5 領主だった
やっと頼んでいた服とローブが出来てきたの。防具店に行って受け取ると、早速宿の部屋でお着替え。服のほうは細い糸で織ってあるので少し柔らかめで着心地も悪くないわ。ローブは丈夫な事この上なしね。
白に少しだけ黄色みが混じった、アイボリーとも違う微妙な色。生成り木綿の色とも違うのよ。まあ、機能重視だから色なんて何でも良いんだけどね。
出来上がりを待っていた物がやっと手に入ったので、王都へと向かう事にしたわ。毎度毎度ティーさんに乗せて貰うのも目立つから、荷馬車を買う事にしたの。中古品だけどバイホーンホースとセットで金貨2枚、幸いアルケニーシルクがお金になったので余裕です。
ティーさんと二人で馬車に乗って、のんびりと道を進んで3日目。道の片側に広いお花畑、いや誰かが耕してるわけじゃないから畑じゃないんだけどね。一面花が咲いていたの。
「うわぁ、綺麗だわぁ」
「ああ、こんなところも在るんだな」
思わず荷馬車を停めて、あたしはお花畑の中へと足を向けたの。もちろん変な魔動物がいないか【探知】で確かめてからね。赤、黄色、ピンク、オレンジ、紫、色とりどりの花が一面に咲き誇っている広場、花を踏み付けない様に気をつけながら歩いていったわ。
小さい花や大きな花、可憐な花とかたくさん咲いているのだけど、密集して集まっているところから微かな魔力を感じたの。目には見えないのだけど、しゃがみ込んで手を差し伸べて見たら、形のない何かが手に乗った様な気がした。
これって、ひょっとして花の精?
そっと魔力を手から出してみたら、なんだか喜んでいるみたいに手のひらの上で場所を変えるの。なんか踊ってるみたいな感じ。
きっと、花の精さんも魔力が欲しいのね。あたしはゆっくりと魔力をあげたわ。
しばらくすると手のひらの上の何かがぼんやりと光を放ち始めて、小さな人の形になって行くの。背中には2対の羽がついているみたい。とっても可愛いの。
「お腹一杯になるまで、どうぞ~」
「花の精か」いつの間にか隣に来ていたティーさん。
「あ、ティーさん。足りたかどうか花の精さんに聞いてみたり出来ます?」
「多分通じるだろう」花の精に顔を向けるティーさん。
「もう十分だそうだ」
花の精さん曰く、花から生まれるのだけど、大抵夜になると花が閉じて魔力が途切れてしまい、朝を迎えられる子は殆ど居ない。ある程度日数を生き延びれた子だけが成長できるんだとか。哀しい子達なんだね。
「他の場所へ行ってみたいと言っているが」
「ここの花から離れて大丈夫なの?」
「このくらい大きくなれば平気らしい。出来れば花を一株掘って、別の場所に植えて欲しいそうだ」
「それはぜんぜん構わないんだけどね。一晩経ったら消えてしまうとか、そんなのはいやだよ」
「大丈夫だと」
「ならいいよ、一緒に旅しようか」
ティーさんに花を掘ってもらい、鉢とかは無いので、荷馬車の床に土で山を作ってそこにお花を植えて、念の為にバイホーンホース用の水を掛けてあげて、また荷馬車を走らせたの。
花の精はあたしの周りをくるくると飛び回ったり、肩や頭に留まったりと、嬉しそう。お話は出来ないんだけどね、次の村が見えた頃には友達になったような気がして居たりするのよ。
村で、お花の鉢を強引に譲ってもらって、植え替えしてあげたわ。お水も貰って掛けてあげたの。生憎と泊まる所は無かったので、馬車の中で寝る事になったけど、厚い毛皮を積んで来たから床もそう固くはなかったよ。
翌日には、食材やパンを買い込んで、また道を進み始めたの。数日後には次の大きな街に着いたのね。街の入り口には衛兵のような人が居て、一人ずつ確認をして居たわ。協会員の証明書があるからすんなり通してもらえたけど、花の精さんをとても珍しげに見ていたのよ。
大きな街に入ると、人が沢山居て、馬車では進めそうに無かったの。馬車が並んで置いてある所で預かってくれるそうで、ティーさんと二人で馬車から降りて街を見て歩く事にしたわ。宿も探さないとまた馬車で寝る事になっちゃうしね。
歩くあたしの回りを花の精さんがうろちょろ。迷子にならないでね。そう思っていると、横のほうから声を掛けられたの。
「おい、お前、それは妖精か?珍しいのを連れているな。わしが買い取ってやろう。金貨1枚で良いだろうな。」
なにこの人。友達を売るわけ無いでしょ。
「友達、売る、無い、ごめん」
そう答えて道を進もうとしたら怒り出しちゃった。
「なんだ、無礼なやつだな。わしはこのテブリアの街の領主、エリクソンだ。見たところ冒険者のようだが平民だろう?貴族に向かってなんて口を利くんだ。さっさとよこさんか。」
「貴族、何でも、通用、無い。あたし、誰にも、従属する、無い、自由人、賢者、マリー・フリーマン。あなた、行動、指示、謂れ、無い」
言葉さえきちんと話せれば、
「貴族だとしても、何でも通用するって事は無いでしょう。あたしは、誰にも従属する事の無い、自由人にして賢者、マリー・フリーマン。あなたに行動を指示される謂れは有りません」
と言いたかったんだけどね。うろ覚えの共通語じゃそこまで流暢にはしゃべれませんでした。
「賢者がどうした、お前みたいな子供が何を言うか。おい、この生意気なガキを少し痛い目に合わせてやれ。」
護衛のように付き従っていた金属の鎧を着けた男達が剣を抜いた。あたしは反射的に杖を前へと突き出したわ。
「すまんな、領主のいいつけだ」
あまりやる気なさそうに剣を振り下ろす男、やばい、杖で受けたら杖が切れちゃう。と、横からティーさんが剣を差し出して受けてくれた。
あたしは剣を持つ手、籠手のような防具の上から【加熱】。もちろん熱くて剣が持てないだけってくらいに加減したよ。当然剣を落とす護衛さん。火傷位しただろうなぁ。
二人目が向かってきた。地面の足へと【冷凍】。足が地面に張り付いしまい、当然転倒しますよね。がしゃーんと鎧が音を立てる。
領主はこんな状況になったのが信じられないような顔になっていた。逆らう人間が居るって事。連れていた男達が軽くひねられた事。
「な、なんなんだお前。貴族に逆らうのか」
「襲われる、防衛、正しい」
「おい、こいつらを何とかしろ」残った二人へと指示する領主。
振り下ろされる剣、あたしのローブに当たったけど流石にアルレニーシルクは切れる事無く、剣は滑らされて地面へと。でも切っ先が体に当たって痛かったですよ。当たった衝撃はどうしようもないものね。
地面に少しめり込んだ剣へ【冷凍】。剣はもう地面に凍り付いて一体化してしまう。
最後の一人は領主って男を守るように前へ立ちはだかった。
「止める、正しい?これ」そう言ってみる。
領主は3人もが簡単にやられてしまったのかショックなのか青い顔になっていた。
「このままでは済まさん。覚えて置け。投獄してやる」
なんか捨て台詞?もう関わり合いたく無いんですけどねぇ。
役に立たなくなった3人を連れて領主は引き上げて行ったわ。傍に居たおじさんが話しかけてきた。
「旅の人なんだろうけど、まずいなあ。あれ、本人も言っていたけどこの街の領主なんだ。やりたい放題なんだが、貴族なもんだから誰も逆らえんのさ。あんた達、やっちまったろう?姿を消すとか考えないと、牢屋にぶち込まれるか、下手すりゃ殺されちまうよ」
「理不尽、通用?」
「この国では貴族が力を持ってるからね。平民のいう事なんて無視されるのが当たり前なのさ」
「住む、困難、この国」 いや、住みにくい国なんですねと言いたかったんだけどね。早いところ言葉覚えないといけないね。
男は頷くと係わり合いになるのが嫌なのか人ごみへと姿を消して行ったの。
「ちょっと厄介な事になったわ」
「あの領主って男を始末しちまえば良いんじゃないのか」
うーん、テイーさんといい精霊さん達といい、過激なのよねぇ。まあ契約した人以外の人間の事なんてどうでも良い事よね、それは判るわ。
「領主だったら何をしても許されるって事も無いと思うのよね。そんな無法な事。領主の悪さをどこかに訴えましょう」
「マリーがそうしたいなら。俺は構わん」
冒険者協会に行って、領主の行為を訴えるにはどうすればいいか尋ねたの。王都にそう言う窓口が在るには在るけれど、訴えが認められた事は無いそうな。でも、そこに訴えを出すしか無いのよ。
のんびりしている暇は無いわ。食料とか水とかを買い込んで王都へ向けて出発。せっかく買った荷馬車を放置も出来ないし、王都まで何日掛かるのかなあ。




