15 授業だった
学校に来て、だいぶんとこの世界の事が判明したよ。
1年は360日、12ヶ月。1ヶ月は30日で3週間。週は10日って事だね。授業は4日やって1日お休み、週にこのサイクルを2回。1日は24時間。多分前の世界とは1時間自体の長さは違うんだろうけどね。
授業は1年を4つに分けて、2ヶ月半の授業と半月のお休み兼実習期間。その繰り返しになっている。なお、入学は3ヶ月毎らしい。
あたしと同時に入学したのは6歳から10歳までが30人中24人と8割、残りは12歳から16歳。
6,7歳は幼年、8、9歳が低学年、10,11歳が中学年、12,13歳が高学年、14,15が高等部、16から20歳が大学部と区分けされているの。
授業は年齢関係なしに選択するの。一つの科目は入門、初級、中級、上級、最上級と順に難しくなるんだけど、その中で受けたい授業だけ取れば良いそうだ。最初の2週間はガイダンスというかお試し期間で、その間にどれを受けるか選ぶようになっているのね。あたしは国語、地理、社会は初級、算数、理科は上級、その他に共通語とエルフ語の入門、魔法学入門を受けることにしたわ。
あたしが住んで居るこの国は、ラゼル王国という国名で、ラゼル語が使われているんだけど、隣の国に行くと別の言葉になってしまうみたいなのね。それでどの国でも使える共通語と言うのが必要になるらしいの。
エルフ語はこの国では殆ど使われていないのだけど、古い文献がエルフ語で書かれていたり、エルフの国と言うのもどこかにあるらしいから知っておいた方が良いかなと。
算数は、えらいことになっていたわ。この国にはアラビア数字に該当するものが無かったのよ。ローマ数字みたいな感じのを使うって事。たとえばね、495-99はCDXCV-XCIXみたいな。こんなの面倒くさくて仕方ない。文字表記が入門1、足し算が入門2、同様に引き算が初級1、掛け算が初級2、割り算で中級1みたいな感じ。面積とか図形は中級2で勉強するみたい。上級で初めて方程式みたいな文章題になるの。いまさら四則演算もあれだしねぇ。
理科は植物から入るみたい。薬草とか知りたかったから入門でもよかったんだけどね、図鑑見ればいいかと思って中級から受けることにしたの。
魔法は、入門から受けるわ。一応【認識】君とか【魔力探知】【治癒】はできるけど、ファイアーボールとかディバインバ○ターとかスターライトブレ○カーとか攻撃魔法もやってみたいじゃない。いえいえ、決して魔砲少女を目指しているわけではありませんけど。
そんなわけで、幼い子から大学生みたいな大きい人まで混じった授業が始まりました。あたしは暇な時間を作っては図書室に篭って言葉のお勉強。脳内辞書がどんどん埋まっていきますよ。言葉さえ判ってしまえば、大抵の授業の内容はそれほど難しくない。もっともあの算数は、ちびっと面倒くさいけどね。
魔法学入門はだめみたい。参加者全員で演習場というかグランドというか、校舎のそばの広場に集まったの。火を出す魔法だったんだけどね、先生がお手本を1回だけさらっと見せて、さあやってみようって、そりゃ誰もできないわ。魔法が難しいって言う評判は嘘で無かったのね。どうやら教えようとしている先生自身が、どういう理屈で魔法が実現されているのか全く判っていないみたいで、そりゃ教わるほうに伝わる訳も無いわよね。
仕方ないから、あたしなりにいろいろと考えてみたよ。火を出す=温度を上げる=分子を激しく動かす=ブラウン運動を増加させる。そこまでたどりつくのに丸1日かかりました。次の魔法の授業のときにやってみたけど、そう簡単に成功したりしませんね。
変に威力が高くても嫌なので・・だって、魔力値が異常に高いあたしですもん・・お休みの日に町外れの森の中で何度も魔力をひねくり回していたの。右手を突き出して、そこから魔力を外へと・・。
何回目のチャレンジだったかしら。突然、でっかい熱いのが目の前に。思わず叫んだよ。
あぢ、あぢ、あぢーー。
熱が集まったのはいいけれど、中心が右手って、当然右手は火傷。急いで治癒しましたとも。
おそらく魔力を放出した事で分子の運動エネルギーが移動した。つまり回りが冷え、真ん中が熱くなったと。回りには自分の体も含まれてしまうのよね。手は火傷、体は冷たくと、踏んだり蹴ったりなのよ。毎回火傷しないと火が出ないとか、体が冷えて風邪引きそうだとか、使えないじゃん、こんなの。
とぼとぼと寮へと足取り重く帰りましたとも。
授業以外に、探索者組合の説明もあったのよ。
この王国には探索者の組合がある。探索者とは、要するにラノベの冒険者と同じ様なもの。雑用、採取、魔動物の駆逐、護衛、何でも引き受けるのが探索者って事ね。
学校に入学すると、同時に探索者の見習いの資格が貰える。探索者は通常は10歳以上で無いと加盟できない。こなした仕事に応じてランクがあがるのもラノベの冒険者と同じ。組合への加盟当初は9級から始まり、1級まであがって行く。その上に特級というのがある。学校の生徒は見習いの扱いなので通常の9級の下の10級というレベルになる。
魔法の実習の為とか、アルバイト感覚で学資稼ぎとかを目的として、探索者組合のお仕事をする生徒が居るので、自然と同時に加盟という決まりに成ったとの事。
当然小さな子が一人で危ない事をしてはいけませんといわれるけど、学校サイドとしては注意はしたから後は生徒の個人責任でってスタンスらしい。
学校がお休みの日に、一度どんな所なのか行ってみることにしたわ。また魔石を鞄に入れて買い取りして貰って、ケイト先生に立て替えて貰っていた授業料を返す、そのついでに探索者組合って所を覗いて見ようと出かけたのね。
魔石のお店を2店ほど回って、金貨6枚と小金貨8枚銀貨4枚。先生に借りたのは金貨5枚だから、余裕で返せるわ。
探索者組合の建物は先生の所へ向かう途中だったから、寄って見たの。ドアを開けて中に入ると、なんていうか、前の世界の市役所みたいな雰囲気?カウンターに窓口が沢山あってね、探索者らしき人達が窓口で話をして居たり、多分仕事探しと思うんだけど壁に掛かっている石版を眺めてたりとか。なるほど、こういう所なんだ。紙が高いから石版ってことなんだろうけど、重さで壁が倒れてきたりしないよね。
壁の低い所の石版を見てみました。なぜ低い所かって、上の方のは見えないんだよ、背が低いから仕方ないのよ。ほっといて下さいな。
薬草採取やら、動物の素材集めやら、家の掃除、庭の清掃、いろんなのがあるんだねぇ、そう思って見ていたら、いきなり背中に衝撃が。反動で壁に押し付けられて、目の前に星がくるくると・・いや、回ったりはしませんでしたけどね。
「おう、お嬢ちゃんごめんよ。てめえ何してんだよ、この役立たずの木偶の坊が」
後ろから声を掛けられて、恐る恐る振り向くと、躓いて転んでしまい、あたしに激突して来た人が尻餅をついていた。声の持ち主らしきおじさんはその頭を容赦なく足で蹴り飛ばす所だった。
「ぐうっ・・」
蹴られた頭がゴンと床へとぶつかって、うめき声が聞こえたよ。
「ええとぉ・・」あたしの声は途中で止まってしまった。だって、横たわっていたのはまるで虎の様な顔の頭と手足が人間の体に付いている異様な姿だったから。
「ほら、てめえもちゃんと謝れよ」そう言いつつ、またおじさんは足蹴にする。
虎の顔を持つ人は不自由そうな手足で何とか起き上がると、あたしに向かって大きく頭を下げて口を開いた。まるでガオーと吼えているような感じの、低い、くぐもった聞き取りにくい声で
「ずびばぜん、おゆるじぐだざい」
あたしはその人に【認識】君を掛けた。
[□◎※、衰弱]ええとぉ、人間でも、獣人でも、エルフでもドワーフでも、妖精でもないの?もう一度【認識】君。
[□◎※、弱体化]
この人、どう考えても普通じゃない。【認識】君で種族がはっきり判らなかった事などこれまでには無かった。あたしの知らない種族なんだろうか。[□◎※]が気になって仕方ないの。この人魔力が全く無い。よほど魔力操作に慣れた人で無いと魔力の自然放出は止められないはず。それか、元々魔力が全く無いのか。いずれにせよこんな使い捨てのようにされるべき人ではない。
「怪我したらどうするんですか。責任とってください。」
ちょっと強めの口調でそう言いながら、虎頭の男の人が奴隷の証を首に巻いているのに気がついた。あたしはわざと、偉ぶった貴族のような口調にする。
「あたしがその人を買い取って処分します。いくらで売りますか?」
「はあっ、お嬢ちゃん、こいつを買い取るって、そう言ったのかい?」男の人を蹴っていたおじさんが興味深げに聞いてくる。
「そうよ。きちんと躾けられてないからこういう事になるのよ。」
「悪いがこんな野郎でも、子供の小遣い程度って訳じゃないんだが。」
「払えるかどうかはこちらで判断します」
おじさんは少し考えてにやりとした。おそらく高い金額を吹っかけるつもりなんだろう。
「そうさな、金貨の5枚も出すってんなら考えてもいいが、はっ、お前さんのこずかいの何年分かな」
「判ったわ」肩から掛けていたバックを開けて中をごそごそと探し、1枚ずつ金貨を取り出しながら傍の机の上に並べる。
おい、あいつって確か金貨1枚ぐらいじゃなかったか。後ろにいた仲間らしき人が別の仲間とこそこそ話。げっ、3倍以上じゃんとつぶやいてあわてて口を押さえたりしてるけど、そんなの気にしない。
机の上に5枚の金貨が並んだ。これで良いんでしょうとばかりに微笑みながら見上げる。
「ま、まじかよ。いや、半分冗談だったんだが、5枚も出すって言うなら願ったりだ。ろくに役にもたちゃしねえやつだし。わかったそいつで手を打とう」とんだ儲け話になったとばかり、急いで金貨へと手をのばす
「奴隷さんの契約書とかってあるんでしょ?」
契約書と交換とばかりに金貨の上に小さな手をかぶせるように置く
「あ、ああ、契約書誰が持ってた?」メンバーの顔を見回せば一人がごそごそと書類を取り出す。
「ほら、これだ。さっさと金貨をよこせ」
書類を受け取ると名前を確認する。
「トラルクってあなたのこと?」虎の顔の獣人へ尋ねる
「あ゛あ゛、ぞヴだ」
聞き取りにくいが自分のとこだと肯定の返事が返る
契約書の代わりに金貨5枚を渡す。これでこの人はあたしのものになった。
「毎度あり~ってところだな。」ほくほく顔の男達。
「起きて」 早く立ち上がってと催促すると、のろのろとぎこちなく立ち上がるトラルク。その手をちょこんと掴んで入り口のほうへ一歩歩き、振り返って「ありがとう。死なない程度に頑張って下さいね」と微笑んで外へ。
後ろから「金貨1枚で買った奴隷が5枚で売れやがった・・しかもあんな小さい子が・・一体どこの貴族様なんだあいつは。でも丸儲けだなこりゃ。今日は盛大にやるぞぉ。」そんな声が聞こえてきて、思わず1枚だったのかとショックだったけど、これが10枚だろうが100枚だろうがあたしは払うつもりだった。
外へ出ると、町中の公園の池のそばへと向かったよ。
「トラルクさん?」
「ばい゛、ごじゅじんざま。俺ばぎんが5枚なんでがぢばあ゛りまぜんが、何でもいでじます」
あたしは持っていた契約書に目を通した。
「ここに所有者が認めれば奴隷契約は解除できると書いてあるわ。ねえトラルクさん、奴隷の契約は破棄してあげる。けど、これはお願いになるわね。1年間だけあたしに付き合ってもらえるかしら」
「ば?バギっで・・い゛や、お゛願いっで、ぞんなもの奴隷なんだがら命令ずりゃいいだげで・・」
「いいの、単なる気まぐれだから」
トラルクさんは深々と頭を下げた。「よろじぐ、お゛ねがいじまず」
ケイト先生への借金返済はまたの機会になってしまったよ。




