16話 生意気な後輩
朝になり、俺は荷車を引きながら、少し肌寒い山間を歩いた。
アメリアさんやユリちゃんは少し眠たそうにしているが、最後の見張り当番だった俺は、起きてから既に数時間が経っているため、むしろ目が冴えている。
今日はホクレイへ帰るだけではあるが、だからといって気を抜くと痛い目をみることになりかねない。
俺は気を引き締めて、隊列の最後尾を歩いた。
何度か少数の魔獣などに遭遇したが、幸いにも傷を負うことなく、ホクレイまで帰ってくることができた。
ユリちゃんの剣捌きは相変わらずで、惚れ惚れしてしまうほどに滑らかで無駄がない。
この強さならば、大抵の敵には難なく勝ててしまうだろう。
今回はあまり見れなかったが、アメリアさんは防御系の魔法が得意だと言っていたし、もしかするとこの二人はかなり強いペアなのかもしれない。
俺たちは冒険者ギルドに行き、レッドベアー討伐の首尾を報告した。
ギルドの中に知った顔がいないか見回し、職員にも話を聞くなどしたが、俺の求める手がかりは相変わらず見つからない。
「それでは、私たちはレア・クリスタルを加工場まで持っていきますので、また後で合流しましょう」
「二人で大丈夫ですか? いくら軽い鉱石でも結構な量ですから、俺が持って行きますよ?」
「いえ、実は加工場の人に取りにきて貰うように頼んであるんです。わりと顔馴染みなので、いつも良くして貰ってまして」
確かに、加工業者が冒険者ギルドまでその対象物を取りにきてくれることは、一般的にもよくあることだ。
ただ、勿論無料ということはなく、ちゃんと搬送料を取られるため俺はあまり利用したことはなかった。
「そうなんですか。でもそれ、結構かかりますよね? 全然、俺が持っていきますよ?」
「あぁ、いえ、実は……」
アメリアさんは周りを気にしながら、俺の耳元へ口を寄せる。
「いつも無料でやって貰ってるんです」
「え? そうなんですか?」
アメリアさんは、元の位置に戻り、眉をひそめながら困ったように笑った。
「他の冒険者さんたちには秘密なんですけど、親方さんから何故か気に入られちゃってまして。その、工場の皆さんとお昼をご一緒する代わりに、いつも……」
なるほど。
改めて、アメリアさんの姿を見て納得する。
アメリアさんは、誰が見ても美人というくらいには華やかな人だ。
お近づきになりたい気持ちも分からなくはない。
それに、夜の街に誘っているというわけではないのだから、まだ健全だろう。
人間関係や付き合いというのが大事なことは俺も重々承知してるし、アメリアさんがそれを良しとしているのなら、口を挟むべきことではない。
「分かりました。そういうことでしたら、また後で」
「はい。私たちも何か情報がないか探してみますので、また日暮れ前くらいを目途に、昨日と同じ場所で良いですか?」
「時計台のところですよね。分かりました。ユリちゃんも、またね」
ユリちゃんは無言で頷き、俺は二人と別れた。
あまり期待せず、街の掲示板まで歩く。
掲示板は日々更新されるものだし、様々な情報が掲載される物だ。
もしかすると、何か有益な情報が書かれているかもしれない。
五、六メートルほどの幅がある大きな掲示板を、数人の人が囲んでいる。
よくある光景であり、特に変わった様子はない。
掲示板の隅から隅までを舐めるように見ていくが、俺にとって有益な情報はなかった。
深く溜め息をつく。
ふと、こちらを見る視線を感じた。
何事かと横を向くと、そこには見知った顔の女性が立っている。
「レ、レイズ君?」
「セレーヌさん!」
「やっぱり、レイズ君なのね!」
希望、そして喜びの感情が、腹の底から湧き上がってくる。
喜びのあまり、俺とセレーヌさんは肩を抱き合って再会を祝した。
茶色のウェーブのかかった髪をした年上の女性。
セレーヌさんは、ディバロでともに冒険者をしていたジークの奥さんだった。
「まさかこんなところで会えるなんて、本当に嬉しいわ」
「俺もですよ。セレーヌさん」
セレーヌさんはゆっくりとコーヒーの入ったカップに口をつけ、嬉しそうに微笑んだ。
以前会った時よりも、痩せただろうか。
頬がこけ、少し血色も悪い気がする。
俺たちは立ち話もなんだからと、近くにあった喫茶店に入店していた。
「レイズ君は今も冒険者を?」
「ええ、まぁ」
アメリアさんたちのことを話すのは、流石に気が引けた。
なにぶん突然の再会だったこともあるし、俺を取り巻く状況をどう説明して良いか分からなかったからだ。
それに、少しやつれたセレーヌさんは、生活という面において、きっと俺よりも苦しい状況だろう。
あまりそういった話はしないほうが、お互いにとって良い気がした。
「実は、今日報酬が入ったばかりで、セレーヌさん何か食べますか? お代は俺が払いますよ?」
「ん~? 後輩の癖に生意気ね」
「すみません」
セレーヌさんは軽く俺を睨んだ後、少し気まずそうに目線を落とす。
セレーヌさんも、ジークと結婚する前は冒険者をしていた人だ。
俺が駆け出しの頃、よくお世話になった記憶がある。
「情けないけど、そう言ってくれるのはありがたいわ。それなら、その、アレクにお土産を買わせて貰ってもいいかしら?」
「ええ、勿論。それとセレーヌさんも何か食べて下さい」
「私はいいわよ」
「じゃあ俺が二人分頼むので、食べきれない分を食べて下さい」
セレーヌさんは小さく溜め息をつき、苦笑いをした。
アレク君は、セレーヌさんとジークの間に産まれた男の子のことだ。
確か、もう三歳くらいだったと思う。
「レイズ君も強情なんだから……」
「それは、お互い様じゃないですか?」
「生意気……」
あの日の後、仲間たちはそれぞれの道を行く。無邪気な笑顔と、温もり。そして響き渡る鐘の音……
次話 第17話 恐怖を告げる鐘
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