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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
1章 女神の微笑み

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4話 カンマ

 俺は目を覚ました。

 身体が重く、まだ脳がうまく動いていないような感じがする。

 二日酔いの朝のように気だるく、頭が痛んだ。

 見覚えのない天井、微かに感じる風、窓から入ってくる柔らかな日差し。

 気温も高く心地好い。

 頭や背中には、柔らかな弾力を感じた。

 どうやら俺はベッドに寝ているようだ。

 見覚えのない服だったが、ゆったりとした寝間着のような服を身に着けている。


 真っ白なシーツに俺の身体は包まれていた。

 ゆっくり身体を起こし、自分の手を見る。

 普通だ。

 何も異常はない。


 かけられたシーツをどかし、恐る恐る着ている服を上にまくり上げる。

 何もない。

 俺の腹は特に傷もなく、何事もなかったかのようだった。

 徐々に意識がはっきりとしてくる。

 自分の置かれた状況が理解できなかった。

 俺はあの時、確実に腹を貫かれた。

 そして死んだはずなのだ。


「おはようございます」

 

 声のした方向に顔を向けると、俺の傍らに一人の女性が座り、こちらに微笑んでいた。

 黒いワンピースを着ていて、髪は腰ほどまで長く、艶やかな美しい金色をしている。

 慈愛に満ちた微笑みは、まるで女神のように優しく、思わず見惚れてしまうようだった。


「女神様……?」


 脊髄を介さず、反射的に出た言葉だった。

 彼女は少しだけ驚いたような顔をして、小さく笑ってくれた。


「残念ながら、女神ではありませんよ。勇敢な戦士様」


「えっ、あ……えっと、すみません」


 清楚で慎ましやかな雰囲気を纏った彼女は、とても美しかった。

 歳は俺と同じくらいに見えるが、溢れでる気品に少し萎縮してしまう。

 そして、最も驚くべきことは、上側の先端が長く伸びた耳だ。

 当然初めて会う、この世で最も神聖な種族。

 彼女は恐らくエルフと呼ばれる種族だ。


「お身体の具合はいかがですか?」


「あっ、はい。大丈夫です」


「それは良かったです。朝食の準備がしてあるのですが、良かったらご一緒にどうですか?」

 

 エルフの女性はとても嬉しそうに微笑み、俺に食事を振る舞ってくれると言った。

 そもそもエルフは世界的にも珍しく、かなり貴重な種族である。

 なかなかお目にかかれるものではない。

 確かここ百年以上くらいは、存在すら確認されていなかったような気がする。

 エルフと食事など恐れ多いことだが、確かに空腹感はあるし、食べないと頭も回ってこない。

 俺は素直に、エルフの女性の厚意を受け入れることにした。

 それにしても、冬の朝にしては温か過ぎる。


 部屋を出ると、廊下があり絨毯が敷かれていた。

 広さもそれなりにあるようで、パッと見でも幾つか部屋があるのが分かる。

 俺はこんな大きな屋敷に入ったことなどない。

 金持ちの貴族の屋敷なんかは、こんな感じなんだろうか。


 ぼんやりとした頭で考える。

 そもそも俺は生きているのだろうか。

 あれだけの傷を負えば、普通は死ぬ。

 奇跡的に助かったとしても、無傷なんてことはあり得ない。

 俺はあの時死んで、ここは既に死後の世界だとか言われたほうが納得がいくくらいだ。


 エルフの女性に連れられて部屋に入り、席に着く。

 六人がけくらいの長方形のテーブルだ。

 俺の正面にエルフの女性が座ると、床をゆっくりと走る車輪の音が聞こえ、配膳用のワゴンが運ばれてきた。

 そして、それを運んできた女性の顔は、見覚えのあるものだった。


 獣の耳に近い少し丸みのある耳が頭にあり、黒髪が肩より少し上くらいの長さで整えられている。

 華奢で小柄な獣人の少女。

 俺が死ぬ間際に突き飛ばした、あの獣人の少女だ。

 今日はあの時と違い、可愛らしいメイド服を着ている。

 この少女も、あの時絶体絶命の状況だったはずだが、怪我をした様子もなく、元気そうだった。


 獣人の少女は、ほんの一瞬俺の顔を見てお辞儀をした。

 ただ、特に言葉などは交わすこともなく、ワゴンに置かれた食事を粛々と配膳していく。

 まるで、本当に会ったことなどないような振る舞いだったため、俺も言葉をかけることができなかった。

 もしかしたら、似ているだけで別人という可能性もある。

 本音を言えば、あの後何がどうなって今があるのか確認したかったのだが、ひとまずは黙っておくのが無難だと思った。


 ライスに目玉焼きとウィンナー、レタスとトマトのサラダ。

 そして、コンソメスープとお水。

 庶民的なラインナップが食卓に並ぶ。


 目の前のエルフの女性が余りに上品だったので、もっと高級そうな食事が出てくるものと思っていた。   

 少し拍子抜けだったが、逆に見慣れたもので安心するというものだ。


「さて、それでは食べながらお話しましょうか」


 エルフの女性の合図で食事が開始される。

 ウィンナーは、噛むとパリッと音を立てて肉汁が溢れ出てくる。結構良いやつだ。

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