人は皆消すべきなんだ 3
深く刻まれ顔をした長身の男が、黒いコートを翻して街を征く。
どこからどう見ても、日常生活のそれには溶け込まない違和感を纏うその格好だが、その一帯には常人の常識の付きまとわない一角だった。
高層区程ではない背の低いビルが立ち並び、その側面には色とりどりの看板が掲げあげられている。
娼婦か何かと錯覚するほど、短いスカートを履いた女性キャラが太ももを見せつけていたり、ありえないほど面積の少ない水着を身につけた女性キャラが夏の海を背に居るデザイン。どれも可愛いさ、を全面的に出したデザインではあるがその中に扇情的な要素を含む看板群。
その下では格子が駐車場を囲い、トレーディングカードか何かの広告だかが貼り付けてある。
「メイドの居る喫茶店で軽食はいかがですかー?」
ゴシックロリィタ調の服装を纏った十代の女子らしき人物が、長身の黒コートの男にビラを配ろうとした時に手が止まる。
「今日、エステライトは着ているか?」
「えぇ。案内しますよ? 鬼道ムサシ」
案内された所は洋風の内装をした軽食店だった。鬼道が扉をくぐって、甲高い声がおかえりなさいませ、ご主人様と迎える。
「きーちゃん! お久しぶり!」
鬼道とほぼ同等の身長を持つ長身でグラマラスな女性がそう言って鬼道の前に立つ。この店の店主的なリーダー的な立ち位置であり、長いブロンドの髪を指で流す仕草をして奥の階段を促した。
狭い階段を登った後に、鬼道の目に入ったのは薄暗い室内で、閉めきったカーテンからは高く登った陽の光が細く差し込む。
鬼道と同じ様に黒いコートを着た男女数人がノートパソコンを弄り、2リットルペットボトル大の円柱のガラスが並ぶ。その中に泡を立たせる淡い色をした液体。地面に無数に敷かれる配線。
「エステライト。状況はどんな感じだ?」
低い声で言う鬼道に、回転式小型ソファの支柱が回る。
深く腰をかけるのは淡いパステルカラーの和服にプリーツスカートといった風貌の小柄な少女だ。金髪を側頭部付近で一対にまとめる少女は経口保水液片手に鬼道の方に細めた目を向ける
「仕事熱心だな、君は。そんなに月影が憎いか?」
「……桃城は、そう言うだろうな」
「君も本当に一途だねぇ」
茶化すように言う少女の言葉に、鬼道の表情は曇ること無く、いつもの仏頂面を保っている。
「まあ君にとってはキューピットかもしれないね、奴らは。そして、それは今君にとって朗報かもしれない」
「索敵技能の結果は?」
「……まあ、今日の『エステライト』の結果はこうだった」
少女は蟀谷の付近に指を添えて硬直した後、鬼道の腰付近の宙空に指を向ける。すると、少女の座る腰や背、身体から緑色の発光線が伸びる。
指差した宙空に、複数の発光線が立体的に絡み合う。それは、街の立体図だった。
高層区や居住区。開発区や港。立体図の中に赤色の発光体が浮かんで、迷いこむように街中をウロウロとする。それも複数だった。
「今までに類を見ない頭数だな」
「そうだね。それも昼間というのに、居住区の中心、高層区の上階、教育機関の中身にもちらほら見える」
「人に紛れ込む月影……」
「前例は無いわけではないかもだけどね」
「例えば?」
鬼道がそう言うと、少女は腕組みをしてうずくまり、ぐぅーと鼻から漏らして思考を巡らす。
「例の銀咲。アイツの反応がそうだった。何度もマーキングサインを消して、ふとした時に復活する。夜になる度に深い瞬きが目を覚ますようにね」
「……今回の件との因果関係は?」
「どうだろうねぇ」
経口補水液を一度煽ってから、その少女は腕組みを組み直す。
脚組をして小さくなって考えこむその少女が、次にそのこぶりな唇を動かすのを待つ。
「ただ、一つ気になるのが月影でない、”強い影を持つ人間”の気配。ネスト登録外の黄色のマーカーは、例の鴉丸スイレン以外に数人、この街に居るがここ数日その頭数が増えつつある」
「増えつつ? 一体どういう?」
「……私の映し出せる範囲はここまでだ。外国だとか、外の街だとか、そんなのは映し出せない。私の『エステライト』の出せる範囲はここまでだが、そのエステライトの端から黄色の反応がやってくる事はない」
「では、どこから?」
鬼道の言う言葉に、少女は顎に指を沿わせ、指で軽く唇をなぞってから口を開いた。
「分裂している」




