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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
1章 女神の微笑み

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5話 エルフの魔法

「それでは私から自己紹介させて頂きますね。私はアメリア・エーデルワイスと申します。隣はユリ。先日はユリを助けて頂いてありがとうございました」


「俺が、助けた……?」


 エルフの女性改めアメリアさんの話からするに、獣人の少女ユリちゃんは、俺が思う人物で間違いなさそうだ。

 しかし、俺の記憶が正しければ、俺のしたことはユリちゃんを突き飛ばしただけであり、あの状況を解決するものではなかった。


「あれ? 記憶にありませんか?」


「あぁ、いえ……ユリさん? のことは勿論覚えています。ただ、俺はユリさんを助けたとまでは言えなかったような気がして……」


 アメリアさんは小さく首を横に振り、優しく微笑む。


「そんなことはありません。ユリは、あなたの行動にとても胸を打たれたそうですよ? 結果は別として、あなたのした行動は勇敢だと私は思います」


 俺に胸を打たれたと言われたユリちゃんの顔に目をやると、またすぐに逸らされてしまった。

 あまり良い印象を与えているようには思えない。


「すみません。ユリは少し、男性に慣れていないものでして。悪気はないんです。どうか、許してあげて下さい」


 アメリアさんは困ったように笑い、ユリちゃんの頭を撫でた。

 確かに、よく見るとユリちゃんの頬は少し赤く、恥ずかしがっているように見えなくもない。

 アメリアさんの言葉を全て鵜呑みにするわけではないが、ひとまずはそういうことにしておいても良いだろう。


「ところで、そろそろ戦士様のお名前をお聞きしても?」


「あっ、これは失礼しました。俺は、レイズ・グラスノー。冒険者をしています」


 反射的に、首元にあるはずの冒険者証を探す。

 しかし、俺の左手は空を切るばかりで、何も掴むことはできなかった。


「レイズさんですね。お探しの物はちゃんとありますよ」


 アメリアさんは、俺の前に紐のついたシルバーのプレートを差し出してきた。

 レイヤ5を示す赤色の線が五本引かれている。


「大切な物ですものね。でもすみません。レイズさんの私物で、持ち帰ることができたのはこれだけでして……」


 アメリアさんは申し訳なさそうに目を伏せた。


「あぁ、いえ、それは仕方ありません。それがあるだけでもありがたいです」


 俺が街で出会ったのはユリちゃんだけだ。

 アメリアさんがいたとしても、二人とも細身だし、鎧や槍を持ち帰ることは難しいだろう。

 それにあの状況だったのだから、俺の身体を持つだけでも困難なのではないだろうか。

 というか、それこそどうやって俺の身体を運んだのだろう。

 俺は身長もそれなりに高いし、鍛えている分重い。

 アメリアさんとユリちゃんの二人がかりでも、俺を背負えるとは思えなかった。


「そう言って貰えると、ありがたいです」


 アメリアさんは一口、食事を口に運んだ。

 一つ一つの所作に品があり、庶民的な料理がまるで高級料理のように見えてしまう。


「ところで、レイズさんにお願いしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」


「はい。何でしょうか?」


「レイズさんには暫くこの家に滞在して欲しいのです。レイズさんの身体は私が治療させて頂いたのですが、かなり難しい治療でしたので、暫く経過を診させて頂きたくて……」


 どうやら俺は、アメリアさんに治療を施して貰ったようだ。

 明らかに致命傷だったあの傷を、いったいどうやって治療したというのだろう。

 エルフには何か、俺の知らない秘術でもあるのだろうか。


「それは願ってもないことですが、その前にどうやって治療を? そもそも俺は生きているんでしょうか?」


 馬鹿なことを聞いたかもしれない。

 ただどうしても、今目の前に広がる世界に現実感が湧かなかったのだ。

 傷一つない俺の身体、神聖な種族であるエルフの女性、まるで全てが夢の中の出来事のようにも思えた。


「そうですね……治療方法は魔法です。レイズさんの知る治癒魔法とはまた違った魔法だとは思いますが、結果的に見れば同じようなものです。そして、あなたはちゃんとこの世に存在しています。私もユリも、そしてレイズさんも、全て本物です」


 既存の治癒魔法では、あそこからの回復は不可能と言って良いだろう。

 だからこそ、治癒魔法とは違うというのはそうなのだろうが、その違った魔法というのは結局何なのだろうか。

 あまり、納得のいくような答えではなかった。


「……そうなんですか?」


 俺の想いを察してなのか、アメリアさんは少し黙り、部屋には沈黙が流れる。

 ふと、アメリアさんは手を伸ばし、その手を俺の手に重ねた。

 柔らかい感触と温もりが伝わってくる。


「納得できませんか?」


「い、いえ、そういうわけではなのですが、あまりにも現実感がなくて……」


「レイズさんの気持ちも凄くよく分かります。自分の身体のことですものね。ただ、口で説明するのも難しくて……その説明は追々させて下さい」


 アメリアさんは、俺を上目遣いで見つめながら、優しく言葉を連ねた。

 アメリアさんのような美人に見つめられると、気恥ずかしくもなる。

 それに、こうして身体に触れられて温もりを感じると、少し現実感も湧いてくるのは確かだ。


 目の前に座るアメリア・エーデルワイスという名のエルフが、俺を救ってくれたという事実に間違いはないだろう。

 少なくとも、それが悪意によるものではないことは分かる。

 そんなことをしたところで、何の得もないからだ。


 ならば、俺のするべきことは、アメリアさんを疑うことだろうか。

 追々説明してくれると言うのだから、ひとまずはそれでいいだろう。

 それよりも、俺は人間として大切なことを忘れているのではないだろうか。


「色々とお気遣い頂いてありがとうございます。それと改めて、アメリアさん、それにユリさんも、救って頂いてありがとうございました」


 アメリアさんは、俺から手を離し、元のように座って再び微笑んだ。


「どういたしまして」


 気づくと、食事もそろそろ終わりに近づいていた。

 やはり、腹が満たされるというのは良いもので、幸福感が湧いてくる。


「フレンは……俺と一緒にいた女性を知りませんか?」


「女性ですか? えーと、私は知らないですね。ユリはどうですか?」


「……走ってどこかに行った」


「そうですか……」


 恐らく、フレンはあの場所を離れることはできたのだろう。

 ただ、だからといって無事とは限らない。

 そもそも、あの炎の巨人はどうしたのだろうか。

 俺や、ユリちゃんがこうしていることを考えると、炎の巨人はフレンを追って行った可能性が高い。

 そうなるとフレンがどうなったのか、悪い想像ばかりが脳裏に浮かんでしまう。


「レイズさん。心配なことは沢山あると思いますが、まずはゆっくり身体を休めることが肝心です。ご自身では大丈夫と思っているかもしれませんが、レイズさんの身体はとても不安定な状態なんです。いつ容体が急変してもおかしくありません。ですから、ここで療養をお願いしたいです」


 アメリアさんは、まるで俺が考えていることを見透かしたように言った。

 できることなら、俺は今すぐにでもフレンや仲間たちの安否を確かめたい。

  

「お気遣いありがとうございます。ただ……」


「ただ?」


「あそこには俺の大事な仲間たちがいたんです。皆の安否だけでも確認したい。少しだけでも外に出ることはできませんか?」


「なるほど、そうですか……」

 

 アメリアさんはおもむろに立ち上がり、部屋の窓の前へと移動した。

 そして、カーテンに手をかけ一気に開く。

 窓から見える景色は、辺り一面に広がる荒野だった。

 木々の一つも生えてはいない。

 俺のいた街の近郊では、見たことのない景色だ。


「レイズさん。見ての通り、ここはレイズさんのいた街からは遠く離れた場所になります。そしてあなたもまた、一晩だけ寝ていたというわけではないのです。レイズさんが目覚めるまでには、実に三週間ほどの時間を要しました。そして、先の件は決着が既についています」


「……」


 驚いた。

 驚きのあまり、声を失ってしまった。

 三週間というと、かなりの期間俺は寝ていたということになる。

 医療について深い知識はないが、そもそも人間は、三週間も寝ていて大丈夫なのだろうか。


「そ、そうだったのですね。それで、その、決着というのはどのようなものだったのでしょうか?」


 部屋の中を、また沈黙が支配した。

 物音一つ聞こえない中で、アメリアさんはすぐに答えてはくれない。

 冷静で、どんな感情ともとれない顔で俺を見ている。


「一応、新聞記事をとってあります。そちらを見るのが一番早いと思います。食事が終わったらお見せしますね」


「はい……」


 アメリアさんは再び席に着き、食事を再開した。

 俺もまた、掻き込むように食事を口に運ぶ。

 三週間もの時間があれば、きっと様々な情報が出回っていることだろう。

 街はどうなったのか、フレンや仲間たちは無事なのか、そして街を襲った魔族たちは何者だったのか。

 全てはどうして起こったのか、その真実が知りたかった。

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