余所の目他人の目・事実無根
大仰なリアクションを取ろうとしたらめまいに襲われた。慣れないことをするものじゃないな。まだ体調は戻りきってないみたいだし。
何バカやってんだろう、俺……
「……まあ、信じられないかもしれません。証拠を見せれば早いのですが、あんまり見て気持ちのいいものでもないので、とりあえずでも信じていただいたら嬉しいのですが」
失敗したリアクションをちゃんと拾ってくれるプロ意識の高い美人さん。すごく恥ずかしくなってきた。
「……しかし、どうしても信じられないというなら話は別です。でも、後悔しないでくださいね」
「あ、いや、その、知ってます」
「あら」
襟元に手をかけた美人さんがちょっと意外そうな声を出した。
心なしか残念そうにみえる……見せたかったのか?
美人さんがこほん、咳払いをして訪ねてきた。
「それじゃあ……」
「アナタは、どこまで知っているのかしら?」
空気が変わった。
美人さんがこちらをじっと見つめる。こっちの思考まで見通すかのような真っ黒な瞳に反射的に視線をそらしてしまう。
なんだろう、一瞬、すごく、こわい。
「ふぅん……なるほどねぇ」
にこにこと微笑みながら何かを悟ったかのような口ぶり。まるで獲物の習性を知り尽くした狩人のような、いや、そんな。
俺が獲物?
「あ、あのっ!」
不意に上がったアイツの声で圧迫感が消え去った。
ふっと緩んだ空気に無意識に止めていた息をそろそろと吐き出す。
危かった。何が危いのかはわからないが、とにかく危い。
「緊張させてしまったかしら。ごめんなさいね」
息を吐き切ったところに声をかけられぎくりとした。思わずむせこんでしまう。
この人(?)こわい。
「繰り返しになるけど、あなたは、この子と私たちのことについてどこまで知っているのかしら」
プロ意識の高い美人配達員さん(狩人)の追及が止まらない。
無理だ。これは勝てない。もう降参である。狩らないでください。
「……えぇと、まず、ソイツはカラスの妖怪で、居候で、家事はできない。元がカラスなせいなのか手を使うのが苦手みたいで、箸がうまく持てなくて食事をするときは犬食い気味なせいでよく飯をこぼしてきたない、それで服が一張羅、というか自前の羽根?で出来ているんですけど、ほかのものを着たがらないうえによく汚すんですけど、変にきれい好きというか、汚れた服は気に入らないみたいですぐに洗い始めて、服が乾くまで布団にもぐっていることが」
「ストップ」
「多くて目のやり場に、あっ、はい」
「その子のことについてはもういいわ。私たち、妖怪のことについてはどこまで知っているのかしら」
つい余計なことまで口走ってしまったようだ。狩人さんがちょっとあきれているように見える。話せって言ったくせに!
アイツを見ると縮こまってふるふる震えていた。恥ずかしがっているのだろうか。
あ、目があった。
赤面しながらにらんできた。
かわいい。
「どうしたの?」
「えっ!?、あっ、えー……互助会があって生活費を援助してもらうことになっていると聞きました!」
…… …… ……
「それだけ?」
「あっはい、それだけです」
「この子がどんな妖怪かは?」
「カラスの妖怪なんじゃないんですか?」
「……妖怪がどんなモノなのかは?」
「……さあ?」
そういえば妖怪って何をするんだ?食事は人並みに食べてたけど。
「……はぁ」
狩人さんはため息をついた。なにやらまずい受け答えをしてしまったようだ。
「もう一つ質問をいいかしら」
「は、はい」
「この子があなたのところに来たのはいつごろかしら」
「連休初めだから、5日前です。あと、ソイツはほとんど外を出てないんじゃないですか?」
食糧買い出しの時も外に出なかったですし、と付け加えると狩人さんはさっきより深くため息をついた。あれ?
「つまり、あなたたちは」
「?」
「?」
「名前も知らないままで住まいが定まったことを互助会に報告することもなくただ連休中をずっといちゃついて過ごしていたわけね」
「え!?」
「!?」




