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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
3章 Road to hope

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34話 冷たい雨粒

 朝を迎え、幌の隙間から朝日が差し込んでくる。

 鳥の声とそよぐ風の音が、ぼんやりとした頭の中に入り込んできた。

 軽く目を擦りながら身体を起こす。

 流石に疲労感はあったが、身体に痛みなどはない。

 隣でいびきをかいているマックを起こさぬように、そっと外へと身体を運んだ。


「あっ、レイズ。おはよう!」


 振り返ったフレンの表情は、昨日より明るく、心身ともに少しは回復しているように見えた。

 俺もまた、見慣れたフレンの顔をこうして朝に見られることは嬉しくもある。

 

「おはよう。大丈夫だったか?」


「あ~うん。全然大丈夫。ちょっと疲れたな~って感じはするけどね」


 フレンは、座りながら両手を挙げて軽く背伸びをした。

 灯りとなっていた焚き火は既に消されており、後処理も殆ど終わっているようだ。

 流石に手際が良い。

 

「何かね、やっと朝がきたな~って感じ」


「そうか。やっぱり、見張りなんかさせて悪かったな。疲れているとは思ってたんだが……」


「あっ、ん~ん。それは大丈夫。それくらい当然だよ」


 フレンは軽く首を横に振り、柔らかな笑顔を見せた。

 そして立ち上がり、俺の隣に並ぶ。


「レイズ。改めてだけど、私を連れてきてくれてありがとう。これから宜しくね」


「あぁ……俺のほうこそ宜しくな」

 

 フレンを連れ出したとは言っても、俺たちがともにいられる時間は少ない。

 フレンはもっと、暗い顔をしているだろうと思っていた。

 しかし、そんな想像とは裏腹に、フレンはまるでつきものが取れたかのように晴れやかで、迷いのない顔をしている。


「フレン……?」


「ん?」


 フレンの心の傷や悲しみが、一晩で癒えるはずなどない。

 それなのに、どうしてこんな顔ができるのだろうか。

 フレンの中で何が変わり、何の整理がついたのか、俺には想像もできなかった。

 朝日に照らされたフレンの横顔は、とても凛としていて、綺麗だ。





 サウスディアへと向かう道中。

 曇天の空の下、まだ昼になるかならないかという時間帯だというのに、俺は身体に異常を感じた。

 目眩や倦怠感など、いつもの症状だ。

 今までは決まって夜に感じていた症状だったが、今日はいつもよりも早い。

 足がふらつくのを感じ、マックに声をかける。


「マック。そ、そろそろ休憩にしよう」


 マックは、一瞬俺の顔を真顔で見つめ、すぐにいつもの笑顔を見せた。


「そうっすね。そろそろ腹も減ってきたっすし、この辺で休憩にするっす!」


 俺たちは馬車を止め、昼食の準備を始める。

 俺は、マックが食料を漁っている隙に、薬を口に入れ流し込んだ。

 頭が熱くなるような感覚に耐え、精一杯平静を装う。

 

「レイズ、大丈夫?」


 フレンが小声で囁きながら、俺の顔を覗き込んできた。

 フレンには、別に隠す必要はないだろう。

 ポケットの中から、薬の入った瓶を少しだけフレンに見せる。

 

「あぁ。すぐに良くなる。これが、俺の命の源なんだ」


「……それがなくなったら?」


「段々身体が動かなくなって、最後には消滅するらしい」


「そう……なんだね……」


 フレンは寂しそうに俯き、その目線は薬の入った瓶に注がれる。

 そして、俺の手に触れたフレンの指先は、微かに震えているようだった。

 

 それにしても、こんなにも早く薬が必要になるとは、思っていなかった。

 昨日グレゴリーに刺された影響もあるのだろうか。

 何にせよ、このまま薬の間隔が短くなっていくようなら、クリスがサウスディアを訪れるまで俺の身体がもつのかも怪しくなってきてしまう。

 自分ではどうしようもないことだからこそ、焦る。

 そして、そんな俺を嘲笑うかのように、一滴の雨粒が俺の手の甲へと落ちてきた。

 それはまるで、フレンから伝う温もりすらも俺から奪うほどに、冷たい。

 

 雨脚は次第に強まり、酷い土砂降りへと変わっていった。

 打ちつける雨は、容赦なく俺たちの視界を塞ぎ、乾いていた土の匂いは瞬く間に泥の匂いへと変わっていく。

 ぬかるんだ地面では、とてもじゃないが馬車での移動は無理だ。

 俺たちは比較的木々が密集しているところに行き、俺の土属性魔法で地面を隆起させ、簡易的な洞穴を造って雨を凌ぐこととした。

 

 数時間経っても雨は止まず、雨が上がる頃には、既に夕暮れを迎えていた。

 キリギリスの鳴く声が辺りを包み、小さくとも強い生命力を感じさせてくる。


「今日はこのままここで野営っすね。昨日はあんまり休んだ気もしなかったっすからね~。良い休息なんじゃないっすか?」


「あぁ……まぁ、そうだな」


 マックは俺の気も知らず、呑気なことを言っていた。

 最悪、マックと別れてでも前に進むことも考えたが、まだサウスディアまでは距離がある。

 今の段階では、馬車の有用性を失うことのほうが後々響いてくるだろう。

 俺は、はやる気持ちを抑え、じっと我慢した。

 

 やがて夕食を終えた後、俺は再び目眩や倦怠感に襲われた。

 これが今日だけのことなのか、明日以降も続いていくのかは分からない。

 ただ、もし続いていくのだとしたら、これからは今までの二倍の薬が必要だということになるだろう。

 それはつまり、俺に残された時間も半減することを意味している。

 彼女の目線は一瞬泳ぎ、二人の間で繋がっていた一本の線は、その接点を持たなくなる……


次話 第35話 約束 


 是非、見て頂けると嬉しいです!

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