人は皆消すべきなんだ 4
制服を纏った学生達は街に溢れかえる昼の街。ゲーセンに蔓延るものも居れば、ファーストフード店に集まる者も居る。
鴉丸スイレン一味もその中の学生達であり、現在は駅から約5分辺りに位置するコーヒーショップに朝の三人が集まっていた。
こんな昼間に学生が喫茶店に居るという理由は、単純に午前の授業で終わりだからだ。模試の関係で振替休日もなく土曜登校を強制させられてうなだれる生徒ばかりで、鴉丸も桃城もその一人だった。
「てかその娘がほんとにアンタ以外に敵意を向けない保証はあるの?」
「またそれかよ」
目を輝かせてホットサンドを貪る単発黒髪の少女の横で、鉛色の君色をした少年と青年の中間といった外見をした男が頬杖をして答える。
「言っておくけど、銀咲のディザストクラスは最上位危険分子とされるファンブルに属しているの。それを放っておくなんて危険すぎて出来ないの」
「知らねーよ。なんだよそのかっけぇ称号。てか銀咲の由来ってなんだよ。だれが名付け親だよ」
鴉丸は大あくびをしながら、眉を寄せて険しい表情を取る桃城に言い返す。
アイスティーを一度あおってから、桃城は再度口を開いて言う。
「探知タイプの影使いが、影の存在を認識した時に自動的にそう名付けられているの」
「所謂見える人みたいに勝手に個人が命名してんじゃねーの?」
「共通してそういう名前が浮き出てくる」
「……」
感心したような、言い負かされたような。その境界の色を浮かべる鴉丸の微妙な表情を尻目に、ホットサンドを食べ終わった横の少女が一度伸びをしてから口を開いた。
「ねぇスイレン」
「んだよ。てか、何時から下の名前で呼ぶようなったんだよ」
「食事の後だから運動がしたいんだよね」
「……」
「付き合ってくれない?」
「……おう」
くりりとした目の中に帯びる確かな殺意と鋭い眼光。
見下ろすように視線を合わす鴉丸には、脊柱が凍え上がり産毛が逆立つ感覚があった。
「ここから電車で重数分のところに廃屋街がある。人の寄り付かないゴーストタウンだ。そこでなら思う存分力を出せるだろう」
「いいじゃん。はやくいこ」
鴉丸の腕を引くように立ち上がる単発黒髪の少女。その鴉丸の表情も一呼吸する度にだんだんと鋭利で冷静で殺意に似た者を帯びる。
「早く飲め」
「え? あ。 てか、アンタなに勝手に話進めてんの!?」
アイスティーを一気に飲み干してから、桃城は既に会計を終えようとする鴉丸の元に着いて行った。
洋風の内装の店内。その空間をシーリングファンがかき混ぜる。
その流れているような、滞っているか分からない店内の香りを浴びるのは鴉丸ら三人以外にも居た。
休日とも言うのに人気のないその店内。そこに居る二人の男は、鴉丸らが出て行くその寸前まで話すことも無く、ただ湯気を立てるカップを啜る。
「高校生にも居るのですね」
そう言う男の格好は、黒縁のメガネにフード付きコートを羽織ったもので、少し頬が痩せこけている。
覇気のない眼光が、テーブルに置かれたコーヒーの中心に吸い込まれるように向けられている。
「嫌いかい?」
対して、向かい側に座るのは白色のワイシャツを着こなした爽やかな風貌の青年。作り物のように整った表情の前には、純白の長髪が額の前で揺れる。
「……僕にも、ああいった時期があったハズだったかと思えば、ね」
「どう転ぶはずもない。人は生まれながらにして不平等な手札を行使し、常に他者の幸せを奪い続ける生物だ。君になら分かるんじゃないか?」
「性格が悪いですね。あなたは」
よく言われる、と小さく笑って、純白髪の男はコーヒーをすすり口元に手の甲を当てて押し黙る。
「あなた達から教わったこの力。感謝します」
「礼は要らないよ。君が虐げられてきたように、今度は君が虐げる側だ」
「影が光に追従するか、光が影に追従するか。その境界なんて、もとより無いのかもしれませんね」
美形の男は、その言葉に目をつむって小さく頷いて返す。
口角が柔らかく上がり、満足気な表情でもう一度カップを手にとった。




