11 なんとかなった
手術のシーンがあります。苦手な方はパスしてください。なお、筆者は医療の知識があまり無く、手術の事は適当です。詳しい方からすると、なんじゃそりゃあ、って事になるかもしれませんがお許しを。
姿を現した4人の精霊さん達に、あたしはいろんな事をお願いした。
青い水の精霊、ディーネさんには出血している血液を吸い取って、異物を除去して輸血できるように成分を抽出してもらう。多分、体の中で出血しているだろうけど、輸血する血液なんて無いから自己血輸血するしかない。
白いお髭の土の精霊、ノームさんには良く切れる小さなナイフとか、輸血する為の針とか管とか容器とか。
緑の樹の精霊、ドリさんには麻酔薬とかリンゲル液、抗生物質の成分集めと可能な限り二人に生命力の補充を。
淡い水色の風の精霊、シルフさんには吸入用の酸素を集めてもらうのと、周りの殺菌、そしてどのくらいかかるかわからない間、あたしが倒れたりしない様に体の支えを。
イリアさんとケイト先生は、姿を現した精霊達に絶句して倒れそうになっていた。
「説明は後で。イリアさんは栄養があって、病人が食べやすい柔らかい食事を作ってください。ケイト先生、明かりを点す魔法って使えます?」
「あ、ああ。出来ない事は無い」
「この二人の上の方に沢山明かりを点けてください。影が出来ないように」 そう、無影灯も必要だ。
あたしはシルフさんに床に寝ている二人を持ち上げてもらう。座ったままでは何も出来ないから、浮かんだ二人の間に立った。血色の悪いかあさまとシャルちゃんを見ながら、無意識に言葉を口にする。
「はじめるわ、みんなよろしく。」
その言葉。自分で口にして思い出した。大学の研究室でグループリーダーを勤めていたあたしが、実験を始める時にメンバー達に宣言していた言葉だ。あたしの中で何かのスイッチが切り替わった。焦って空回りしかけていた頭がすっと冷えていく。
シルフが支えてくれている道具の中から小さなナイフを取り上げると、二人の腕を少し切って血管を露出させ、点滴用の針を入れる。皮膚の上から静脈を捜して針を刺すなんて器用な事やった事も無いし、何度もチャレンジしてみる時間なんて無い。ノームが作ってくれた瓶から麻酔薬混じりの点滴が体の中へと入って行く。
ナイフを母の胸に当て、すっと切り開く。たちまち胸部に溜まっていた出血があふれ出てくる。
「デイーネ、集めて成分抽出。瓶に貯めて」
もう余計な事は口にしない。精霊さんの事も呼び捨てて、して欲しい事だけを端的に指示。瓶から血管へと血液が戻っていく。
「シルフ、血液に酸素混合。口の周りにも集めて」
母の胸をぐっと開く。肋骨が数本複雑骨折していて肺を傷つけている。刺さった肋骨をそっと抜くとそこからも血が広がる。折れた数箇所の肋骨を取り除くと、肺の穴を指で押さえるようにして【治癒】。外傷を治せるんだから、こうして傷口を治癒すればどうだ。魔力を込める。果たして出血が収まっていく。穴が塞がると萎んでいた肺が膨らみ始めた。
容態が安定し始めた母をそのまま放置して、体を妹へと向ける。
「デイーネ、母様とは別に集めて、同じ様にね」
シャルのお腹にナイフを当てる。横に、そして縦にも。お腹に溜まった血が吹き出てくるけど、空中で集まって瓶の中へ。さすが水の精霊。
「シルフ、血液に酸素。口の周りにも」
シャルにも瓶から血管へと血液が戻っていくのを確認。
「デイーネ、水、ここ洗って」
傍においてある桶から水が弧を描くように開いたお腹へと。腹腔内を洗浄した水をもう一度吸いだしてもらう。当然血液成分は分離して瓶へと戻す。まだ出血は続いているけれど、破裂するように潰れている脾臓、膵臓、肝臓、大腸が見える。
百科事典の人体図を思い浮かべ、分断された肝臓を手で繋ぐ様にして【治癒】【治癒】【治癒】・・・。
二つに分かれた膵臓を手でくっ付けながら【治癒】【治癒】【治癒】・・・。
破れた脾臓を手で包むようにして【治癒】【治癒】【治癒】・・・。
千切れかけた大腸は引っ張る様にしながら繋げて【治癒】【治癒】【治癒】・・・。
裂けた血管も指でつまんで塞ぐ様にしながら【治癒】【治癒】・・・。
次第に出血が収まっていく。蝋人形のようだったシャルの顔に少し赤みが戻ってきた。
何度も腹腔内を洗いながら、出血点を探して出して、【治癒】を繰り返す。やっと出血が全部止まった。
大きく切り開いてしまった妹のお腹。腹膜を寄せるようにして【治癒】【治癒】【治癒】・・・
最後に皮膚をあわせるようにして【治癒】【治癒】【治癒】・・・
呼吸が安定した妹から母の方へとまた体の向きを変える。いったい何回【治癒】を使っただろうか、いやもう少し頑張らないと。
開いたままの母の胸、剥き出された心臓がどくんどくんと動いているのを横目に見ながら、折れた肋骨の破片をパズルのように組み合わせて【治癒】【治癒】【治癒】・・・。
拾い切れなかった骨の破片を水で洗い出すとやっと、終わりが見えて来た。
長い時間の手術に小さなあたしの体力はそろそろ限界。立ったままの足はもう力が入らない。シルフが支えていてくれなければ既に倒れていただろう。
残っている体力を振り絞って、母の胸を少しずつ閉じていく。ナイフで切り開いた皮膚を引っ張り寄せて、少しずつ治癒の力で回復させていくが、完全に元通りにはならなず赤い線が残ってしまう。
ごめんね、集中力が切れてきた。もううまく出来なくなって来たの。
やっと、切開したところを全部閉じる事が出来た時には気を失う寸前だった。
精霊さん達に、後片付けをお願いしていたら・・視界が狭まって行き、吸い込まれるように目の前が真っ暗に。




