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影使いの街  作者: やぎざ
第一章 初まりの夜
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初まりの夜 10

鴉丸の筋骨格の再生は終え、消えた下肢は残す所皮となり始めた頃。月は高く登り、街から照らしだされる光と、星空の光が向かい合って相殺する。

 今日も歓楽街は不健康なネオンの光を上げて、人々はそこで出会いや分かれ、刺激や居場所に一喜一憂し酒を煽り、脂ぎった食物を咽頭の奥に流しこむ。


 そんな光景を尻目に、鴉丸と銀咲の月影である少女、月詠サラクは肩を寄せあって街を征く。

 目的は衣類を取り扱う大規模チェーン店だった。


 片足を血で滲み出させて筋組織をむき出しにする高校生と、それを支えるボロボロの服装の同年代らしき女子の二人組が店に来店した時には、店員は慌てた様子で病院に連絡を取ろうとしたが、鴉丸は掌を突き出し、無言で静する。


 「取り敢えず一式僕達に合う服を決めてもらえませんか? 予算は──」


 店員の趣味なのかどうなのかは分からないが、ストリート系の服装をさせられて「これで彼女ちゃんとは後十数年伸びますよ」と、ありがた迷惑な追撃を背中に受けた鴉丸はベンチで腰掛け、その鴉丸の元に数分後、月詠もやってきた。

 その格好も店員の趣味なのか、ゴシックロリータ調の服装を纏った姿だった。


 「似合ってる?」 

 「何でも似合うんじゃねーの?」

 「適当ね。モテナイよ? そんなに無愛想じゃ」

 「知るかよ。人の本質ってそういうところじゃねーだろ」

 「人付き合いもしない男がよく言うよ」


 笑ってそう言う少女に、鴉丸はムキになって言い返しもしない。正論だからだ。

 そして、何よりも疲労感と眠気が口を開ける気さえ起こさせなくする。


 「約束だけどさ」

 「おう」

 「スイレンがほんとに死にそうになった時だけ、私は横槍を入れるかもしれない。でも、それ以外は自主的に"同族"を潰すってことはしないことにする」

 「そうか。助かった。また怪我が治ったら挑んでこい。その時が俺の命日だ」


 周囲から見れば痛々しい会話だ。十七八になる少年少女が神妙な顔つきでそんな会話を繰り広げるが、不思議と周囲には人が寄ってこない。

 月影を嫌う無意識下の本能。境界という言葉が思い浮かんで、そして鴉丸は横に座る少女の横顔を見てから納得したようにため息を一つついた。


 「スイレンは殺すのは出来ないのに、自分が死ぬことは怖くないの?」

 「知らん。それに殺すことが出来ないワケじゃない。法に罰せられることもなく、自分の障害となる人間が居たとしたら真っ先に殺す」

 「アンタの力は、法で捌けない人間の世界で言う”科学的に立証されていない”力じゃないの?」

 「影使いが一方的に影を使えない人間を潰すのは不公平だ。この力を知らない人間は都市伝説か何かとしか思っていない」

 「なんかカタギを巻き添えにはしたくない的なヤクザみたいな精神ね」


 どこでそんな言葉を覚えたのか、と鴉丸は思う。

 自然発生で受肉する時、目標、目的に応じて一定水準の知識と知能が与えられる……そういうことなのかと鴉丸は思考を巡らす。


 「私を殺さなかったのは?」


 何時にもなく軽い感じでなく神妙なトーンと表情で月詠は問う。

 横から伸びる眼差しに、鴉丸は月影だとしても、その同年代の見た目をした少女の瞳に少しばかり硬直する。ハッとして思考を戻して、押し黙ってから腕組みをする。


 「アレだよ。昨日言ってたアレ」

 「アレ?」


 小首を傾げるその少女に、鴉丸はあーあーあーと何度も繰り返し、眉間に人差し指と中指を並べて添える。


 「孤独だのなんだの言っていただろ。孤独だって浸っていたら、別の孤独で有るしかない人はずっと一人だって。あれで……だ。共感を得た。こいつとはもしかしたら分かり合える。あの時は月影でも何でもない、一人の存在と対話している気になった。そう思ったから、今は生かしておいた」

 「なんだ。友達が欲しいだけだったんだ」

 「はァ!?」


 赤面してあんぐりと口を開ける鴉丸。

 横を向いた時に、その少女はお腹押さえてぐぅ~と地鳴りの様な音を立てる。

 そして、すくっと腰を浮かして立ち上がる。


 「お腹空いちゃった。まだ夜は早い。パパっと何か食べよ。傷の治りも早くなるかもよ?」

 「オイ待てよ。適当なこと言って納得してんじゃねーよ」

 「この辺にうまいラーメン屋来てるらしいって聞いたからさ」

 「それ誰に出させる気だよ。爺やからフンダクッてって来いよ」

 「だってそんなの居ないし」


 いー、と白い歯を見せ、くの字に体を曲げ、顔を鴉丸の方向に突き出す月詠。

 思わぬ失費だ、とうなだれるが、こうやって振り回される気分も悪いものではない。

 そんな感傷を抱きながら、鴉丸はあくびを一つして目元を擦って膝を叩き立ち上がるのだ。

 

 向かう先はこの街の夜。だが、それは鴉丸の日常である血を帯びて物騒なそれとは少し違う。

 普通の人間。普通の異性がわからないからこそ、 無邪気に動きまわる人間の形をしたそれと歩を共に出来たのかもしれない。

※別にコレ読んでおかなくちゃ話について行けなくなるよ! 的な補足でも何でもないメモ※


鴉丸スイレン

男    :15~16歳

身長   :178cm

髪色など :鉛色

血液型  :O型

出身   :遠方の中規模都市

誕生日  :3月21日

趣味   :下準備が面倒でない料理、睡眠、小銭稼ぎ(月影の始末)

大切なもの:安息な自分の時間

嫌いなもの:血縁者、自分、じっとりとした気候や空気

欲しいもの:理解者


理屈っぽい性格で無気力。表情も暗く他人には自分は理解されないと確信しており、誰か特定の人間と関わりを持とうとすることはない。

誰にも求められず、誰も求めずな生き方をしていたり、

金の稼ぎ方に死が伴うため、常に自分に振りかかるであろう暗い未来等を考えていく内に自分という存在への執着が薄れてきている。

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