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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
3章 Road to hope

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27話 俯く彼女

 フレンは、まるで幻でも見ているかのような呆けた顔で、その場にへたり込んでしまった。

 無理もない。

 フレンはあの日、俺が腹を貫かれるのを見ていたのだ。

 俺がとても助かるような状況ではなかったことを、フレンは知っている。


「……レイズ殿、知り合いっすか?」


 マックは少し戸惑いながら、俺の顔を覗き込んできた。


「……あぁ。俺の仲間で、同期なんだ。彼女は大丈夫だ」


 俺は、フレンの元へと歩みを進める。

 フレンが無事に生きていて、こうして再会することができたことは、勿論嬉しい。

 ただそれ以上に、フレンの憔悴した顔と、怪しい仮面を被り、人を襲う集団に身をやつしているという現状が心配だった。

 俺がフレンと別れた後色々あったように、フレンもまた、その心を捻じ切られそうになりながらここにいるのだろう。

 

「フレン。久し振り。あの時は、最後まで守れなくて、ごめん」


 俺は表情を緩め、優しく手を差し伸べる。

 フレンは戸惑いながら俺を見上げ、声を震わせた。


「レ、レイズなはずない……だって、あの時レイズは……」


 そう。

 あの時、俺は死んだ。

 そして得体のしれない身体となり、今ここにいる。


「俺は本物のレイズだよ。色々あってな……」

 

「……ほ、ほんものぉ?」


 まるで少女のような声に、思わず笑みが零れた。

 そして、フレンの頬には涙が伝う。


「あぁ、そうだ。一緒に行こう」


 フレンは泣きながら頷き、俺は彼女を引き上げる。

 足元が覚束ないフレンは、俺の身体にしがみつき、声を上げて泣いた。

 

 俺は、確かに本物のレイズ・グラスノーだ。

 嘘は言っていない。

 ただ、俺の存在が受け入れられるものではないことも分かっている。

 それはきっと、フレンにとっても同じだ。

 そんな俺が、フレンの肩を抱くことなど許されるのだろうか。

 俺はそっと、フレンの身体を僅かに引き剥がすようにして、フレンの背中を撫でた。




「レイズ殿ー。いまいち納得いかないんすけど、あの人レイズ殿の彼女か何かっすか?」


 マックは、訝し気に俺を見て言った。

 マックからすれば、フレンは自分たちを襲った集団の一人なのだから、怪しむのも仕方がないだろう。

 フレンのことも、本当は落ち着くまで傍にいてやりたかったのだが、町に急ぐため今は馬車の中に入って貰ってる。

 時折、微かにすすり泣くような声が漏れ出してきていた。


「そういうわけじゃないんだが、長く一緒にやってたんだ。あんなことをしているのにも、何か事情があるんだと思う」


「事情って……そもそもレイズ殿ってどこの冒険者だったんすか?」


「俺の拠点はディバロだったよ」


「あぁ……それは、色々あるっすね」


 マックは神妙な顔をして黙った。

 戦争に巻き込まれ、難民となった人たちは、相当な数にのぼるだろう。

 セレーヌさんやアレク君もそうだし、フレンや他の冒険者仲間たちもそうだ。

 皆、多くを失い、それでもそれぞれの道で必死に生きている。

 その中で、皆が皆、日の当たる道を歩けるとは限らない。

 俺のように悪足掻きをする馬鹿もいれば、フレンのようになりふり構っていられなくなる者もいるだろう。

 それにもし、俺がフレンについていられたのなら、今のフレンも違う道を歩けていたかもしれない。

 

 やがて俺たちは、ウエストリバーの町に入る。

 そこはリーブスよりも小さく、町というよりも村に近いような、のどかな場所だった。

 雨が降っているためか、外に出ている人は少なく、閑散としているように見える。

 ひとまず俺たちは、町の門番に頼み、近くにあった見張り台の下で雨宿りをさせて貰うこととした。

 フレンもまた、馬車の幌を開け外へと顔を出す。

 その表情は暗く、どこか虚ろだった。


「フレン?」


「……あっ、うん。その、さっきはごめんなさい」


「あぁ、いや……」


 できれば、フレンに事情を聞きたかった。

 そうでなくても、何か話をしたい。

 しかし、肩をすぼませ俯くフレンに、何から話せば良いのか分からなかった。

 気まずい沈黙がしばらく続く。


「おーい! レイズ!」


 遠くから聞こえてきたのは、偉そうな男の声で、聞き覚えのあるものだった。

 

「何すかアレ?」


 マックが指差すほうから、金髪の男が十数名の仲間を引き連れて、ぞろぞろと歩いてきている。

 その連中の中には、フレンの持つ仮面と同じ物を持った者もいた。

 そして中心を歩く金髪の男は、見覚えのある顔をしている。

 グレゴリー・ランス。

 ディバロの冒険者だった男だ。

 

 グレゴリーは確か、レイヤ4の冒険者だったような気がする。

 わりと先輩で、年も結構上だったような気がするが、正確には覚えていない。

 そもそもあまり興味もなく、関係性の薄い先輩だった。


 グレゴリーが近づくとともに、町の門番からの目線が冷たくなるのを感じる。

 恐らく、あいつが俺の名を呼んだことで、同類とでも思われたのだろう。

 まったく迷惑な話だ。

 やがてグレゴリーは俺の前まできて、口を開いた。


「よぉ、レイズ。フレンからは死んだって聞いてたけどな。生きてたんだなお前」


「……はい。一応」


 少しずつ、こいつの記憶が蘇ってくる。

 グレゴリーは、高飛車で高慢な性格の男だった。

 新人いびりが趣味のような奴で、こいつに辞めさせられた駆け出しも多い。

 俺も昔はいじめられたものだ。

 そういえば、俺がレイヤ4に上がった頃あたりから、めっきり話しかけてこなくなっていた気がする。


「俺は今、元冒険者たちを集めて、この町の自警団をしている。お前ら、通行料は払ったのか?」


「関所で払いました」

 

「関所とは別で必要なんだよ」


 なるほど。

 先ほどの門番の冷たい目の理由も分かった気がする。

 こいつは勝手にこの町に住みつき、自警団を名乗りながら町に入る者を襲ったり、金を取ったりしているのだろう。

 住民にとっては迷惑極まりない存在だろうが、なまじ人数も多く、グレゴリーは腐ってもレイヤ4の冒険者だ。

 揉めれば町に被害が出かねない。

 この規模の町だと冒険者ギルドもないだろうし、抑止力となるべき軍の統制も今や行き届かず、仕方なく放置されているといったところか。


「あ~、そういうことっすか。ちなみに幾ら必要なんすか?」


「一人二万リリアだ」


「二万リリアって、関所の十倍以上じゃないか! ふざけるなよ!」


「町の平和を守るためだよレイズ。払わねぇってんなら、こっちにも考えがあるぜ」


 俺たちを嘲笑うように、自称自警団の奴らは笑った。

 こうコケにされては、流石に腹が立つ。

 槍を持つ手にも力が入る。


「あ~、はいはい。二万リリアっすね。払います、払います。どうぞお納め下さい」


 グレゴリーと睨み合う俺を他所に、マックはさっさと金を出した。

 グレゴリーが顎を出し、それを見た長髪の男がマックから金を受け取る。

 先ほど、俺たちを襲ってきた奴らの一人だ。

 仮面を外したその顔は、なんとなく見覚えがある気がする。

 名前は忘れてしまったが、グレゴリーの取り巻きにこんな奴がいたかもしれない。


「商人のほうは話が分かるらしいな。この町での安全は、この自警団が保証しよう」


 グレゴリーは、ほくそ笑みながら、白々しく言った。


「グレゴリー……さん。あんたなら、義勇軍にでも冒険者でも、どこでもやれるだろ? 何でこんなことをしている」


「どこでも重宝されるってのは事実だが、俺は誰かの命令で動くような三下じゃねぇのさ」


「……そうか」


 そう言えば、こいつはこういう奴だった。

 我が強く、自分勝手。

 他人に迎合することを極端に嫌い、自分の意見は絶対に曲げることはない。

 その自信がどこから湧いてくるのか分からないが、どちらにせよ協調性の欠片もない奴だ。

 魔族との戦争によって、軍と協力体制を敷く義勇軍や冒険者の中では、収まりが悪かったのだろう。


「フレン! いつまでそんなとこにつっ立ってんだ!? 行くぞ!」


「あっ……えと……」


 グレゴリーに呼びつけられたフレンは、俺の顔を見ず小走りでグレゴリーの元へと行ってしまった。

 そして、グレゴリーはフレンの肩に腕を回し、俺に向かって舌を出す。

 グレゴリーが、俺に喧嘩を売ってきているのは分かる。

 ただそんなことよりも、顔を隠すように俯くフレンが気になった。


「フレン。大丈夫なのか……?」


「……」


 フレンは何も答えてはくれなかった。

 そして、グレゴリーとともに、俺に背を向ける。


「レイズ~。生きてて良かったな~」


 グレゴリーは、そんな捨て台詞を残し、去って行く。

 そして一瞬、フレンは俺のほうを振り返った。

 憂いを帯びたその瞳が、少し辛そうに見える。

 

 ディバロで活動している時も、俺はグレゴリーとはウマが合わなかった。

 それは、フレンも同じだったと思う。

 偉そうに騒ぐグレゴリーを冷ややかな目で見ていたはずだ。

 それに、フレンだってレイヤ4の冒険者なのだ。

 グレゴリーに力でやり込められたわけじゃないと思うのだが、何故フレンはあんな奴とともにいるのだろうか。

 

「ああいう輩も、治安の悪い地域にはいるもんす。この辺はそうでもなかったんすけどね~。まぁ、関わらないに越したことはないっすよ」


「……あぁ。そうだな」


 ふと空を見上げると、雨が上がり、太陽が顔を覗かせていた。

 一生消えることのない傷を、彼女に負わせてしまったのだ……


次話 第28話 傷心 


 是非、見て頂けると嬉しいです!

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