17 伯爵の息子だった
とうさまが帰ってきて、我が家は全員がそろったの。あたしはティーさんをみんなに紹介したわ。
「王都で一緒に行動しているティーさん。強いから護衛みたいな事もしてもらってるの。探索者組合にはまだ加盟してない。帰ったらする予定。」
「娘が世話になっている様ですな、好きな事をさせて来たので我侭が過ぎるようなら叱ってやって下さい」
「いやいや、こちらこそ放浪の身を面倒見てもらってます」
うーん、大人の会話だ。
思っていたよりもすぐにティーさんは家族と打ち解けてくれて、王都の色んな事や、放浪の旅の事を遅い時間まで話していたの。ついにシャルちゃんがおねむになって、あたしの手を掴んだまま寝室へと、可愛い妹と二人で夢の国へと旅立ったよ。
翌朝、あたし達は王都へ帰る事にした。4人に見送られながらティーさんと歩いて村を出たのね。しばらく歩いて、周りに誰も居なくなったので、ティーさんに元の姿に戻ってもらい、背中に乗ったわ。首の辺りをぎゅっと掴んで、ティーさん超特急出発ぅ。
いやあ、速いのなんのって・・大きく上下に揺れるものだから、すぐに乗り物酔い。慣れないと無理だわこれ。一休みして、少しゆっくりと進んでもらったの。それでも王都には2日で着いてしまった。さすがに超特急ですね。
王都の近くでティーさんには人の姿になってもらい、左腕で胸の辺りに抱きかかえられた姿で家まで帰ったの。目立つ、目立つ。注目の的ですね。多分、小さな子をペットのように可愛がっている大男って感じで見られていたんじゃないかしら。
家に帰ると、リンさんが初対面のティーさんに不審げな顔を向けて来た。トラルクさんは自分の街に帰って行って、その友達であるティーさんを紹介されたので、一緒に帰って来たと説明しましたよ。やっと納得したのか、よろしくお願いしますと頭を下げていました。
寮へと戻ると同室のシンディさんも、それは暖かく出迎えてくれました。
「きゃぁぁ、寂しかったのょぉ、あたしのメアリーちゃんが居なくって。」
抱き上げられて、頬ずり、梳り、顔のチェックとフルコースでした。これ、溺愛に近いんじゃないでしょうか。
「新しいお洋服用意して有るのよ、そのうち着てみましょうねぇ。そして美味しいお店も見つけたから一緒にねぇ」
決して悪い人では無いんですが、どうも面倒見が良すぎるんですよねえ。お風呂で念入りに髪を洗われて、さらさらにして貰ったから、我慢します。
用意して有った洋服というのはパステルピンクのワンピースで、高価なはずのフリルとリボンがふんだんに使われて居たの。どこかのアニメのさくらちゃんじゃあるまいし、体は6歳だけど精神的にはもうアラサーのあたしとしてはすごい抵抗あるんですけどぉ。
2期目の授業が始まりました。1期目の成績は同然全科目「優」ですよ。あたしの記憶能力を舐めて貰っちゃ困りますって。
ふと思いついたよ。魔法を使う時に手から魔力を出すんじゃなくって、杖を使って、杖の先から出したら良いんじゃ無いかしら。アニメの魔法少女って、大抵マジカルステッキとか持ってるよね。
ティーさんと何時もの森へ。杖は例の泉でノームさんにお土産に貰った精樹のやつ。なるべく体から離すように端っこを握って、地面に杖でそっと触れながら、冷たくなるやつを・・
しゅっ。地面が凍ったよ。やったぁ・・ 下から霜柱がにょきにょきと上がってくる。杖の先が霜で覆われていって・・・凍った。
あっ、地面と杖がくっついて、取れなくなった。
そうか、今度は暖めれば良いんだ。そのまま熱を発生させると、みるみる溶けていく氷。
風も起こしてみたよ。杖の先からぴゅーって風が起きてローブがはためいた。
うーん、今日は大成功だなぁ。もっといろいろやってみようっと。
目覚しい進歩でした。
火までは行かないけど(杖が燃えたら困るもの)熱を集める事ができた。【加熱】と呼ぼう。電子レンジのように解凍も出来ちゃう優れものですよ。冷凍食品なんて売ってないけどね。
凍らす事ができた。杖も凍るけどね。【冷凍】が良いかな。冷凍食品作ったら売れるかしら。
風を起こす事ができた。杖を持っていかれそうになるからあまり強いのは無理。【風】でいいや
【魔力探知】を改良した。少し離れた2箇所で魔力を探って、その方向の差で距離を測るの。ぐるっと一回りを別の場所でやって、探知した魔力の方向を重ねると、あら不思議まるでレーダーみたいに魔力源の場所がマップのように。これ、便利よね、潜水艦のパッシブソナーのような。音じゃなくて魔力だからパッシブマナー?うーん、【探知】にしよう。くるりと回って踊ってるように見えるから、人前でやるのは少し恥ずかしいかな。
これでやっと魔法使いの端くれかなぁ。まだまだ練習しないと使いこなせないけど、今日のところは満足。笑顔でティーさんに抱っこされてお家へ戻りました。だって、あたし足遅いんだもの。
杖は消耗品と思わなくちゃいけない様なので、何本か安いのを買いましたよ。火を起こすまで加熱したら杖が燃えちゃうもの。
シンディさんとお出かけする日になったの。強制的にあのピンクの服に着替えさせられて、連れ出されたあたし。ピンクのパンツまで履かされるとは思ってませんでしたけどね。
あの、手を繋いだまま外を歩くのはちょっとどうかと、逃げて帰ったりしませんから。まるで母親と愛児みたいじゃないですか。でも、良いのよ、の一言でかたずけられてしまうのね。
お菓子屋さんで新しいのをご馳走になりました。ほのかに甘くって久々に顔がにんまりと。
紅茶を飲みながら、魔法の授業がどこまで進んだとか、攻撃魔法がまだぜんぜん駄目で治癒しか使い物になら無いとか、だいぶ話し込んでいたら、知らない男の人がずかずかと横に来たのね。
「おい、お前名前はなんと言う。治癒が使えるんなら、俺が面倒見てやるから屋敷に来い」すごい身なりの良い高そうな服を着ているけど、とっても失礼な態度。
「いえ、お断りします」
結構ですとかって言うと、変に解釈するのよこういう輩って。
「大丈夫だ、俺はジョン。ウインター伯爵家の長男だ。平民だろう?支度金ならたっぷり払ってやるから親のところへ連れて行け」
「あの、うちは平民じゃないです。父は騎士の称号頂いてます」
「なんだ、下っ端貴族か。問題ない、さあ来い」
強引にあたしを立たせようと腕を掴んで着た。
傍観していたシンディさんもあまりの態度に見かねて
「ジョン様、いくら伯爵家の方とはいえ、小さな子にいきなりそんなことを言っても無理でしょう。今は私と一緒です。私はシンデイ、シリウス男爵家の娘です」
おお、シンデイさんって男爵令嬢だったんだ。趣味はちょっと、アレだけどね。このシーンでのヘルプは助かるわぁ。
「シリウス家か・・まあいい、必ず俺のものにしてやるからな」
捨て台詞とともに出て行った伯爵の息子ってやつ。
「あいつ、悪い噂しかないんだよね。使用人の若い女の子はすぐに辞めちゃうし。ああやって強引に連れてっちゃうのも、結構あるらしいわ。メアリーちゃん、十分気をつけてね」
「は、はい」
かなり面倒くさい輩だったらしい。あたしもそんなのは嫌だから素直に頷きましたよ。
寮から自宅へはティーさんに送り迎えをしてもらう事にしたよ。一人で歩いていて、攫われでもしたら困るしね。
でも、あいつは何度も付きまとってきた。
「お前の親、騎士だと言ったな。俺が一声掛ければ騎士の一人や二人どうにでもなるんだ、おとなしく俺のところへ来い」
「旨い物を食わせてやるし綺麗な服も買ってやる」
「お前みたいな目の変わったやつは珍しいから、面倒見て虐められない様にしてやる」
「いい加減、面倒かけさせるな」
あの、あなたの存在自体がうっとおしいんですけど。
さて、困ったなぁ。何度断っても諦めてくれない。ティーさんに街での話を集めてもらったけど、シンディさんの言った通りだった。甘い言葉やかなり強引に、若い、可愛い子を手に入れて、弄んですぐにポイって事らしい。伯爵子息なものだから、逆らえずに何人もが毒牙に掛かっているそうだ。父親は輪を掛けてひどいらしい。親の血を受け継いだんだねぇ。
諦めてもらうにはどうしたら良いのか。
あたしはともかく、家族にまで被害が出てはいけない。
伯爵家が本気になって潰しに掛かったらとうさまの身に危険がある。
伯爵、息子を消すのは簡単。精霊さんに頼めばすぐに何とかしてくれるだろう。でも、二人共居なくなったら絶対調査が入っちゃう。そこからあたしが割り出されて犯罪者になっちゃう訳にも行かない。
伯爵家を小娘の相手どころでは無い状況にしてやればいいのだけれど、そんな力も情報も無いしねぇ。
ティーさんと何日も話し合って、決断したよ。
向こうが諦めそうにないなら、こっちが諦めるしかない。あたしの学校生活より家族が大事。あたしが消えればあいつの興味も別のところに向くだろう。まあ、別のところの先は女の子なんだろうけど、その子には申し訳なく思うけどね。万が一、シャルちゃんに手出しでもしたら、絶対に許さないけど。
寮からは大事なものだけを持ち出して整理したよ。
3日後、お休みの日の朝、あたしは授業も無いのに学校へ。
校門から校舎を眺めたの。うまく行かなかった魔法の授業、へんてこな数字の算数。短い間だったけど、この学校に来て良かったなぁ。
ティーさんの送り迎えは今日は無し。一人で街はずれの山へと足を向けたの。登ると王都の全部が見渡せる観光スポットみたいになっているのね。せっかくの王都の風景記憶に残しておかなくちゃ。
あたしの他にも何人か登ってる人が居るわ。
予想通りにあいつは後をつけて来ているみたい。ティーさんが居ないし、今日こそはって思っているのかもしれない。あたしは知らない振りをして、てくてくと上を目指して歩いたよ。
やっと着いた山頂。町並みが綺麗でお城が立派に見えた。同じように見物している人が何人も居るのね。学校はあそこで・・ケイト先生のところはどのあたりかしら。
「おい、そろそろ諦めたらどうなんだ」
後ろからあいつの声が聞こえた。顔を向ければいつものニヤニヤ笑い。
「お断りしたはずです」あたしは逃げるように町並みが見える斜面とは逆の裏側へと。そこは下を川が流れているせいで崖の様になっているの。危ないので柵まで設置されてるんだけど、何年かに一人くらい落ちる人が居るらしい。自殺らしいけどね。
「傍に来ないで下さい」あたしは追いかけて来るあいつを振り返って見ながら大きな声を出す。
「そんな方へ行ったら、なお逃げられんじゃ無いか、バカかおまえは」
子供の足の速さでは振り切る事など出来る筈も無い。肩を掴まれて背中を柵に押し付けられてしまった。
「いや、やめて」
乾坤一擲、膝であいつの股間を。
「ぐえっ、お、おまえ、何をするんだ」
入り方が浅かったのか悶絶まで行かなかった。あいつが股間を押さえている間にあたしは柵の切れ目から外へと。まだ痛みが治まりきらないのだろう、片手で股間を押さえながらあいつは追いかけてきてあたしを平手打ち。
バチン
顔に当たった手、その衝撃にあたしは転がって行き、崖から下へと・・・転落して行く。
「お、おい・・まずいなこりゃ」
さすがに崖から突き落としたってのは貴族といえども犯罪になるだろう。身を乗り出して下を確認すれど人らしき姿は見当たらない。
「勝手に自分から落ちやがって人騒がせな」
そう言い放って、慌てて山を降りて行った伯爵の息子。
まわりで見守って居た人達は、衛兵呼ばなくちゃ・・、あれ伯爵の所の・・ここから落ちたら・・学校の生徒じゃなかったか?
誰か呼んで来いよ、と大騒ぎに。
やがて呼ばれた衛兵が上から人を探して見たが何も見つから無い。下の川のほうから回りこんであたりを捜索もしたが、見つかったのは学校の生徒が良く使う杖が折れた物と着て居たらしいローブの切れ端だけ。それ以外には何も見つからなかった。
学校幼年部メアリー・フリードマン。事故により崖から転落、川に流されて行方不明。
それが結論とされた。
ちなみに当事者であるウインター伯爵子息の責任は有耶無耶になった。




