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白の賢者 ~転生先は魔法の世界~  作者: 春野霞
第一章 
16/44

16 再び泉の畔


 こんな幼い年齢で奴隷さんを抱えてしまうなんて考えてもいなかった。なにせ本人は学校の女子寮住まい、奴隷さんを連れて帰る事も出来ないのよね。

 とりあえずは旅の宿にでもと思ったら、獣人お断りってところばかり。やっと見つけたところも獣人だけでの宿泊はちょっと困ると冷たい言葉。

 仕方がないのでケイト先生を頼って・・・もうボロクソに言われたよ。何考えてるのよ、バカじゃ無いの?奴隷を手に入れるって事はその奴隷の生活に責任持つって事なのよ?まあ、メアリーちゃんだからお金の心配はあまり要らなさそうだけど、他人の人生を背負うって大変なことなのよ、云々。

 さんざん絞られたけど、お家を借りることにして紹介してもらった。見ている患者さんにそういうのを仲介する人が居るらしい。もうボロ家でも何でも良いや、と思って家を見せてもらったんだけどね、想像より綺麗だった。家賃はそれなりみたいだけど。


 あたしは寮があるからずっと一緒に住む訳じゃない、でもトラルクさんのあの猫の手型の両手じゃお料理することも出来そうに無いのよね。まあ、あたしも料理なんて得意じゃないの。家ではキッチンに入ると、イリアさんが私の縄張りを荒らすなって感じで料理らしい事はあまりさせてもらってなかったしね。

 仕方ない、家事全般を任せられる人を頼もうか。幸い人材派遣業者みたいな所に心当たりあるし。どこって?探索者組合だよ。なんでも有りなんだから家事する人くらい居るんじゃ無い?


 探索者組合で受付のおねーさんに聞いてみたよ。

 「あのー、家事する人を探したいんですが」

 「火事って、放火魔とか火消し人の関係じゃないですよね」

 「えと、そっち系じゃなくて、ご飯作ったりお掃除とかの家事の事なんですけど」

 「あのね、そういうのはここじゃなくて・・」

 メイドさん紹介所を懇切丁寧に教えられました。てっきり家事請負人もOKかなぁと思ったんですけどねぇ。すごすごと教えられた場所へ。


 「あのー、家事する人で、住み込みで、女の人で、獣人さんが居ても大丈夫な人って居ますか?」端的に条件を言ったわ。獣人の段階でぐっと人数が絞られてしまう様で、何とか一人見つかったの。翌日会う事になったので、トラルクさんには外食で我慢してもらおう。

 家に戻り、トラルクさんと食事がてら商店街へ、毛布とか最低限の物も買って帰ったの。もともと荷物持ちをさせられていたので、多少の重さは大丈夫らしい。でも、猫の手足だから、よたよた歩き、すばやくなんて歩けないみたい。


 翌日、授業が終わってからメイドさんに来てもらったよ。トラルクさんを見て少し驚いていたけど、大丈夫です、働かせて下さいと。24歳で、探索者の旦那が居たけど、帰って来なくなったらしい。そう言う事も有るよね。少し同情したよ。まあ此方としては、条件が合ったのが彼女だけだったからね。名前はリンさん。とりあえず1か月分のお給料と、台所用品とか、寝具とか揃えるのにお金を渡しておいた。食料も買わないといけないしね。


 やっとトラルクさんの事も少し落ち着いたので、例の【認識】結果の[□◎※]について、学校の図書館で調べてみた。意外と簡単に判ったよ。やはりそうだったのね・・一人で納得したあたしでした。



 お休みの日の魔法チャレンジにはトラルクさんにも着いて来てもらう事にした。二人で町外れの森の中へ行って、例の熱を出すやつはあぢーからやめて置いて、逆に熱を回りに移してみた。


 つべたーい。

 

 て、手が凍えた。

 やっぱり無理だったよ。


 魔力で分子の運動エネルギーを移動させるっていう発想事態は間違いじゃないのかもしれないけど、自分の手も対象となってしまうのでは自爆以外の何者でもないわよね。熱を集めたときの反対に回りへと分子の運動エネルギーを移したんだけど、手は凍傷、体は逆に汗を掻くって、やっぱり無理よこんなの。


 熱に拘るからいけないのかしら。運動エネルギーを移すんじゃなくって、方向をそろえてみれば・・・


 ぎゃー、て、手がもげるぅ


 考えてみれば手の細胞の分子も一方向に向かって動くんだから、引っ張られるわ。がっくりと座り込んでしまったあたし、でもお尻の下に何かが・・あ、トラルクさんの手だ。地べたに座るよりはと後ろから手を差し出してくれたんだわ。振り向くと、どちらかというと厳つい虎の顔、でも目がなんとなく優しい。

 「うまぐいがないのでずが」心配してくれているらしい。

 「そうね、まだ初心者だから上手でなくて当然なんだけどね。でも少し悔しいの」

 「のんびりやるのがいいでず」

 「ありがとう。そういえばもう少しで1期目のお休みに入るのよ。あたし、自宅に帰るんだけどトラルクさんも一緒に来てね」

 「わだじはごしゅじんの言われるままに」

 頭を垂れるトラルクさん。

 


 何度か森へ行き、魔法にチャレンジしてみたけれど、そう簡単にうまく行くはずもない。そうこうするうちに1期目の授業が全部終わったので、トラルクさんと二人で村のお家へと帰る事にしたの。また、ばかばか馬車でのんびりでしたよ。魔動物も盗賊さんも現れなかったの。村との道って案外安全なのかしらねぇ。



 村に着いたあたし達、お家には寄らずにあの泉のところへ向かったよ。結界の抵抗も何のその、到着した泉は少し大きくなっていたみたい。樹の精霊さんの宿り樹も枝が増えてる。

 「こんにちはー」精霊さんに話しかけるとみんな姿を現してくれたの。

 「あら、お帰りなさい。大きな町はどうでした?」

 「うん、面白いところだよ。」すこし世間話をした後で、精霊さん達にお願いしたの。

 「今日はみんなにお願いがあって来たんだ。」

 「お願いって何かしら」

 「一緒に来た人、トラルクさんって言うんだけどね、魔力を渡そうと思うのよ。ただ、渡し切れなくてあふれたら、その分をみんなで外に漏れないように吸収してほしいの」

 「余計なのを吸い取れば良いって事ね」


 精霊さんに承諾を得たので、あたしはトラルクさんの手を握りながら魔力を少しずつ渡し始めた。

 「もし、苦しくて我慢できない様なら、言って下さいね」

 「ああ、わがっだ」

 

 渡す魔力を少しずつ増やしていったけど、トラルクさんの体から自然放出はされてこない。つまり、その全量が吸収されているって事。あたしは考えが間違っていなかったと思い、さらに魔力を渡し続けた。

 突然、吸収しきれなくなったのか全身から魔力があふれ出す。

 「精霊さん、お願いね」

 そう声を掛けるけど、渡す魔力は減らさない。トラルクさんは苦しそうに「ヴぐぅー」とうめき声を上げているけど、びくっと痙攣した後、魔力の自然放出が無くなった。まるで瓶の底が抜けたようにまた魔力を吸収し始めたのね。

 何度かそんな事を繰り返して行くと、トラルクさんの姿形がだんだんと変化し始めたの。



そして・・・






 「もういい、ありがとう」 


 そこには純白の大きな虎の姿があった。


 「記憶、戻ったの?白虎さんだよね、聖獣の」


 「ああ、俺は四聖獣が一柱。白虎で間違いない。先の戦いで力を失い、体は歪んだままに。記憶も無くしていた様だな」


 真っ白な毛に覆われた体長5メートルを超えるほどの巨躯、あたしの身長よりも大きな顔、どんな紛い物でも見分けるような鋭い目、低く威厳のある声、まさしく魔力生命体が肉体化した存在、聖者の守護獣だ。


 「よかった。たぶん間違いないと思っていたのだけど、絶対的な確証は無かったのよ」

 「すまなかった。人を救うのが役目のはずの聖獣が人に助けられるとはな、感謝の言葉もない。こうして元の姿に戻れたのは、メアリーのおかげだ、今後はメアリーの守護獣となろう」

 「そんなのは気にしなくて良いのに」

 「いや、そういう訳には行かぬ。聖獣としての役目を果たさねばならぬ」


 「また、お友達が増えてしまうのね。どうぞよろしく」

 大きな虎の顔をそっとなぜながら同意すると、白虎さんはくすぐったそうに顔を綻ばせた。

 「白虎さんって呼ぶのはちょっとまずいし、トラルクさんも駄目よね。新しい名前にしましょうか。ティーゲルさんって名前はどう?略してティーさん」

 「ティーゲルか、俺はかまわない」

 即、同意してくれたので早速名前を呼ぶ。

 「ティーさん、ところで人の姿に戻れたりします?」

 「何の問題も無い。幼子から老人まで、どんな姿でも可能だ」

 「それじゃあ、30歳くらいであたしを片手で抱き上げても違和感が無いくらいの大き目の男の人になれますか?」

 ティーさんは何度かやり直して、望みどおりの姿形になってくれたの。


 「なるほど、四聖獣の一柱だったのね」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、水の精霊さんが居たんだけど、えーとー、どうして大きさが倍近くになってるのかしら。ひょっとして、あまった魔力って結構有ったとか。

 「おこぼれって量じゃなかったわ、メアリーさんの魔力。私も一度吸収しきれなくなりそうだったもの。でも、溢しちゃいけないと思ってね、がんばった結果こうなったって事」

 げげっ、その姿、まさかと思うけど、精霊からさらに?

 「想像した通りだと思うわ。大精霊って事ね、ここまで成長したのって、数人だけのはずね。」

 また、やったしまったか。がっくりとうなだれつつほかの3人はどうかと見回せば、当然のようにみんな大きくなっていた。そういえば、莫大なはずの自分の魔力量が半分くらいに減っている気がする。それだけの量を吸収したとすれば、無理の無い事よね。


 また、王都へ帰るときに顔を出すと約束して、ティーさんと二人で泉を離れて我が家へと向かったの。すでに時間は夕方、初めて家の外へ出た時と同じオレンジ色に染まる野原、道、森の木々、少し離れた隣の御家。遠くの山に沈んでいく太陽と雄大な自然を二人で眺めながら話しかけたわ。

 「綺麗でしょ、これがあたしが生まれ育った場所なの」

 「ああ、こんな平和を守るために俺のような存在があるんだろうな」

 ゆっくりと歩く先には我が家、ドアのところには相変わらず綺麗なかあさまと、可愛らしいままの妹が仲睦まじく。



 3ヶ月ぶりの家。とうさまが帰ってきたら、ティーさんを紹介しなくてはね。


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