22 山の探索1
毎日魔法士連盟の図書館に入りびたりだったあたしなんだけど、やっと魔法陣の本も全部記憶し終わったの。後は王室の図書館くらいしか残って無いのかなあ、でも冒険者ギルド事務所にも魔法陣の本があるかもしれないと思い、ギルドに来て見たのね。
冒険者ギルドはいつに無く喧騒の渦だったの。どうしたのかしらねと佇んでいたら肩をぽんと叩かれたよ。振り向くとコアのマスターのジェニアスさんが深刻そうな顔をして立っていたの。
「こんにちは」
「こんにちは。いいところで会った、ちょっと相談があるんだが」
「相談ですか? 構いませんが」
ギルドの中のテーブルでは無くコアのチームハウスへと連れて行かれたのはなんだか悪い予感がするんですけどね。
「ギルドも、騒がしかったろう? 実は山に空を飛ぶ魔動物が出るらしいんだ。ホーンホースがやられたという話も出ている」
「魔鳥でしょうか。でも馬がやられるって、相当たくさん居るのかしら」
「いや、馬一頭まるまる持っていかれたらしい。という事は大型の魔動物って事な訳だ。そして、その調査をコアで受けたんだよ」
「調査ですか?」
「ああ、本当に居るのか、デマなのか。居るのであれば何が居るのか。ドラゴンっことは無いだろうが、グリフォンか或いは別の代物なのか。もし暇なようなら、調査を手伝ってもらえないだろうかと思ってね。学校はまだ休みなんだろう?」
確かに長休みはまだ十日ほど残っている。それにグリフォンといわれると、何時も禿げ山から追い払っているアレが頭に浮かぶ。どこか他の山へと移動したって事もあるかもしれない。それはあたしも絡む話だものね。それに地竜を倒した事のあるあたしが一緒に居ればどれくらい気が楽になるか。そう考えると頷くしかなかったわ。
「わかりました。二~三日くらいなら都合をつけます」
「おお、そう言って貰うと助かるよ。三方向に手分けをしたかったんだが生憎と人数が揃わなくてなぁ」
「そうなんですね。じゃあ、あたしの仲間も同行しましょうか」
「腕は大丈夫なのか? 万が一当たりを引いたら逃げてこなくちゃならんのだが」
「それは大丈夫です。それに、山に登るとしたらあたしの体力では問題ありそうですし」
狩りの正装に身を固めたあたしとティーさんはコアのチームハウスへと行ったの。コアのメンバーで動ける人たちをかき集めた三パーティが待っていたわ。それぞれ別の山を探す事になったのね。
ジェニアスさんが率いるパーティーは本人の他に盾士が1名、レティさんという女性。モナさんとリーンさん。いずれも女性で遠距離魔法が得意な魔法士。弓士のトレースさんと近接系のハッチさん。そしてあたしと近接系のティーさん、計八人になったの。回復は当然あたしのお仕事って事ね。
三パーティは、別の馬車に乗って出発したの。なんだかみんなの言葉数が少ないのはやはり当たりを引いてしまった時の事が頭に浮かぶからかしらね。
山の麓で別れて、馬車が進めるところまで行きついてしまうと後は徒歩で山に登ることになるの。あたしはティーさんの胸に抱き上げられたままですけどね。もちろん歩きながら定期的に【魔力探知】をかけています。不意打ちは嫌ですもの。
だんだん急になって行く岩山を転落しない様に気をつけながら上って行くと、【魔力探知】で馬鹿でかい魔力を感じたの。ティーさんに下へ降ろしてもらい、体を回して魔力源を探り、十メートルほど登ってもう一度魔力源を探ったわ。【探知】の結果は四百メートルほど離れたところ、稜線の向こう側ね。ティーさんにまた抱き上げてもらい、先頭を歩くジェニアスさんのところへと走ってもらったの。
「マスター、ちょっとストップです。山の稜線の向こう側にやばそうなのが居る様なの」
「稜線の向こう側? 見えないところに居るのがわかるのか?」
「予想でも、予言でも、何でもいいけど、かなりやばいと思います。見つからない様にしたほうが良いかと」
「一体か? それとも複数いるのか?」
「多分、一体ですね。」
あたし達はゆっくりと稜線へと這い進んで、そっと頭を突き出し、稜線の向こう側を覗いたの。
そこには飛膜のある翼を生やした大きな体が浮かんでいたのよ。
反射的に【認識】をかけたわ。
まずい。【認識】の結果は飛竜だ。確か図書館にあった魔動物詳細解説の本では魔力を保持していて、物理耐性、魔法耐性があり、自らも火魔法風魔法を使うって載っていた。
ジェニアスさんの方を覗うと視線が合い、お互いに頷いて全員じりじりと後ずさって稜線から降り始めたのね。
五メートル程も降りたろうか、ハッチさんが足をかけた岩が転がり落ちていった。ハッチさんは何とか手で掴まって転落しなかったけど、岩は転がりながら周りの小石とかを巻き込んでガラガラと大きな音を立ててしまった。
物音に気づいたのか飛竜が稜線から上に顔を出したわ。あたし達が居るのにも気づいた様なの。こちらへと顔を向けて口を開く飛竜。ジェニアスさんが叫んだわ。
「ブレスだ、逃げろっ」
転がるように斜面を降りる後ろから追いかけてくる火のブレス。端に居たレティさんの半身が火に包まれてしまう。
「ぎゃぁっ」
炭化してしまう髪や服、レティさんは酷い火傷を負って意識を失ってしまったの。
「ティーさん」
あたしの切羽詰った声にティーさんは頷いて、背中の二メートルもある大剣を抜きながら立ち上がり、飛竜の方へ向かって行った。片手で石を投げたり、剣を振り回したりして気を引いてくれてる。
レティさんに【治癒】をかけたわ。でも火傷が酷い、あたしは鞄から緑の魔宝石を取り出してレティさんの体に乗せて生命力を補充しながら何度も【治癒】をかけるの。少し回復した様だけれど、この場所に居たままではこれ以上は何も出来ない。
「マスター、彼女をお願い。モナさんとリーンさん、全力で攻撃してくれる? ティーさん三分持たせて」
勝手にメンバーに指示を出してごめんなさいと心の中で謝りながら、魔法陣を描き始めたの。
モナさんとリーンさんがかなりの威力の魔法を放ってるけど、流石に物理耐性魔法耐性がある飛竜が相手、擦り傷くらいにしかなっていないのね。
やっと描き終わった魔法陣、【気槌】を起動したわ。大量の風をまともに受けた飛竜は体勢を崩して稜線上へ落下して来るの。
ずしん。
音を立てて着地した飛竜は、大きく口を開いて「ぎあぁぁぁっっっ」と威嚇するように咆えた。
攻撃魔法が当たる合間にティーさんが剣で切り付けすぐに引く、トレースさんも矢を放つ。ハッチさんは短剣を構えるけどなかなか傍までは近寄れず、何か方法を考えなければ、と焦るばかりみたい。
あたしは後ろへ回る事が出来ないかと辺りを見回したんだけど、ふと、もう一つの魔力を感じてもう一度【探知】をかけたの。稜線の向こうにもっと大きな魔力が有る。この飛竜の片割れなんだろうか。叫びを耳にしたんだろう急速に接近してくるの。
やばい、やばい、やばいよ。こんなのがもう一匹ですって?




