
飛竜が落ちて行くのを稜線のもう一匹が目で追う。今だ、ハッチは後ろへと走りこんで短剣を握り締めて尾の付け根へと突き立てた。
じゅっ
音を立てて刺さる短剣、ぎゅっと握りしめたままで体重をかけて引いて行く。柄がだんだん熱くなってくるが構わずに傷を広げて行くと飛竜は振り払おうと体を回すよう動かし始める。
「離れて」
マリーの声がハッチに届いた。刺さったままの短剣から手を離して横に転がったが、一瞬の後、全身に熱を感じた。
目を上げると、飛竜は胴体に穴が開き、煙が噴出して崩れ落ちるように動かなくなっていた。
な、なんだ、あれ。ハッチは呆然とまだ煙を上げている飛竜を眺めた。いったいどんな魔法を使えばこんな事が出来るんだよ。ハッチの知る限り、飛竜を一撃で仕留めるなんて魔法は存在しないのだ。想像を絶する魔法である事は間違いない。力が抜けて座り込むハッチ。
ジェニアスは稜線から気を緩めずに下を覗き込んでいた。落ちていった飛竜がまた上がってくるはず。
その横ではマリーがまた魔法陣を描いている。地面に描かれた魔法陣の上に妙な円盤、そこに描かれた魔法陣。円盤が角度を変えて細い緑の光が移動して行く。下に向かって行く光が飛竜に当たった。そして、また熱い目に見えない何かが飛んで行く。
飛竜の顔と胴体が煙に包まれ、何かが貫通した穴が開いた。力を飛竜はゆっくりと山肌から手足を離し転がり落ちていく。
ジェニアスはマリーのほうへと顔を向けた。既に魔法陣は消えている。マリーはやりすぎたかしらとでも言うような顔で落ちていく飛竜を見ていた。
「みんな大丈夫か」メンバーへと声を掛けるジェニアス。
「天国への階段を踏み外した」「無事ですよ」「まだ生きてるわ」「なんとかね」
稜線の倒れている飛竜へと足を進めるジェニアス。首の付け根に開いた穴は炭化すらしていて、まだすこし煙が残っている。回り込めば尾の付け根辺りにも穴が開いていて、こちらも同様だ。熱がハッチが刺したままの短剣を掠めたのか柄が溶けていた。
「ふうぅ・・なんとか生き延びたなぁ」
「もう駄目かと思いましたよ」「俺、引退したくなった」
ジェニアスの呟きにトレースとハッチが答える。
マリーへと視線を戻すジェニアス。そこでは剣を背に戻したティーがマリーを抱き上げようとしていた。
「いったいどうやって、いや、何かをしたんだよな」
「緊急事態だったので。今はそれ以上は言えません。それよりレティさんを」
「あ、ああ、そうだな。トレース、先に下りて街に連絡を」
比較的体力が残っていそうなトレースに馬車を任せるジェニアス。
「ティーさん、木の枝を二本。三メートル位で人を乗せても大丈夫な太さのを下で拾ってきて」
ティーに話しかけるマリー。ティーは頷くとすたすたと坂道を降りていった。マリーはレティのところでティーの胸から降りるとまた治癒を掛ける。
何度治癒を掛けた? 治癒は魔力をかなり使うはずだ。とっくに魔力が枯渇してるはずなのに平然としているマリーを見てジェニアスは絶対にこいつは普通じゃないと改めて思う。
ハッチは自分が使っていた短刀が溶けているのを見てがっかりしていた。やっと使い慣れて来たところだったのだ。その威力は呆れるほどに高かった。殆どの獲物が一撃で始末できていたのだ。
ああ、またちまちまとやるしか無くなっちまったなあ。
ティーが木の枝を持ち帰った。マリーはローブを脱いでその二本の枝に袖を通し、裾を縛る、テイーも上着も脱いで同様に。即席の担架が出来上がる。
「こいつは・・・」
木の枝を杖にでもするのかとジェニアスは思っていたがこんな使い方をするとは。この知識、あの魔法の威力、マリーが経験豊富なエルフだという噂は本当なのかもしれない。いや、単に経験豊富だなんてレベルじゃない、いったい何者なんだ彼女は。
レティを担架に乗せ、テイーとジェニアス、ハッチの三人で揺らさないようにゆっくりと降ろして行く。その後をモナとリーン、マリーが続く。
やっと麓の道まで降りて来た一行は樹の陰へレティを寝かせた。またマリーが治癒を掛ける。
「男の人はあっち向いてて。それとモナさんリーンさん、上着を貸してください」
マリーの言葉に慌てて背中を向ける男達。マリーは炭化した服をナイフで切り開き、素肌へと何度も治癒を掛けていく。
「ううっ」レティがうめきを上げた。弱々しく目を開く。
「レティ、治癒してもらってるから大丈夫よ」
「気をしっかりね」
モナとリーンが傍で声を掛ける。マリーはもう大丈夫と判断したのだろう治癒魔法を中断して素肌の体を隠すように上着を掛けてから隣の木の幹へと座り込んだ。
トレースが街の連中を連れて戻ってきたら、また大騒ぎになるだろうな。地竜のときですらとんでもない事になったんだ。今度は飛竜、しかも、でかいのが二体。現物が無けりゃ誰も信じないだろうが。二体の素材を回収する作業の事を考えると頭が痛くなるジェニアスだった。
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