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白の賢者 ~転生先は魔法の世界~  作者: 春野霞
第一章 
18/44

18 転落の後

 「まだお嬢様達は戻ってないんですねぇ」

 起きて身支度を済ませたリンは玄関先の靴を見て呟く。外から帰ると汚れた靴を玄関先で脱ぐのがメアリー達の習慣なので、並んでいる靴を見れば居るのかいないのかがわかるのだ。メアリーは学校の寮に泊まる事が多いが、二人とも居ないとするとどこか遠い所に出かけたのかも知れない。そんな事を思いつつ掃除を始めるリン。

 一階を掃除し終わり二階へ、メアリーの寝室へと入り、使われた形跡の無いベッドをそのままにして窓を開けると外から吹き込まれるやわらかい風に室内の空気がふわっと揺れる。

 ふと机の上に封筒らしきものが在るのに気づき、リンは取り上げた。

 

リンへ


 リンは宛名が自分だという事に気づくと、少しだけ動揺してしまう。えっと・・・私なにかいけない事してしまったのかしら。まさか解雇されるとか?どきどきしながら封のされていない封筒を開けると中には少しだけ小さめの封筒と手紙があった


 リンへ。この手紙は私とティーが二人とも2日戻らなかったときに開けてください。


 それだけが書かれている便箋。

 メアリーはともかく、ティーが何も言わずに何日も家に戻らなかった事は無い。なにか悪い事でも起きたのかしら。慌ててかっちりと封のされている封筒を開けるリン


 申し訳ないのだけれど、暫らく旅に出てきます。次の事、お願いします。

1.ケイト先生に手紙を渡してください。家の中に有る物についてはケイト先生から指示をもらってください

2.リンは次のお仕事を探す事になると思いますが、決まる迄ここに居て良いです


 リンは同封されていた一回り小さい封筒をしっかりと掴んで急いでケイト先生のところへと向かった。先生に手紙を渡すとメアリーが行方不明だという噂を耳にしていた先生は慌てて手紙を開く。


 暫らく旅に出てきます。家の中に有る物については適当に処分をお願いします。しばらく戻れないと思いますので、リンが次の仕事を見つけるまであの家を借りておいてください。

 ご面倒をおかけします。


「あんのバカ娘が・・」

 

 噂の通り、厄介事に巻きこまれて。自分に何かが起きることを知っていたかのような文面にケイトは思わず呟いた。


 「メアリーの様子はどうだったの?変わった様子は無かった?」 

 「そういえばティーさんと話し込んでいましたね。最近困った顔をする事が多かったようです」

 「そうか、あのバカ息子だものなぁ」

 さすがに王都に長く居るケイト、ウインター伯爵家の話は耳にしていたようだ。


 家に着き、置いてある荷物を調べ始めると、物入れに木箱が置いてあった。ケイトは箱を開け、中の物を取り出す。布に包まれた長いもの、小さめの包みが二つ。くるまれた布を剥がすと魔法使い用の杖が1本。ねじくれた木で出来ていている。


「な、なによこれ、まさかエルフの杖?」


 ケイトが慌てた声を出す。

 小さめの包みを開けて見ると小分けされた袋の中には10数枚の金貨が入っている。もう一つの包みには魔石が数十個、さらに厳重にくるまれた小さい包みには、緑と水色と青い魔宝石が一つずつ。


 「こ、こんなもの処分しろって、あの子何考えてるのよ」

 思わず呟くケイト。エルフの杖がもし本物なら1本で金貨10枚以上の価値があるはず。前回押し付けられた魔宝石は3つに増えている、途轍もない価値の代物だ。






 メアリーが転落して7日後、メアリーが育った村を一人の男が訪ねてきた。ゆっくりとメアリーの家に向かって歩んでいく。ドアをノックして返事を待って中へと。


 「暫らくぶりです。」4人が揃ったリビングで頭を下げるティー。

 「今日はメアリーさんの事でお邪魔しました」そう告げる言葉に、両親の顔が強張る。メアリーが来ていないという事は何かが起きたという事なのだ。シャルロットだけは何の事だか意味も判っていないのだろう、両手で持った果実ジュースのコップを玩ぶようにして見ている。

 「先日の事ですが、メアリーは評判の良くない貴族に絡まれてしまいまして。あの通りの可愛らしさと、年齢に似合わぬ回復魔法を使うという事を知られてしまい、伯爵の子息と言う下劣な男が我が物にしようとしたのです。もちろんメアリーは拒絶したのですが、どうにも性質の悪い相手でした。」

 険しい顔になる父親。

 「それでメアリーは?メアリーは無事なのか?」

 「崖から転落しました。崖下では見付からなかった様です。行方がわかりません。」

 深刻な事態のはずだが、なぜかティーの顔は明るい。

 「そんなぁ・・」「なんて事だ」母親父親の顔には絶望が浮かぶ。


 「ただ、俺はメアリーが死んだとは思っていません。崖下ではメアリーが着ていたローブの切れ端と折れた杖が見つかっただけで、他には何も見つかっていないんですよ。」

 ティーは、笑顔でそう説明をする。言葉には出来ないが、メアリーは死んでは居ない。安心して欲しいと。


「俺はメアリーを探して旅に出るつもりです。隣の国まで」


父親は暫し口をつぐんで何かを考え始めた。


「そういう事か・・」

「そういう事にしておいたほうが良いかと」

「なるほど、判った。あの子の事、よろしく頼む」

「メアリーが死んでしまったわけではないのね」

「死んだという証拠は何もありませんね」

やっと両親の顔に安堵が浮かんだ。言葉に出来ない事が伝わったのだ。

「かなり面倒くさい伯爵のようなので、ご両親も十分御気をつけてください」

「判った。少なくともこの村では好き放題のことはさせない」

「では。俺もすぐに旅立ちますので」


 見送られて家を出たティー。道路を通って引きあげる事はせずに裏のほうへと。どんどん進んで行き、精霊の泉へと辿り着いた。

 「精霊達よ、メアリーから伝言がある」

 ティーの声にすぐに姿を現す大精霊達。

 「白虎さん、メアリーさんも大変でしたね。願い事、なんなりと」

 王都で遭った出来事など精霊の耳にはすぐに伝わるようだ。


 「メアリーの、あの家族を守ってやって欲しい。それがメアリーの願いだ。俺からもお願いする。力を貸してやってくれ。」

 「メアリーさんの願いとあらば、我々の全力を持って。」

4人の大精霊が大きく頷く。これ以上の加護など、この世界に有りはしないだろう。ティーはほっとして小さく頭を下げると、元の虎の姿となり、泉の前から疾駆して姿を消した。




 その後、メアリーの家の周りには常に小さな妖精たちが見守るように飛び交い、悪意を持った人間や、迷った魔動物は村に入れなくなった。

 


 フリードマン一家が住む村では、以前にも増して穏やかな日々が続いて行く事になる。


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