13 平穏無事な日だった
翌日、あたしは遅い時間まで眠り呆けていたの。誰も起こしてくれなかったしね。目が覚めるとかあさまの寝室の方で話し声。
ベッドから降りて行って見ると、ケイト先生とかあさまがにこやかに会話していたわ。
「かあさま、良かった、目が覚めたのね」
「メアリーちゃんおはよう。心配掛けたわ。ケイト先生が治療してくれたんですってね。いまお礼を言っていた所よ」
困惑気味のケイト先生に、あたしは「先生、治療していただいて本当にありがとうございました」その言葉が先生に止めを刺したのかどうかはさておいて。
かあさまは朝早くに目を覚ましたらしくて、とうさまも会話が出来て安心して街に戻って行った様だ。あたしもほっとしたよ。だって、樹の精霊さんに集めてもらった麻酔薬、精製度合いが良く判らなくて、投薬した分量が適当だったのよ。目を覚まさなかったらどうしようって、ちょっぴり不安だったのよね。麻酔薬って、量を間違えると毒薬になるって言うじゃない。解毒の魔法とかってのも有るのかしらね。学校に行ったら調べてみよう。
かあさまもシャルちゃんもベッドの上に起き上がっていて、イリアさんが昨日から作っていたスープらしきものを美味しそうに食べていた。うーん、イリアさん、グッジョブだよ。
【認識】で、かあさまとシャルちゃんが間違いなく回復しつつあるのを確かめると、二人のお相手を先生にお任せして自分の部屋へ戻ったよ。先生とイリアさんに渡す魔石を用意しなくちゃいけないもの。
イリアさんには1センチ程のを2個。コンロに使うやつと比べると重さで16倍?小銀貨にすると80枚って感じね。先生には2センチ位のを4個作った。単純計算すると銀貨で128枚、おっと小金貨12枚は多すぎたかしら。まあ、学校の入学金とかも必要だからいいかな。イリアさんのはそのまま袋に入れて、先生のはその辺にあった布で魔石4つを包むようにして袋に入れたよ。念のためちょっとした付録も入れておいた。
かあさまの部屋から出てきた先生とイリアさんに魔石を渡したのよ。イリアさんには、街に行ったときに少しずつ買い取ってもらった方が良いだろう事も伝えておいた。こくこくと頷いて受け取っていたよ。長年お世話になっているんだし、たまにはボーナスって事で。
先生は次の日に王都に帰っていきました。あたしはもうすっかり学校に行くことばかり考えるようになっていたけれど、そうなればかあさまやとうさま、シャルちゃんとの穏やかな日々もおしまいになると思い、毎日を記憶に残すようにしながら・・いや、絶対記憶があるから忘れっこないんだけどね。
次のお休みの日にとうさまが帰ってくると、やっと起きて生活出来るほどに回復したかあさまを交えて学校の事についてお話しましたよ。
「アリスを治療してくれたケイト先生が、メアリーを王都の学校に行かせたいと言っていた。最終的には弟子にしたいそうだ。メアリー本人はどうしたいんだ」
「あたしは、学校って言う所に行ってみたい。でも治療師の弟子とかって、まだ良くわからないの」
「メアリーがしたいようにすれば良い」 とうさま、娘を信用しているのか、甘いのか、まあ先生がうまいこと言いくるめたんだろうけどね。
「とりあえず1年だけってことにしたらどうかしら」とかあさま。苛められたりしたら、何時でも帰ってきて良いよって事ね。大丈夫、あたし強い子だもん。だてに二十数年生きて来た訳じゃ無いのよ。
「うん、わかった。」こんなに人のよい両親にめぐり合ったこと、感謝しないとね。知らない間に頬を涙が伝っていたわ。
これから冬が来て、また暖かくなる春が来るまで、この家族を大切にしなくちゃ。
※※※※※※※※※※
無事に王都へと戻った私を待っていたのは、大人数の患者達だった。なんだかんだで20日近くも離れていたのだから仕方無いのだけど、目の回るような忙しさにメアリーちゃんから受け取った魔石の事など、すっかり忘れていた。
「はい、次の方どうぞ」治療室の前で待っている患者に声を掛ける。入ってきたのは年配の患者だった。
「あら、こんにちは。相変わらず腰が痛いの?」
「そうですじゃ。もう年じゃとて、直らんのかもしれませんなぁ」
「まあ、無理はしないことね」
「商売が魔石なんで、重いものを持ったりはせんのですが」
ん?なんだか忘れている事が。・・・あっ、そういや魔石を受け取っていたんだわ。
メアリーちゃんに渡された袋を取り出してみてもらう。
「確か魔石店のご隠居さんだったわよね。えーと、この間旅をしている探索者を治療してあげたら代わりにこれを貰ったんだけど、どのくらいで売れそうかしら」
袋から包みを取り出して手で重さを測るようにしてから答えてくれた
「うちの店で買い取るとすれば、一つ小金貨2枚半って所ですかのぉ。4つじゃから10枚でどんなもんか。まあ、店できちんと計ってみればもう少しいけるかも知れんが」そう言いつつ包んであった布を畳もうとすると、コロンと小さなものが机の上に。
メアリーが念のため入れておいた、ちょっとした付録がこれだった。
淡い緑色のそれを、指でつまみあげるとしげしげと眺め、次第に手が震えてくる。
「せ、先生、これも買い取りですかの」
「えっ」
「申し訳無いですが、こ、これは、うちの店では無理ですじゃ。こんな大それたもの、いったいどこの誰から入手されたのですか」
「あの、それって、ひょっとすると値打ちものだとか?」
「おそらく魔宝石じゃろうて。わしも2-3度しか目にしとらんので確信はないですが、最低でも金貨50枚以上かと。公爵伯爵クラスの貴族が目の色変えて競売に参加する代物じゃろうと思われますじゃ」
「げっ・・・いや、今は売らない、事に、するわ」
「わかり申した。もしもの時は一口かませていただけると、ありがたいですじゃ」
名残惜しそうにしながらも魔宝石は布へと戻された。
メアリーめ、こんなめんどくさい物を入れて・・絶対に嫌がらせの悪戯だこれ・・。覚えてなさいよ。
ケイト先生の平穏無事な日常は何処に




