19 試用の結果
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素材集めに狩りに出たコアのメンバー達は馬車に乗って山の方向へと馬車を進めていた。
「ハッチ、それが例の短剣か?」
いつも使っている短剣は背の荷物入れへと仕舞い込んで、ハッチが腰に下げているのはマリーから預かった短剣だ。タバサはそれを見て声を掛ける。
「そうだよ、どんくらい使えるか試して欲しいってさ」
飄々と答えるハッチ。
「まあ狩りに支障が無けりゃ良いがな。使い慣れて無いんだろうから慎重に行けよな」
「わーってらぃ」
しばらく馬鹿話をしながら進んでいくメンバー達。
狩場が近づいて来たので、適当に馬車から降りて獲物を探し始めた。
「おう、居たぞ」
先頭を進んでいたタバサが大蟷螂を見つけて盾を構えながら走っていく。ハッチは大きく迂回して後ろへと回る。
タバサが前に回り盾で体を守りながら挑発、ハッチは静かに後ろから近づいて背に飛び乗りながら頭や首に短剣で最初の一撃を与えるというのか何時ものやり方なのだ。
「ほらほらほら、そんななまくらでこのタバサ様に傷なんて付けられっかよ」
大きな声で挑発しながら盾と斧で大蟷螂の鋭い両鎌の攻撃をしのぐタバサ。ハッチは気づかれぬように後ろから近づいて行き、短刀を両手で握り締めて飛びかかった。頭の付け根へと短刀が触れて・・・
ゴロン
大蟷螂の頭が地面へと落ちて転がった。続いて胴体がどさっと倒れ、ぴくぴくと痙攣している。
「えっ… なんだこれ。殆ど抵抗なく切れちまったぞ」
ハッチは手に持ってい短刀を信じられない様に眺める。
「一撃ですか」 馬車を進めてきた弓士のトレースも信じられないものを見たという顔だ。
「剣でもなかなか切れないんだが、クリティカルヒットってやつか?」
「楽に狩れたんなら良いじゃない。ハッチさんのアタックは何時もハラハラして見てるんだからさ」
長い槍を肩に担いだままの戦士マッツさん、回復士のノンノさんも集まってきた。
倒した大蟷螂は馬車に積み込んでもっと先へと進む。
「やべっ、岩トカゲ、二匹いる」
先頭を行くタバサが見つけて少し焦った声になる。やや小さめの岩トカゲだがそれでも二メートル半はある。今いるメンバー五人だけでは一匹倒すのにも時間が掛かりそうだ。しかも二匹いるのでは厳しいかもしれない。
「どうする、諦めて引くか?」
「いや、こいつを使ってみたい、タバサとマッツ、抑え頼む」
短刀を握り締めるハッチ。
「判った、やばくなったら逃げんぞ。マッツ、右のやつ頼むぜ」
「へいへい」
タバサは左の岩トカゲへと向かい、盾を突き出しながら斧を構える。マッツは長い槍を右の岩トカゲへと差し出して威嚇し始めた。 回り込んだハッチは後ろから岩トカゲに跨るように飛び乗って目の辺りへと短刀を突きたて、ぎゅっと握り締める。
殆ど抵抗無くするっと根元まで目の中へと埋まる短刀、そこから細い煙と肉が焼ける匂いが・・・なんだこれ、と思いながらもハッチは猛烈な勢いで暴れ始めた岩トカゲから振り落とされまいとして短刀を握り締めたまま、逆の片手と両足でしがみ付く。
二秒もそうしていただろうか、動きが弱くなった岩トカゲから短刀を引き抜いてもう一匹のほうへと体を向け、マッツの槍に齧りついているそいつの首の辺りへと短刀で切りつけた。
ジュッと音を立てて岩トカゲの首が半分ほども切り裂かれる。胴体を飛び越えるようにして逆側も切り裂くと岩トカゲはたちまち動かなくなった。計二体がほんの十秒足らずで単なる素材と化したのだ。
「や、やべーよこれ」
軽く切りつけただけなのに岩トカゲの首はもげそうになっている。自分が行った行為の結果に唖然としながら呟くようにそんな言葉を口にするハッチ。
「おいおい、どうなってんだ」
タバサが不審半分、呆れ半分に言う。コアのメンバーにとっては岩トカゲ二体を瞬殺なんてのはどう考えても有り得ない事だった。火の魔法もなかなか効かない、剣も傷を付けるのがやっとの硬い皮膚の岩トカゲなのだ。
「いや、俺の力じゃねーよ。」
そばの樹に短刀を突き刺してみる。先が少し刺さってそれきり・・・のはずが、幹が炭化しつつずぶずぶと奥へと刺さっていく短刀。あっという間に根元まで埋まってしまい、白い蒸気が薄煙となりついには発火してしまう。慌てて短刀を抜くハッチ。発火した木も生木なのでそう簡単には燃え上がらずにぶすぶすと煙っている。握り締めた短刀を落ちていた石に当ててみると、刃の当たった部分が解けて石が真っ二つに。
「げっ、石まで真っ二つかよ。こいつに切れないものなんて有るのかよ」
あまりにも衝撃的な短刀の威力に黙り込んでしまうハッチだったが、他のメンバーは脅威であったはずの岩トカゲが動かなくなったので暢気に喋り始める。
「おわたおわた」「なんか、何もしないで終わったなあ」「ねえ、なんだか美味しそうな匂いしない?」「腹減ったよな」「昼にするか」「確か岩トカゲって、旨かったよなぁ」
おい、そう言う場合かよ。おめーら、軽過ぎねーか? ハッチは思うが、元々人の良い性格である。他人事に過ぎないメンバー達に言いくるめられて岩トカゲの肉をスライスさせられてしまう羽目に。
「切る傍から焼けていくのだから、便利だね」と誰かが言う。
「そう言う問題じゃないだろうがぁぁ…」
岩トカゲを囲んで肉をぱくつき始めたメンバーの前では、ハッチの叫びも空しく響くだけだった。
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一週間後、またコアのチームハウスへと向かったあたし。
「こんにちはー」
ハッチさんが神妙な顔で待っていたのよ。マスターと三人で会議室に入るやいなや、ハッチさんが短刀を差し出してきた。
「こんなとんでもないもの、返すよ」
「とんでもないって、使えなかったですか」
「いや、そう言う意味じゃないんだ。」
よく聞き出すと、短刀は見事に働いてくれた。硬くて刃の通らない岩トカゲの首の皮を何の抵抗も無く切り裂いた。樹に刺せば樹が燃えた。まさしく伝説として聞いていた炎の短刀そのものだった。では何がとんでもないのかなぁ。
「俺はこんな伝説の様な代物を使いこなす程の人間じゃないんだよ。この短刀、切れない物なんて無いんじゃないか?それに、こんな短刀をひょいとたいして知りもしない他人に渡せるようなマリーさん、あんたが一番怖いんだが」
「むう、それは私も気になって居たんだ。一人で地竜を倒す腕があり、伝説の短刀を入手できる人間って、いったい何者なんだろうね。マリーさん」
ジェニアスさんまでもが追求するような視線を投げてくる。
いや、まだ話せないわ。もう少し時間が欲しい。
「見ての通りです。今はまだお話できる事はありません」
「今はまだ、と言ったな。いずれは話してくれるという解釈で良いのか」
おお、さすがに人を束ねる立場の人は突っ込むところが適切だなぁ。
「そうですね。いずれきちんとお話できると思います」
「ふむ。何度もはぐらかされているんだが・・」
「嘘は突きたく有りませんので」
「・・・・・・いずれは聞かせて欲しいものだな」
「判っています」
「今回のお詫びとして、これはハッチさんに差し上げます」
「差し上げるって、だめだよ、こんなもん受け取れねえよ」
あたしはハッチさんの手に無理やり短刀を握らせたの。
「使える人が使う、それが自然でしょう?あたしでは短刀は使えないもの。だからこれは受け取ってくださいね」
「いや、しかし・・・」
「役立ったんでしょ」
「ああ、だが・・・」
「それと、お試しして貰ったのですから依頼料を払わないといけないですよね」そう言いながら鞄から金貨を一枚取り出して短刀の上に乗せたの。
ジェニアスさんがハッチさんの肩をぽんと叩いたわ。
「お互いに引かない様だから、貰うんじゃなくて、預かるって事にして置いたらどうだ。」
しぶしぶハッチさんも同意したので、短刀に関してはこれでおしまいとなったの。
他の人に押し付けるって言うのも、結構面倒なのねぇ。




