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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
3章 Road to hope

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26話 氷の魔法士

 マックとの旅路は、大きな問題はなく順調に進んでいた。

 基本的には、魔獣や魔族との戦闘は避けつつ、やむを得ない場合のみ俺が撃退している。

 俺の身体のほうはというと、基本的に薬を飲んでから丸一日ほどで、身体に異常をきたすようになってしまった。

 日を追うごとに目減りしていく薬を見て、自分の命の残量を毎夜自覚させられている。


 最初の目的地であるウエストリバー近くの関所にたどり着いたのは、想定より早く、リーブスを出てから五日目の夜だった。

 関所は、ホクレイの関所と同じように老兵が数人いるのみで、抑止力としての力はあまりないように見える。

 俺たちは関所の近くで野営をし、翌朝にはウエストリバーに向けて出発した。





「ここにきて雨っすね」


「ここまでが順調過ぎたくらいだからな。土がぬかるむ前に町に入れれば良いが……」


 町まであと数キロメートルまで迫った頃、曇天の空からは細く弱い雨が降り出していた。

 雨脚は弱いものの、土がぬかるんでしまうと、馬車の車輪がはまって動けなくなってしまうため、急ぐ必要がある。

 俺たちはフード付きの外套を纏い、街道を急いだ。

 

 そして、比較的高い木々が並ぶ雑木林にさしかかった頃、俺は少し違和感を覚えた。

 木々や葉の揺れる音が、吹く風によるものだけではないように感じる。

 そして、微かに聞こえる金属音。

 恐らく、近くに人がいる。

 それも一人や二人ではない。

 四、五人程度はいるのではないだろうか。

 

「マック……マック……」


 小声で話しかけると、マックは俺の様子を察して、緊張した顔つきになる。


「どうしたっすか?」


「多分、見られている。獣系の類じゃない。町からの距離も考えれば、恐らく人族だ」


「見回りとかっすかね?」


「いや、そういう雰囲気ではない気がする」


 確かな根拠があるわけではない。

 言うなれば“勘”というやつだ。

 肌が少しひりつくような、殺気を感じる。

 恐らくは、野盗か何かの類だろう。

 この時世だからこそ、そういう輩は増えるものだ。


 こういう場合、敵は俺たちの意表を突こうとするはずだ。

 もし魔法士がいれば、中、遠距離からの魔法攻撃。

 そうでなければ投石などから先制してくるだろう。

 俺なら、馬車が逃げないよう正面に二人配置し、攻撃は側面か後方から仕掛ける。

 そして、魔法や投石を放つなら、上からだ。


 俺から見て左側面。

 俺のいる場所とは反対側の上方で、青い光が見えた。

 発動光の色からして、氷属性魔法だ。

 俺はマックの座る御者台に飛び移り、素早く左側面へと移動した。

 次の瞬間には、鋭く細長い氷柱が複数襲いかかってくる。

 マックとチャッピーを狙ったものだ。

 槍を抜き、正確に払い落す。

 

「いただきだー!!」


 何がいただきなのか分からないが、変な仮面を被った男が二人、俺の正面の雑木林から飛び出してきた。

 俺は素早く槍を振り、叫びながら出てきたほうの頭を殴って意識を刈り取る。

 そしてそのままもう一人の右太ももを突き、膝が折れたところで顔面をぶん殴った。


「ぎゃふっ!」


 男は、情けない声を漏らしながら、仰向けに倒れる。

 こういう輩は殺されても文句は言えないのだが、万一町の人間だった場合、後が面倒くさい。

 それに、これほど弱いなら無力化するくらいで十分だ。

 俺は蘇生魔法で造られた骸骨たちとは違う。

 決して、人殺しの道具ではないのだ。


 魔法の追撃がこないところをみると、恐らく魔法士は移動している。

 逃げたか、馬車の前方で待機しているであろう仲間と合流したか。

 そんなところだろう。


「そこの者止まれ! 我々はウエストリバー自警団だ!」


 馬車の前方から、男が二人近づいてくる。

 声を上げた男は、長髪で偉そうに胸を張っていた。

 相変わらず仮面をつけていて、その素顔は見えない。

 

「お前らのような奴らが自警団?」


「そうだ! 怪しい者の侵入を防ぐために我々はいるのだ!」


 とてもそんな風には見えない。

 自警団の人間が『いただきだー!!』なんて言いながら、襲いかかってはこないだろう。

 それに、そのわけの分からない仮面はなんなのだ。

 そんな物をつけている自警団など聞いたことがない。


「俺たちからすれば、お前らのほうが怪しいぞ。お前ら自警団じゃないだろ?」


「き、貴様、何を言うか」


 長髪の男は、動揺したように声を震わせる。

 それにしても、魔法士の姿は見えない。

 まだ奇襲を狙っているのだろうか。


 不意に強い風が吹いて、俺とマックの外套のフードがめくれ上がり、雨粒が顔へと降りかかってくる。

 少し雨が強くなってきているようだ。

 こんなところで道草を食っている場合ではない。


「お、お前は……」


「ん?」


 長髪の男は、驚いたようにたじろいだ後、すぐに踵を返した。


「退却だ!!」


「は、はい!」


 俺たちの前に現れた男たちは、我先にと去って行く。

 これでは、いったい何のために胸を張って出てきたのか分からない。

 とりあえず分かったのは、奴らが自警団を名乗っているということだけだ。

 奴らの狙いは、恐らくマックの積み荷だっただろう。

 最初にマックと馬を狙ったあたりからも、それは間違いない。


「マック。雨も強くなってきた。急ごう」


「そうっすね」


 フードを被り直し改めて前を向いた時、再び仮面をつけた人間が一人、立ち塞がってきた。

 シルエットは細く、少し暗めの長い茶髪を後頭部の高い位置で結んでいる。

 登場人物的に言えば、氷属性魔法を撃ってきていた魔法士だろう。

 そして、こいつは女だ。


「何だ? まだやるのか?」


 女は何も答えず、ただゆっくりと、仮面を外す。

 俺はその素顔に驚愕し、息を飲んだ。


「……レイズ……なの?」


 聞き覚えのある声。

 少し痩せた頬。

 そして、酷く疲れたような、光のない瞳。

 

「……フレン」


 俺のかつての仲間であり、ディバロでの最後の夜をともに駆け、俺が最後まで守ることができなかった女性の名前だ。

 肩をすぼませ俯く彼女に、何から話せば良いのか分からなかった。沈黙が続く……


次話 第27話 俯く彼女 


 是非、見て頂けると嬉しいです!

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