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影使いの街  作者: やぎざ
第二章 人は皆消すべきなんだ
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人は皆消すべきなんだ 5

昼下がりの時間。三人はだだっ広く伸びる平地に居た。

 ひび割れたコンクリートと土埃が風に巻き上げられ、時に喘息でも起こすのではないかという立地。周囲を見渡せばその平地を四角形に囲うようにある鉄格子。その奥に老朽化が進んだビル群。潮風。


 「空港?」

 

 大きく描かれた円と、その中にあるHの文字や白線。風化しかかって剥がれかけているが地面にはそう刻印されてある。


 「俺も知らん。だが、ここなら人も居ないし思う存分やりあえるだろ」

 「私が居るんだけど」


 月詠の問に対して返す鴉丸。その後ろから不満気な表情を浮かべて言う桃城。

 

 「ごめんね。えーっと桃城レンカ……さん?」


 月詠は軽く伸びをしながら桃城の方を向いて言う。


 「え。あ、まあ。一応鴉丸くん? は一般人扱いだし」

 「そう。その時はよろしくね」


 屈託のない表情で身体の関節を回しほぐしていく月詠。

 よろしくという意味は何なのか。

 鴉丸はまずやられてしまうから、その時の救助という意味か。それとも月影のことだ。鴉丸にトドメを刺そうとしたところを邪魔立てされた場合、お前の命も無いということなのか。

 桃城は自分の今まで戦ってきた日々を思い出した。

 仲間を亡くしたこともあった。それでも、自分を貫き通し、仲間を指揮し、力を的確に活用できたから今がある。そういう自負がある。


 「始めるか」


 鴉丸の方も準備体操を終えたようで、ブレザーを脱ぎ捨てズボンと腕をまくったカッターシャツという風貌になっている。

 ゆっくりと鴉丸の元に歩み寄る月詠。


 「ええ」


 二人の距離は既に1メートルも切っている。

軽く流すような口ぶりで月詠はそう言った次の瞬間。銀色の旋風が砂埃を乗せて爆発し、周囲に風速50メートルほどの空気の塊が叩きつけられる。

 不意打ちを食らった様で、桃城はその風圧に耐えられず一度バク宙をするように空中で受け身してから着地をした。


 その後視線を上に向け、二人が睨み合っていたそこを見た時には月詠、鴉丸の姿は無かった。

 一番早くそれらを捉えたのは鼓膜だった。宙空から影と影がぶつかり、この世のものではない音が轟、その方向に目を向けた桃城の網膜には、青と銀の閃光が稲妻の様に絡み合い弾き合っている光景だ。


 上空で、一層大きく響く音。遅れてやってくる衝撃波。

 流星の様に地面に落ちた光が尾を引いて跳ねて着地する。一体どちら側だ、と目を向ける桃城。そこに居たのは銀髪をしたショートヘアーの少女。背中からは片翼だけを生やして、白金の様に光り輝いている。


 「だ、誰?」


 桃城がそう漏らした後、青黒い落雷めいた光が地面に落ちる。

 鉛色の髪をした男。その肩から先は青黒いシルエットを帯びる隆起した筋肉の腕となっている。


 「どうした。とっととフルパワー出してかかって来い」

 「まだ10%くらいだよ。余興は楽しまなくちゃね。それよりも腕一本もがれたというのにスイレンはホントしぶといね」


 口角を上げて楽しそうな口元をしているが、その目は充血しきったように赤い残光を空間に残す。

 鴉丸の発言にあったようにどうやら月詠サラク本人であるらしい。


 「ギアを上げるッ!」

 「上等だ」


 またしても空間を切り取るように光となった二人と、それに追従して吹き抜ける真空の刃。

 周囲のコンクリートにそれらが刻みつけられ、桃城も防御姿勢を取りながらでしかこの戦いの先を見届けることは出来ない様子だ。


 「……」


 桃城は、閃光が衝突し続ける様を見ていたかと思うと、肉眼の間隔を飛び越え、いつの間にか虚空を舞う光を睨む形になっていた。


 「……」


 息を飲んでから桃城は、再度口を開く。その瞬間にも数千手を超える攻防が音速を超える速度で地上、上空。時には地中で繰り広げられている。


 「『内包影力』……こいつらのは何なんだ?」

 

 その言葉を聞いたのか、桃城の元に二つの物体が地面にめり込み、ひび割れを起こして着地した。


 「なんだそれは」

 「なにそれ」


 詰め寄るような視線を並べる、今や銀髪となった月詠と、片目から蒼黒の稲妻を巻き上げ鴉丸。


 双方、そこにいるソレに勝つために必死なようで、何よりも自分の今の上を行くための情報が欲しいようだ。


 「え? ふたりともしらないの?」

 「知らん」

 「影が使えるようなったら直感で力の使い方くらい覚えるのがほとんどなんだけど」

 「知らん教えろ」


 その気迫溢れる態度に、射竦められるよう、わわわわと漏らしながら桃城は後ずさりした。


 「いい? 私や影使いの持つ影というものは、簡単に言うと高エネルギーを持った粒子流体の塊。これをぶっ放すことで質量を伴う光弾の様にも使えるし、推進力としても扱える。筋組織に流しこむことで、常軌を逸した運動や活動も可能ってわけ。月影も同質な力を使う」


 腕組をしながらしたり顔で言う桃城。その語りに、前置きは良いからとっとと言えよと内心思いながらも、そうなのかと新しい知識を得る鴉丸と月詠。

 二人は戦闘中のその格好のまま、正座して携帯端末にメモを取りながらその話を聴く。


 「影の発現を自覚する時は人それぞれ。トリガーとなるものはまだわかっていないけど、一節では後悔や不安、それらストレス反応と破壊・殺戮衝動が交わった時に発現すると言われていて──」


 大あくびをして横になる月詠。ネコのように丸くなって小さくなる月影の横で、鴉丸も一つあくびをして、体勢を崩し両手を後ろの地面につける。


 「で、『内包影力』ってのは、このトリガーとなるストレス反応の種類と破壊衝動を満たす方法ってのが交わった時に決定すると言われているの」

 「それで?」

 「要するに、自分が『影』を自覚した時、衝動的に○○してやる! ってなった時のそれとほぼ合致してる的な?」

 「影を自覚した時……。俺はいいとして、他の影使い? とかだとどんななってんの?」


 口元に手を当てて考えこむ鴉丸。思考を巡らせて自分の過去を思い出しているような表情。脂汗がしわが寄った眉間を伝う。


 「ま、まああれよ。大切な恋人を寝取られたとかなら、満たせない独占欲を叶えるために、束縛の効果を持つ影に目覚めたとか。そういうのが居たかな」


 なんだその生々しい願望は、と鴉丸は言った。

月詠は影使いじゃなくて、月影は? と問い返したが、そんなの知るわけないし、そもそも敵同士なんだから教えるわけ無いでしょ、と桃城は返した。


 うなだれた様に月詠は鴉丸に擦り寄って、レンカちゃんが意地悪する~と言うが、やかましいと振り払われる。


 「人間じゃないからって扱い酷くない?」


 桃城に済ましたように言われる鴉丸の目元は冷たく細められている。


 突如、轟音と爆風、瓦礫が舞い上がる。

 銀色の光の柱が空を裂いて高く伸び上がる。


 「お、おいなんだよ」


 狼狽したように鴉丸は言う。さっきまでは横になりふにゃふにゃになっていた月詠が、姿勢を低くして爆心地の方向を紅い眼で睨みつけていた。


 「何を隠して。鴉丸の内包なんとかは、分身か何かじゃないの?」

 「は?」

 「不意打ちは通じないから」

 

 したり顔で銀の髪を揺らして胸を張る月詠だが、鴉丸はあんぐりとして目でその光景を見上げるだけだった。


 「お前何いってんの?」

 「え?」

 「てか、何見えてたの?」

 「……スイレン?」


 硬直する周囲と沈黙。静寂に吹き流れる潮風。

 鴉丸の頭の中には自分と同じ形をした何かが居る、分身、そんな言葉が頭の中で回っていた。

 暗い過去を振り返った時、その時の自分は自分の代替を求めていたような、求めていないような。仮にそれが己の内包影力と呼ばれるそれなのかを思案して押し黙る。


 「興ざめ。今日はもう帰って寝よ」


 沈黙を裂いて割られたのは月詠のそんなつぶやきだった。

 既に銀色に輝く髪色はなくなり、いつものサラリとした黒のショートカットに戻っている月詠の手を引かれ、鴉丸は立ち上がった。


 「付きあわせて悪いな。足代は俺が出す」

 「いいって別に」


その場を後のし、遠く離れた駅を目指す3人。鴉丸がふと振り返り、そのひび割れた平地に視線を移すと黒い粒子の集合体のような物が遠目に見えた。

渦巻くように人型に形成せいされた黒い影。それが分解されて、空気に溶け込んでいくようだが、下半身から消えていくその影の人型の頭部は最後まで鴉丸の方向を向いていた。


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