22話 Miss Swing
今話より第三章 Road to hope が始まります。
新たに定められた目的。
それに向かって残された命を燃やすレイズ。
極光の如く輝く幼馴染。
暗い影を落とす二つの心。
傷を負った二人の歩む道は、希望の道となるのだろうか。
是非、見て頂けると嬉しいです!
空が少しずつ白みを帯びてきて、夜が明けることが分かる。
土や枝葉を被り、隠れるように仮眠を取った俺は、身体を起こし西へと向かった。
目指すのは“リーブス”という名の町だ。
ホクレイに戻るというのも選択肢の一つではあったが、俺の身体をそれなりに多くの人に見られてしまっているし、戦いが終わっているとも限らない。
それであれば、ホクレイから近く、軍の施設もあるリーブスに行くのが比較的安全かつ効果的だと思った。
俺に残された時間は少ないのだ。
一分一秒でも無駄にすることはできない。
それなりに起伏のある道を四半日ほど歩き、リーブスが見えてくる。
途中、魔獣などにも遭遇はしたが、問題なく対処できる範囲の遭遇だった。
少し小高い所から見る町は、魔族に襲撃されたような形跡はなく、素朴で温かみのある様相を保っている。
「ここがリーブスか……」
一息つき、安心する。
まずは、ここが魔族たちに襲撃されていなくて良かった。
着いたは良いが、既に壊滅していましたでは話にならない。
ディバロやホクレイよりは簡易的な門に入ると、関所の役割も兼ねているようで、衛兵が待ち構えていた。
金を払い、簡単な手続きをしながら、衛兵に尋ねてみる。
「魔族関連のことで話がしたいんですが、話せるところはありますか?」
衛兵は手を止めて、俺を軽く睨んでくる。
対応するのが面倒なのか、それとも俺を怪しんでいるのかは分からないが、どっちにしろ良い反応ではない。
「ここは街の出入りを取り締まる場所だ」
「だから、どこに行けば良いかを聞いているんだ!」
こういう融通の利かない奴に当たってしまうとは運がない。
俺も思わず声が大きくなってしまう。
衛兵は、少し憤慨したような顔をしたが、黙って町の中の地図を出してきた。
そして、わりとここからすぐ近くの場所に丸をつけ、突き出してくる。
「分かった。すまない。ありがとう」
地図を受け取った俺は、足早に地図に示された場所へと向かう。
リーブスの軍施設は、町の中ではそれなりに大きな建物だったが、あまり人がいるような感じはなく、閑散としている。
恐らく、主だった者はホクレイの援軍に行っているのだろう。
それは仕方のないことだ。
受付の女性に話をすると、これまた怪訝そうな顔をされて、カウンターの一番端の席で待つように指示される。
数十分ほど待った後、気難しそうな壮年の男性がやってきて、俺の前に座った。
「ええと……レイズ・グラスノーさん?」
「はい」
男性は、俺の風体を確認して、小さく溜息をつく。
「見たところ、冒険者さんのようですが、義勇軍には参加されないのですか? 見ての通り我々も人が足りていなくてね。健康な方には是非参加して頂きたいのですが」
「……そういう状況は分かっていますが、今日はその話をしにきたのではありません」
「そうですか。魔族関連の情報提供でしたね。ええ、勿論探していますよ。我々軍隊が、それこそ血眼になってね」
よく見ると、男性の目の下にも大きなクマが見える。
ここはまだ戦場にはなっていないとはいえ、大変な状況であることに変わりはないのだろう。
俺のような面倒そうな者の相手など、誰もしたくはないのだ。
俺はリンク・ストーンやスプーフィングなどの魔族たちの技術や、アメリアの言っていた魔界の存在について、知っていることを洗いざらい話した。
男性は、ぼんやりとした顔で俺の話を聞いている。
俺の熱量に対して、あまりに手応えのない反応だ。
「はぁ、聞けば聞くほど、おとぎ話のような話ですね」
男性は鼻で笑い、身体を横に向ける。
「ええと……グラスノーさん? あなたが義勇軍に入れない理由も何となく分かりましたよ。この状況下ですから、冒険者の方にも色々あるのは分かりますがね。残念ながら、精神的な病院となるとこの辺りには……」
「もう、いいです。お時間とらせてすみませんでした」
立ち上がり、背を向ける。
俺の言うことが信じられないというのも分からなくはない。
もし、逆の立場だったとしたら、俺もすぐには信じられないだろう。
ただせめて、もう少し真面目に話を聞いてくれる相手でなければ、無駄に時間を浪費するだけだ。
軍関連の施設が一番手っ取り早いというだけであって、他にも話ができる施設はある。
それから俺は、様々な施設を渡り歩いた。
衛兵の詰所を回り、役所や冒険者ギルド、それに商人ギルドや町長の家さえも。
そして、どこに行っても似たような対応をされる。
見ず知らずの冒険者である俺の話に、聞く耳を持ってくれるような人はいなかった。
徐々に陰っていく夕陽を見上げる。
大事な一日だというのに、刻一刻と終わりが近づく。
「クソ……!」
俺は、手頃な場所にあった針葉樹に拳を叩きつけた。
普通であれば、もう宿を取らなければならない時間帯ではあるが、俺はそんな悠長にはしていられない。
要は、証拠があれば良いのだ。
アメリアとともに使ったリンク・ストーン。
それをここまで持ってこれれば、俺の話にも説得力が増すはずだ。
俺は軽く食事を済ませた後、さっさと町を出て、ホクレイ近郊の森まで足を走らせた。
「確かこの辺だったはずなんだが……」
森の木々に手をつき、体重をかけながら辺りを見渡す。
目的の場所の近くにはきているはずなのだが、アメリアがスプーフィングで変えたような低木は見当たらない。
夜になり、視界が悪いのも分かるが、そうも言ってられないのだ。
俺は休息も取らず、必死に森の中を彷徨った。
結局明け方になっても目的の物は見つからなかった。
よくよく考えてみると、アメリアが自分の屋敷へと繋がるリンク・ストーンを、そのままにしておくことは考えにくい。
アメリアは俺からの最後の復讐だって警戒しているはずだ。
もし、俺が何人もの兵士を引き連れて、自分の屋敷に乗り込んできたとしたら、アメリアとて困るだろう。
焦るあまり、冷静な判断を欠いていた。
俺の考えも、行動も、ことごとく空回りしている。
ユリちゃんと別れてから、既に一日と半分が経過しており、更にここからリーブスまでも四半日はかかるのだ。
前にアメリアの屋敷から抜け出した時は、三日目で身体に異常をきたした。
そう考えると、あまりにも時間が足りない。
荷物から小瓶を取り出してみる。
『ユリ』とだけ書かれている小瓶だ。
中にはそれなりの数の錠剤が入っている。
できれば手を出したくない物ではあるが、もしかしたらこれを飲まざるを得ないかもしれない。
ユリちゃんの顔を、そしてアメリアの顔を思い出し、そして自分の決意を思い出す。
俺の死は、決して犬死にであってはならないのだ。
俺はなんとしてでも、俺の言葉を国と大衆に届けなくてはならない。
俺はどうすれば良いのだろうか。
何をするべきなのだろうか。
必死に考え、思考を巡らすが、上手く考えが纏まらない。
そして、一人で延々と考えていると、眠気が襲ってくる。
思えば、昨日からろくに休息もとっていなかった。
この身体は気持ち悪いほどの再生力はある癖に、疲労もするし、眠くもなる。
どうせ人間ではないのだから、いっそのこと疲れも痛みも感じないような、永久機関でも持った身体のほうが都合が良かった。
足をふらつかせながら森を出る。
ひとまず、ここに留まっていても仕方ない。
帰りながら、リーブスでの動きを考えるべきだ。
「ちょっと、そこのお方!」
街道へと出た時、不意に正面から声をかけられる。
顔を上げると、デカい荷台をつけた馬車と、馬の手綱を握る獣人の男がいた。
小柄でまだあどけない顔をしていて、年は十代後半かそこらといったところに見える。
耳と尾は狐色で、少し硬そうな毛並みが特徴的だ。
恐らくは狐種の獣人だろう。
「冒険者の方とお見受けするっす。ちょっとお話良いっすか?」
何を言うのかではなく、誰が言うかだ……
次話 第23話 光明
是非、見て頂けると嬉しいです!
少しでも面白いと感じて下さる方がおられましたら、ページ下部の【ブックマーク】と【★評価】を頂けると大変励みになります!




