24話 極光
「少しは休んでもらっても良いんすよ?」
「いや、いい。休むと眠っちまいそうなんだ」
俺と行商人のマックは、行動をともにすることを互いに了承し、ひとまずリーブスへの道を歩いていた。
俺にとってもう一度リーブスに戻ることは、あまり意味のないことではあったが、マックにとってはそうではない。
食料の補充もあるし、積み荷もそこそこ捌かなければ、今後の旅にも支障が出るだろう。
それに俺もまた、体力の限界だった。
「ところでマック。お前は俺の言葉を信じるのか?」
「え? 何がっすか?」
「魔族の話だよ。おおかた聞いてるんだろ?」
「あ~、そうっすね~」
マックは考えるように顎に手を当て、少し上を向く。
「まぁ、どちらでもないってとこっすかね」
「どちらでもない?」
「まぁ、自分にとっては、レイズ殿の言っていることが正しかろうと、嘘であろうとどっちでも良いんすよ。要は、損得勘定ってやつっす。自分としては、レイズ殿に協力することでレイズ殿が安く護衛に就いてくれるのなら、そのほうが得なんす。人件費も馬鹿にならないっすからね~」
マックは手のひらを広げて、諦めたように首を横に振った。
「なるほどな。納得した」
これくらいドライでいてくれるのなら、俺もやり易いというものだ。
どうせ俺は、近いうちに消えてなくなるのだから、あまり情が湧くのも宜しくない。
「ところで、聖騎士団についての情報だが……」
「あぁ、そうっすね。町で一休みしてからのほうが良いかと思ったっすが、今が良いっすか?」
「できれば、今が良い」
マックは俺を薄給で雇う代わりに、聖騎士団について見聞きしたことを話すと約束してくれた。
勿論、俺の話を噂として流すこともやって貰う。
取れる手段は、全て取るべきだ。
「そうっすか。それじゃあ、何についての情報がお望みなんすか?」
「そうだな……クリスチーナ・レングスについては知っているか?」
「あ~、あの“救世主”とか、“極光”とか色々言われている、聖騎士団の人っすね。彼女は、今かなり売り出し中の人っすから。まぁ、知ってはいるっすよ」
“極光”という言葉は、クリスに似合いの言葉のようにも思える。
クリスは他では聞いたことがないほどに、多彩な魔法を操る魔法士だ。
以前、クリスがまだ村にいた頃、得意気に見せてくれた魔法は、とても美しく幻想的で、その様はまさに極光と呼ぶに相応しかった。
俺が、複数属性魔法の多重行使が常人技ではないことを知ったのは、冒険者を志してディバロに出た後のことだ。
「売り出し中って……アイドルじゃないんだから……」
「でも実際そんな感じっすよね。ルックスが良いのは分かるっすけど、何かプロパガンダ的って言うか……凄い魔法士らしいっすけど、どこまで本当の話なんすかね?」
どうやら、クリスのような輝かしい道を行く者にも、それ相応の苦労があるようだ。
こんな風に色々言われてしまうのも、仕方ないと言えばそうなのだろうが、あの真面目なクリスを思えば、かわいそうに思える。
もっとも、俺に言われたくはないだろうが。
「あの人は凄い魔法士だよ。そうでなきゃ、魔法大学のトップになんかなれないさ」
「まぁ、確かにそうっすね。それで、彼女の何が聞きたいっすか?」
「できることなら本人に会いたい。それができなくても、何とかして連絡を取りたいんだ。どこにいるかとか、そういう情報はないか?」
「え? それ、会ってどうするっすか? まさかレイズ殿、熱狂的なファンとかっすか? それなら、そんなストーカーみたいなこと止めたほうが良いっすよ?」
マックは、まるで汚い物でも見るかのような目で俺を見た。
俺としても、そんな言われ方をするのは流石に心外だ。
「……そうじゃねぇよ。理由は何でも良いだろ。で、情報はあるのか?」
「ん~、流石に居場所までは分からないっすけど、最近話を聞いたのは、“サウスディア”っすかね」
サウスディアは、シアイン帝国の西側に位置する街だ。
俺も数度行ったことがある街で、リリア教の大きな聖堂がある街だった。
かなり遠くはあるが、恐らく二週間くらいの道のりだとは思う。
マックは懐から、一束の記事を取り出す。
帯にはリリア教の紋章が描かれており、教団が発行する専門紙であることが分かる。
日付は少し前の物だ。
「三ページ目に慰問イベントの話があるんすが、二、三週間後にサウスディアで開かれるものに、そのクリスチーナさんの名前も載ってるっす。本当にくるかは分からないっすが」
マックに言われたページに目を通すと、数名の聖騎士団員が参加する予定となっていて、そこにクリスの名前も記載されていた。
聖騎士団は、憧れる子供たちも多いし、こういったイベントに呼ばれるのも頷ける。
本当にその余裕があるかは状況次第なのだろうが、予定されているのならば行く価値はあるだろう。
そのイベントの正しい日取りは、今日から丁度二十日後と書かれていた。
ユリちゃんから貰った薬を全て使うと仮定しても、俺の身体が動くギリギリの日程だ。
「なるほどな。俺はこのイベントに間に合うようにサウスディアに行きたいんだが、マックはどうする?」
「……あ~、別に良いっすよ。サウスディアなら。それなりに大きな街っすし、元々西側に行く予定だったっすから」
「そうか。それなら良かった。できれば明日には発ちたいんだが、それでも良いか?」
「ん~、今の時間からして明日っていうのはちょっと……明後日でも良いっすか?」
できることなら、今からでもサウスディアに向かいたかったが、マックの都合を全て無視するわけにもいかないだろう。
もし間に合わないようなら、マックと別れることも視野に入れるべきだが、二週間の旅路となると、食料などの荷物もそれなりに必要になる。
やはり、馬車を使えるという利点は捨てがたい。
それに、それならそれで、やるべきこともある。
一番は、クリスと直接話ができるのが良い。
しかし、サウスディアに行ったとしても、それが叶うとは限らない。
聖騎士団は本来、軍とはまったく別の組織ではあるが、今はそうも言ってられない状況なのだ。
また大きな戦闘があれば、そちらが優先される。
それに俺自身も、サウスディアまで無事にたどり着けるか分からない。
保険は打っておくべきだろう。
「……分かった。明後日の朝には出発するで良いか?」
マックは少し苦笑いをした。
「レイズ殿の急ぐ気持ちは伝わってくるっす。まぁ、リーブスに長居するつもりはなかったっすから、別に良いっすよ」
「すまないな。それと、聞きたいんだが、軍関係とリリア教関係で場所を知っている施設はあるか?」
「そりゃ知ってるっすけど、どの辺のが知りたいっすか?」
「とりあえず、マックが知ってるのは全部だ」
「え? 全部っすか!?」
こうしてみると、マックと出会えたことは幸運に思える。
俺一人では、この道に光明が差すこともなかったかもしれない。
疲労はピークに達していたが、不思議と気分は良かった。
リーブスに戻った後、マックの取った宿で身体を流し、俺はしばし眠った。
俺の希望。そして終わりに向けた門出は、曇り空の下、少しだけ雨が降っていた……
次話 第25話 Road to hope
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