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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
3章 Road to hope

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36話 命の天秤

 見上げる空には雲一つ浮かんではおらず、眩しいほどの日差しが照りつけていた。

 昨日の雨が嘘のような快晴で、地面もある程度は乾いている。

 微かに水分を含んだ泥の匂いがするが、恐らく、馬車の移動に大きな問題はないだろう。


「今日は進めそうっすね!」


「あぁ。そうだな」


「準備終わったよ~」


 マックとともに空を見上げていると、俺用で準備していた服に着替えたフレンが、髪を結びながら洞穴の中から現れた。

 かなりダボダボの服ではあるが、ところどころを結び、上手く着こなしている。

 何と言うか、フレンが着ると服その物がまるで別の服のように見えた。


「悪いな。色々と不自由をかけて」


「ん~ん。むしろ、貸してくれてありがとね」

 

 フレンは笑う。

 その穏やかな笑顔は、俺の影にかかりそこに太陽の光は届かない。





 数時間が経ち、俺たちは緩やかな山道を登っていた。

 標高はそれほど高くない山で、普段から人も往来するため、一応道は整備されている。

 歩きやすい山ではあるが、山の中は障害物も多く、油断することはできない。

 こういうところには、グレゴリーたちのような輩が住み着いている可能性もあるのだ。


「何か思い出すな~」


 フレンは軽く空を見上げながら、ふと呟いた。

 独り言にしては大きくはっきりとした言葉だ。

 恐らく、俺に言っているのだと思う。


「……どうした?」


「ん~、ちょっと昔のこと。レイズと初めて会ったのも、こんな感じの山の中だったよね? 覚えてる?」


「ん? あぁ、覚えてるよ」


「レイヤ1の魔法士が、報酬欲しさにソロで依頼を受けるなんて、今考えれば無謀だったよね」


「そうかもな」


 俺とフレンは、ともに苦笑いをした。

 冒険者は、駆け出しの頃が最も死亡率が高くなる。

 実力や経験不足もあるが、最たる理由は無茶をしがちであるということだ。

 その頃は、俺やフレンも類に漏れず無茶をしていたと思う。


「あの時のフレンは、結構尖ってたよな。泣いてた癖に、石なんか投げてきてさ」


「まぁね~。だって、人の仕掛けた罠に嵌って動けないなんて、恥ずかしかったからさ。レイズはヒョロくて弱そうだったよね」


「うるさいな」


 フレンの足元に目線を落とす。

 裾を捲ったズボンから見える足首には、木こりの仕掛けたトラバサミによる傷跡が、薄く残っている。


「へ~、レイズ殿って昔は細かったんすか? 今はゴリラみたいな肩幅してるのに」


「そうそう! 背が高くて細いから、ホントもやしみたいな感じ!」


「まぁ、それだけ鍛えたんだよ」


 マックが会話に入ってくる。

 マックもまた、当然のように人当たりが良い。

 グレゴリーたち自警団の脅威が去ってからというもの、フレンとマックはこの二日間でそれなりに打ち解けていた。


「それでさぁ。嫌がる私に『いや、泣いてる女子を、お、置いてけないから……』なんて言って、そのわりに全然目が合わないの。『初心すぎでしょ!?』って感じでさ~」


「へ~、そうだったんすね~」


 マックがにやつきながら俺を見てくる。

 確かに、その頃の俺は都会に馴染めず口下手で、パーティーを作るのにも苦労していた。

 だからこそ、俺も一人だったのだ。


「それは別に言わなくていいだろ……」


「ごめんごめん。でも、その時何匹かのゴブリンに襲われたんだけど、レイズは意外と頼もしくて、正面から立ち向かっていってさ。結果的に二回も助けられちゃったんだよね」


「まぁ、ゴブリンたちに止めを刺したのは、フレンの魔法だったんだけどな」


「それなら、むしろフレン殿がレイズ殿を助けたってことじゃないっすか?」


「あ~、確かにそうかも!」


 俺たちは、三人で笑い合った。

 最期の旅とは言え、雰囲気が良いに越したことはない。

 俺としても居心地の良い、奇妙なパーティーだ。


 そんな雑談をしながら、山の中腹へと差しかかった頃、日は空高く真上に昇っていた。

 そろそろ身体に違和感を覚え始めてもおかしくはない。

 早めに休憩を提案しておいたほうが良いだろう。


「マック、そろそろ休憩にしないか?」


「そうっすね。もう少し行ったところに水場があるっす。そこで一息いれるっす」


「分かった。そうしよう。フレンも良いよな?」


「うん。勿論!」


 二人の了承を得て、俺たちはマックの言う水場を目指した。

 そこから数分歩き、開けた沢に行き着く。

 マックは御者台から降りると、沢に近づき流れる水を覗き込んだ。 


「雨の影響っすかね~、前にきた時よりも増水してる感じもするっすが、底の石もはっきり見えるし、綺麗そうっす」


 俺とフレンも沢に近づいてみると、確かに水は澄んでいて透明だった。

 何なら水浴びでもしたいくらいに思える。

 もっとも、沢はかなり浅く、それは叶わないだろうが。

 

「自分はここでチャッピーに水を飲ませるっす。二人は、先に下で顔でも洗ってくると良いっすよ」


 マックの指差した先を見てみると、緩やかな斜面を降りた先のほうが、水深も深く沢が広くなっているように見えた。

 足場が悪く、馬車ごと行くことは難しいだろうが、人間なら難なく往復できるだろう。

 それにマックから離れたほうが、薬も飲みやすい。 


「そうだな。そうさせて貰うよ。フレンも行こう」


「うん。そうだね」


 マックは沢の高い位置に留まり、俺とフレンは斜面を降りて沢のすぐ側まで近づく。

 そして、水面に手を伸ばそうとした時、目眩がした。

 軽く顔を洗っている内に身体が怠くなり、爽快感を得られるはずが、気分は段々と悪くなってくる。

 いつもの症状が、やはりきてしまったようだ。

 この分では、本当にクリスがサウスディアにくるまでもたなくなってしまう。

 

「レイズ……? 大丈夫?」


 自分でも気づかぬうちに、俺は顔をしかめていたようだ。

 水面に自分の顔が映り、フレンはそんな俺を覗き込んできている。


「あぁ……大丈夫だ」


 俺はポケットに手を突っ込み、薬の入った小瓶を取り出した。

 そして蓋を開け一粒の薬を取り出そうとした時、腹の底に響くような、重苦しい地鳴りが響き渡った。


「こ、この音は……?」


 フレンは動揺し、辺りを見回す。

 たいして風も吹いていないというのに、木々は大きく揺れ、山がざわめいている。


「レイズ殿ー! フレン殿! 早く上がってくるっす!!」


 上にいるマックの、鬼気迫るような叫び声が俺たちを呼んだ。

 それに応えるように上を見た時、それは訪れた。


 沢の奥から、大量の泥水と大木を巻き込んだ黒い波が、うねりを上げてなだれ込んできている。

 昨日の大雨で地盤が緩んでいたのだ。

 それはまるで、全てを飲み込む大蛇のように見えた。

 その流れは速く、とてもじゃないがマックのところまで戻ることなどできない。 


「フレン! 走れ!」


「あっ、ちょっ、きゃっ……!」


 俺が叫んだ後、俺たちの足元の大地が激しく震え、フレンはバランスを崩し転倒してしまう。


「くそっ!!」


 俺は踵を返し、フレンの元に手を伸ばす。

 そしてその瞬間、俺の手中から薬の入った小瓶がすり抜けるように落下し、甲高い音を鳴らしながら地面へと転がった。

 俺の命を繋ぐ唯一の欠片だ。

 背筋が凍る。

 まるで心臓を締めつけられたような感覚だった。

 死の恐怖。

 そして目の前には、怯えながら手を伸ばすフレン。

 それらを天秤にかける時間などない。

 俺は迷いなくフレンの手を取り、庇うように抱き寄せる。

 

「フレン! “プロテクト”だ!」

 

「プ、“プロテクト”!」


 黄色い発動光とともに魔力壁が俺たちを覆う。

 直後、轟音とともに強烈な衝撃が俺たちを襲い、俺とフレンの身体は、無慈悲な奔流に飲み込まれていった。

 彼女が生きていてくれることだけが唯一の希望だった……


次話 第37話 何のために生き 何のために傷つき 何のために苦しまなければならないのか


 是非、見て頂けると嬉しいです!

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