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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
2章 DOLL

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19話 DOLL

 しばらくは、動くことができなかった。

 胸や脇腹の傷は思いの外深く、死ぬほど痛い。

 内臓が出てきてしまってもおかしくないくらいの傷だ。

 普通であれば、こうなってしまってはもう助からない。

 精々、最後の力を数秒ふり絞れるかどうかといったところだろう。

 だが、俺はどういうわけか、まだ生きている。

 人ならざる身体で。

 

「押し返せーー!!」


 誰かの号令が響き、慌ただしい足音と、気合の乗った声が聞こえてくる。

 恐らく、スカル・リザードが倒れたことで、反撃の糸口ができたのだろう。

 俺自身、こうやって寝転がっていても、無事なのがその証拠だ。


 曇りのない空を見上げていると、急にいかつい顔の男が目の前に現れる。

 そして、大きな斧が俺の頭上に振り下ろされた。

 間一髪で身体が反応し、身体を回転させて躱しつつ、その勢いのままに立ち上がる。


 周囲を見回すと、先ほどまで骸骨たちとともに戦っていた兵士や冒険者たちの一部が、遠巻きに俺を囲むように立っていた。

 強烈な殺気が、突き刺さってくる。


「何の……つもりだ」


「そりゃあこっちの台詞だぜ、兄ちゃん」


「……俺は、骸骨たちと戦ったんだぞ」


「そうだとしても、その光はなんだ?」


 俺の胸や脇腹から、薄紫の光が放たれている。

 それは、骸骨たちから放たれる光と同じ光だ。

 骸骨たちと俺の身体に共通点があることは、俺が一番感じている。

 俺にだって何が何だか分からない。

 むしろ、どういうことか聞きたいのはこっちのほうだ。


「俺だって分からない」


「そんなんで、ここにいる奴らが納得すると思うのか? 街を滅茶苦茶にしやがって……何人死んだと思ってる」


「お、俺は、何もやってない。セレーヌさん、そうだよな?」


「……」


 セレーヌさんは、何も言ってくれなかった。

 アレク君の目を塞ぎ、まるで庇うように抱き寄せている。

 そして俺に向けられた目は、おぞましいものを見るような、恐怖を帯びた目だった。


「セレーヌさん……」


 セレーヌさんの表情は、俺の心の奥深くに、とても強く刻まれた。

 今の自分は、かつて苦楽をともにした仲間にさえ、受け入れられることはないのだ。

 こうして危険を顧みず、命を賭けて戦ったとしてもそれは変わらない。

 俺という存在は、ここにいる兵士や冒険者たちにとっても、そしてセレーヌさんにとっても、恐怖の対象でしかないのだ。


「この魔族がぁ!!」


 俺の背後からの攻撃だった。

 凄まじい衝撃が走り、俺の身体は前に突っ伏す。

 俺の胸を鎧ごと貫通した矢が、少し先に転がった。

 恐らく、クロスボウの矢だろう。


「ぐえぇぇ……! ゴホッ、ゴホッ……」


 強烈な痛みに耐え、地面を這いずりながら、やっとのことで身体を起こす。

 俺の周囲にいた者たちは、どよめきながら後ずさった。

 どうやら俺は、胸を撃ち抜かれたとしても死なないらしい。


「あ、頭だ! 頭を潰せぇえ!」


 誰かが言った。

 その声を皮切りに、周囲の者たちが一斉に襲いかかってくる。

 皆の憎しみも、悲しみも、怒りも全て、俺に向かって注がれているような気がした。


「“マッド・ウォール”……」


 真下の地面を隆起させる。

 できるだけ高く、誰も登ってこれないように。

 身体を引きずりながら、何とか立ち上がり、近くにあった建物の屋根に飛び移る。

 

「屋根の上だー! 追えー!」


 幸いにも飛行系の魔法を持つ者はいなかったようで、すぐに追撃がくることはなかった。

 力を振り絞り、一歩一歩足を前に出す。

 俺の脇腹、そして胸から放出される薄紫の光は、細い糸のようになり俺の身体を修復していく。

 俺にはそれが、まるで人形を編み込むかのように見えた。





 半壊した建物の瓦礫の影に隠れ、息を潜める。

 最初こそ兵士や冒険者たちによる追撃の気配を感じたものの、骸骨たちとの戦闘は未だ続いており、深追いされることはなかった。

 

 少し落ち着いて息を吸う。

 この戦いで、俺がもう人間ではないことが身に染みて分かった。

 最後に見たセレーヌさんの顔は、もう二度と忘れることはできないだろう。

 深い悲しみと喪失感が、俺の肩へとのしかかる。

 

 「くそ……ちくしょう……」


 自分の身体に目線を落とすと、脇腹の傷は殆ど塞がり痛みもなくなってきていた。

 胸の傷も順調に修復が進んでいて、それが終わるのも残り僅かな時間だろう。

 我ながら気味が悪く、酷い嫌悪感が込み上げてくる。

 俺の前に現れた骸骨たちは、俺の身体と酷似した特徴を持っていた。

 それが偶然や、全く別の魔法とは考えにくい。


 蘇生魔法。

 それは、大切な家族を生き返らせるための魔法などではない。

 あの骸骨たちのような、人族を殺すための兵器を造り出すための魔法だったのだ。

 では何故俺は、その魔法を使われて今ここにいるのだろうか。

 もし、俺の成れの果てが、あの骸骨たちのような存在だったとしたら。

 もし、これから俺の意識も、思考さえも消え去り、ただの殺人人形になるのだとしたら。


 急激に吐き気を催し、喉を抑える。

 胃液まで吐き出してしまうような強烈な不快感だったが、俺の口からは何も出てくることはなく、乾いた咳だけが響いた。


 深い絶望とともに、脳裏に一人の顔が浮かび上がる。

 アメリアさんの顔だ。

 ディバロでの魔族の襲撃、そして今回、ここホクレイで起きたことの類似点。

 リンク・ストーンという未知の鉱石の存在。

 スプーフィングというそれを隠蔽する魔法。

 突如として街中に出現する魔族。

 

 アメリアさんは、スプーフィングを自身の耳にかけてエルフであることを偽った。

 もし、スプーフィングその者の姿形まで偽ることができたとしたらどうだろう。

 そしてその何者かが、リンク・ストーンを抱えながら街の中に入り込んでいたとしたら。

 全てが繋がってきてしまうではないか。


 膝と腰に力を入れ、ゆっくりと立ち上がる。

 そしてふらつきながらも、床を踏みしめ前へと歩みを進めた。

 思えば、アメリアさんの屋敷から、徒歩三日のところに魔族の街があったことだっておかしなことだ。

 逆に言えば、あの屋敷もまた、魔族のテリトリーにあるのだとしたら合点がいく。 

 間違いない。

 アメリアさんは、いや、あのアメリアというエルフは、魔族側の存在なのだ。

 アメリアの屋敷での日々を思い出す。アメリアの、ユリちゃんの笑顔は、言葉は、いったい何だったのだろうか……


次話 第20話 解放


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