言の葉裁定・規定説明
「スミレ」
「いいと思いますけど」
「うーん……?」
「ヒシャク」
「なぜそのチョイスを……」
「イヤ」
「ですよねえ」
「ボタン」
「うん?」
「…言いづらいですけど」
「似合いませんよね」
「……」
「痛っ!なにすんだ!」
「とりあえず、留保でいいですね」
「アオイ」
「やめてください」
「え、どうしたんですか?」
「私と被ります」
「あ、はい、ごめんなさい……」
「次行きましょう」
「ヒマワリ……いやこれはないな」
「つぎー」
「ツバキ」
「なんかイヤ」
「悪くはないと思うんですけどねえ」
「アジサイ」
「ちょっと名前には向かないのでは?」
「うーん、そうですか」
「アヤメ」
「……」
「これなら……?」
「留保しときましょう」
「ユリ」
「いやあ、烏にユリはどうでしょう?」
「それ以前に似合いませんね」
「……っ!」
「痛い痛い痛い!ごめんごめんなさい!」
「マリカ」
「イヤ」
「即答ですねえ」
「なにが気に入らないんだよ」
「キキョウ……そろそろ思い浮かばない」
「貧困ですねえ」
「う、じゃあアオイさんが挙げてくださいよ」
「スギヤマさんが出し切ったら言いますよ。あとその呼び方やめてください」
「え、なんですかそれ」
「えー、キンモクセイ」
「もう名前に使う前提を考えてないですよね」
「ひんこんー!」
「うぅ、く、くそう」
「シャクヤク」
「!」
「ちょっと響きが名前に使うものでは、あら?」
「えっ」
「シャクヤクで!シャクヤクがいいです」
「えー……、まあそれでいいならシャクヤクで」
……というわけで、なぜかいたくお気にいられたシャクヤクが今日からコイツの名前になった。
まさか今まで名前がなかったとは……ほんとうになりたて新米妖怪なんだなあ。
それにしても芍薬……立てば芍薬というが、うーん、名前負け。
「さ、ではここの欄に書いてくださいね」
狩人さん改めアオイさんに勧められるがままにペンを執り最後に残っていた空欄に名前を書き込む。シャクヤクは字が書けないので代筆だ。
それにしても妖怪互助会に提出する書類は思った以上に手間がかからない。住所と名前を書くだけで終了とかアンケートレベルだ。
「あとはスギヤマさんの印鑑と、シャクヤクちゃんの…髪の毛でいいかしら?一本貰えるかしら」
「え、うん、どうぞ?」
こうして互助会への提出書類は完成した。
……あれ?
そういえば、言われるままに書いていたけどこれって、かなりまずいんじゃないか?印鑑押しちゃったし。
「あ、あのっ」
「どうしました?」
すでに書類はアオイさんの懐に収められていた。胸元に。
……
あきらめよう
「これで私の要件は終えましたし、あとはあなたたちの知識不足をどうにかしないといけませんね」
耳が痛い
「お時間をいただけますか?もしやこれから用事があるようならここで退散させていただきますが」
「う、その、大丈夫です。よろしくお願いします……」
「では、説明させていただきますね」
あからさまにいままで手間がかかったことに怒っている!ごめんなさい!でもどうしようもないじゃないですか!
そんなこんなでアオイさんによる妖怪講座(基礎編)が開かれた。
ところどころに棘を混ぜて俺の胃をえぐってくるがきっちり説明をしてくれるアオイさんはやっぱりプロ意識の高い妖怪だ。それとも俺の妖怪に対する知識不足が深刻過ぎて危険なレベルなだけかもしれない。
ちなみに我が家の妖怪同居人烏娘改めシャクヤクは俺が寝かされているベッドに腰掛けて一緒に講座を受けている。ちらりと様子を見るととても感心したように説明に聞き入っている。どうやらこっちも知識が足りなさ過ぎるようだ。
おまえ妖怪だろ……
「……と、いうわけで私たち妖怪にとって月日の光は欠かすことのできないものです」
「はあ……」
「へぇ……」
アオイさんの話によると妖怪が妖怪であるためには妖力的なものが必要で、それを補給するには光合成(?)が有効らしい。
すごくクリーンなエネルギー源だな。
「……はぁ」
二人で感心しているとアオイさんは本日何度目かのため息をついた。
もしかして俺を回復させるときにかなり消耗してしまったのかもしれない。
あるいは書類仕事のせい?
「……よくもまあ、こんな」
「?」
「?」
「いえ、何でもないです」
「?」
「?」
どうやら俺たち二人にとても呆れている様子。
ところで中途半端に体をねじって話を聞いているので背中が痛くなってきた。
「とにかく、次の会合には必ず出席してくださいね。あんまり出席率が悪いといろいろ面倒なことになりますから」
話によると明後日にあるらしい妖怪互助会の会合に出ないといけないらしい。もらった予定表を見てみると平日休日問わず毎週1回は会合を行うようだ。そんなにやっても人数が集まらないんじゃないだろうか?
それと今度の会合では妖怪と暮らすためのノウハウを伝授してくれるらしい。どうやら妖怪講座(基礎編)だけでは一般生活を行うのに無理が出るようだ。詳しく話すと一日では足りないとかなんとか。めんどくさそうだなあ。
「わかってるとは思いますが、ちゃんと一般人に紛れる服装をしてきてくださいね」
「はい」
「あっ」
「……どうしました」
「……服はこれしかない」
……そうだった。コイツ、いやシャクヤクは一張羅だった……買わないといけないか。
と、そこで妖怪二人がこっちをじっと見ていることに気付く。えっ。
「……期待するだけ無駄ですね。明後日までに私が用意しておきます」
「ほっ」
完全に使えない男判定されてる!




