七難行軍・戦闘衣装
こんな経験は初めてだ。
体中を嫌な汗がつたい足が緊張と恐怖と得体の知れない感情で震える。
今すぐに逃げ出したい。いや逃げなければ。こんなことはダメだ。耐え切れない。俺には無理だ。
しかし俺の右手には決して逃れることのできない枷がある。逃げ出そうとする体を縛り付けるかのようにガッチリと、その場に留まらせるように引っ張る。
その枷、いやその手は、
ゴシックロリータスタイルのドレスで身を包んだシャクヤクの手だ。
街を行く人々の、好奇の、怪訝な、嫉妬の、嘲笑う視線が前を歩くスーツ姿のアオイさんと斜め後ろのシャクヤクに刺さり、返す刀で俺をえぐる。
恥ずかしい。やばいやばいハズいなにやってんのこれどうなってんだこれなんでこんなことにかわいいけどわあこっちみないでやめておねがいはやくまだつかないのかやばいあせがてがすべるなんでそんなにあるくのおそいんだよはやくはやくもういやだたすけていっそころせ
街行く人々の視線にさらされ、ひそひそと陰口をあちらこちらで囁かれる俺の精神は限界で逃げ道は回想しかない早くこの場を離れるんだ!
…… …… ……
「ちっ、スギヤマさん衣装を持ってきましたよ!」
朝一番のチャイムで目が覚めた俺とシャクヤクが玄関を開けると一瞬で不機嫌な表情になったアオイさんに舌打ちされた。
えぇー……
「お、おはようございます」
「……おはようございます」
恐る恐る挨拶をする俺と腕にしがみつくシャクヤク。アオイさんはさすがに態度が悪いと思ったのだろうかくるりと後ろを向き深呼吸、そしてくるりと戻ってくると、
「おはようございますスギヤマさん、シャクヤクちゃん。今日の会合に出るための衣装をお持ちしました。ちょっと着るのが難しい服なので、お手伝いをさせていただけるといいのですけれど」
プロの仮面を装備していた。おぉ、すごいけどこわい。
「は、はい、よろしくお願いします」
「よろしく、おねがいします」
シャクヤクはアオイさんには敬語を使う。といっても普段の言葉使いが少し丁寧になるだけだが。
そんな姿が普段は馴れ馴れしくタメ口を叩かれる俺にはかなり新鮮、というか意外で少しドキっとする。
「それじゃあ、上がらせてもらいますね」
…… …… ……
「あっ」
「わっ」
底の高いブーツに慣れないシャクヤクがもう何度目かわからないが大きくヨタついて俺の腕の中にすっぽりと収まるっておうわあぶ、いかん!
「っとと」
「ホワッ!タッオゥ……」
暗殺拳でも使えそうな奇声をあげながらなんとか支えるが周りの視線がやめろ見るなアオイさん笑ってないで助けて!
…… …… ……
「おぉ……」
「はい、止まって。胸をちょっと反らして、肩の力を抜いて手を前に重ねて、ちょっとうつむき加減に!…流し目で。はい、そのまま」
「おおぅ……!」
「どうです。立てば芍薬、とまではいきませんが華があるでしょう」
「か、かわいい……」
アオイさんにゴスロリドレスを着付けされたシャクヤクはとても可愛かった。なんというか、その、可愛かった。
あ、赤くなった。
「記念撮影しておきましょう」
アオイさんはまごう事なくプロだ!この人に任せておけば万事心配ない!それにしてもこんな趣味をしているとは思わなかった!
…… …… ……
「着きましたよ」
気がついたら人通りがほとんどない裏通り、どこにでもあるような雑居ビルの前でアオイさんが立ち止まっていた。
「えっ、ハッ!あっはい!」
よたよたと、歩く姿は千鳥足なシャクヤクが腕にもたれかかるのも構わず俺の視線は雑居ビルに吸い寄せられる。
……言われてみると、なにかおどろおどろしく感じるような、そうでないような?うーん?……まあいいか。
「ファーストインプレッションが大事ですからね。舐められたら終わりですから堂々としていてくださいね」
「えっ」
なにそれこわい。ヤクザ社会か何かですか?
「……ちょっと休憩してから入りますか。コーヒーでいいですか?」
「え、あの、あー、甘すぎなければ」
「ブドウがいいです!」
やっぱり細やかで気が利く人なんだなあ。自販機に向かうアオイさんを見てとりとめのないことを考える。妖怪互助会。魑魅魍魎の溜まり場か魔の巣窟かそれとも……
「ふー、やっとついたね。もう帰りたいけど」
俺に寄りかかるシャクヤクが弱気を漏らす。もしかしたら慣れないブーツで歩き疲れただけかもしれないけど、いつもよりか細く見える肩にそっと手を置く。
「大丈夫だよ。アオイさんもいるし。大丈夫」
「その呼び方やめてくださいって言ったでしょう」
戻ってきたアオイさんが缶コーヒーを手渡してきた。この人にはお世話になりっぱなしだ。いつかお礼ができるといいんだけれど。
「じゃ、じゃあどう呼べばいいんですか」
「……まあ、とりあえず中に入ったら黙っていてくださいね。自分の名前だけ言えればあとは良いので」
露骨に話をそらされた……なんだろう。真名が知られてはいけないとかそういう何かでもあるのだろうか。
「では、中に入りますよ。……ふふっ」
ドアノブに手をかけたアオイさんが妖しく笑う。でもなんだろう。不思議と心が落ち着いた。
不安げに力がこもるシャクヤクの手をギュッと握り返す。
「ようこそ、妖怪の世界へ」
そして扉は開かれた。
これにて「妖しい同居人」の第一章?は終わりです。
彼らを今後、どのような出来事が襲うのかそれはまだ、うん、その、えーと……
えー、ぶっちゃけますと、まだ続きの構想が全然出来ていないどころか迷宮入りしそうな状態なのでこのお話はとりあえずここで一旦切らせてもらいます!
この先を期待していた人は申し訳ありません!現在の私の力量ではここまでしか書けませんでした。
なにはともあれ、ここまで読んでいただいた方々、ありがとうございました!




