15話 ROOTS
「ユリちゃん、さっきのはいけないよ」
アメリアさんと合流した後、ユリちゃんに言うと、また不思議そうに首を傾げられる。
話をするか迷ったのだが、大事なことだしちゃんと話しておかなければと思った。
「最初に話した作戦と全然違ったでしょ? あんな勝手に動かれたら俺も困る」
「……でも、敵はちゃんと倒した」
「そういう問題じゃない。ユリちゃん一人なら良いかもしれないけど、今はパーティーとして動いてるんだから、もし意見があるならちゃんと言ってくれないと」
「……意見はないけど」
「ユリちゃんは一人でああいう風に戦いたかったんでしょ? それは立派な意見じゃないか」
「……」
ユリちゃんは戸惑ったように眉をひそめ、助けを求めるようにアメリアさんのほうを見る。
「ま、まぁまぁ。そのくらいにしておきましょう。ちゃんとレッドベアーの討伐はできたわけですし」
「アメリアさん、それ本気で言ってるんですか?」
軽く睨むと、アメリアさんは気まずそうに肩をすぼめた。
「スタンドプレーは仲間のことだって危険に晒すことになる。ユリちゃんが強いのは分かったけど、次からはああいうことはしないって約束して欲しい」
「……アメリアは、いつも褒めてくれた」
「それは、アメリアさんが間違ってる」
「……」
ユリちゃんは、不満そうに頬を膨らまし、少しだけ俺を睨む。
ユリちゃんは若いし、この反応はごく自然なものだと思う。
しかし、あれほどの力を持つ者としてはあまりに幼く、俺は危うさを感じた。
ユリちゃんのバックボーンがどんなものなのかは分からないが、周りの大人がちゃんと導いてあげなければならない存在だと思う。
「あ、あの、レイズさん。私からも言っておきますから、とりあえずこのくらいで……」
「分かりました。お願いしますね」
これ以上言っても、ユリちゃんが心の中で消化できなくなってしまうだろう。
それにこういう時は、厳しく言う人間よりも、その後にフォローする人間の言葉のほうが耳に入り易いものだ。
あとは、アメリアさんに任せるのが良いだろう。
その後の鉱石採集は、少し気まずい空気の中で、黙々と進んだ。
「ユリちゃん寝ちゃいましたね」
「そうですね。あの娘は結構どこでもすぐ寝れるんですよ」
レア・クリスタルで一杯になった荷車と、野営のために張ったテントを見ながら、アメリアさんと共に暗闇に灯る炎を囲む。
黙々と鉱石採集に勤しんだ後、時間帯や移動のことも鑑みて、今夜は野営をすることとしていた。
あの後ユリちゃんは、しばらくふてくされていたが、アメリアさんに諭されたのか俺に謝り、今後は勝手なことはしないと約束してくれた。
やっぱり、素直な良い娘だと思う。
「レイズさんも、休んで頂いて大丈夫ですよ? 何かあれば、大声で起こしますから」
夜の見張りは、交代で担当することとし、その最初の担当がアメリアさんだった。
「いえ、まだ早いですし、もう少し起きてますよ」
しばらくの間、沈黙が流れる。
そういえば、アメリアさんから死の宣告を受けてから、こうして二人になるのは初めてだったかもしれない。
「……少しは、私のことも信用してくれました?」
「え?」
アメリアさんは少し寂し気な表情で、俯いたまま話し始めた。
「いえ、レイズさんから、少し疑いの目を向けられていたような気がして……」
「……それは、まぁ。やっぱり、自分が死んでいるなんてことは今でも信じられませんし、それに、やっぱりまだ、アメリアさんが俺にこんな魔法をかけた目的が分からないです」
「目的ですか……」
アメリアさんは何かを考えるように、手元にあった枝を細かすぎるくらいに折り、火にくべる。
「確かに、レイズさんの蘇生には、打算的なものがまったくないかと言われれば嘘になるでしょう。そういう話をしたほうが、レイズさんは納得できるんですかね?」
「……まぁ、そうですね」
アメリアさんは顔を上げ、今度は夜空に広がる星を見上げた。
「私ね。姉がいるんです。年は離れていましたが、とても優秀で、綺麗で、かっこいい、自慢の姉で、私にとっての唯一の家族でした」
「……」
「姉は千年も前に、この“人界”で死にました。死して尚、姉はこの地に縛られているんです」
「せ、千年ですか。それは途方もない時間ですね」
『死して尚、この地に縛られている』とは、どういうことだろうか。
それに、“人界”という言葉は初めて聞く言葉だ。
俺たち人族は、自分たちの住む世界をそんな風には言わない。
「私はそんな姉を、できるだけ完全に近い状態で蘇生させてあげたいんです。感情も、欲求も、身体の感覚も、できれば血液でさえも。そして二人で故郷に帰って、また昔のような日常を取り戻したい。それが、私が蘇生魔法を志す理由であり、最終的な目的です」
「蘇生というのは、千年も時間が経っていてもできるものなんですか?」
「ん~、それは状態によりますね。姉の場合は特殊でして、普通は数時間経つだけでも、成功の可能性はどんどん下がっていきます」
「特殊……ですか?」
アメリアさんは黙ったまま、俺のほうを見て微笑んだ。
ナイーブな話でもあるし、あまりずけずけと立ち入るべき話ではないかもしれない。
「納得できましたか?」
「……アメリアさんの目的は分かりました。ただ、それと俺の、その、蘇生にはどんな関係があるんですか?」
「前に話した通り、私には戦う能力が足りません。だからこそ、誰かの力がなくては、今回のように研究に必要な物を集めることすらできません。昔はまた違ったんですけど、今はこうしてコツコツと集めるしかないもので……」
「つまり、俺の冒険者としての能力を利用したいということですか?」
アメリアさんは苦笑いをして、少し寂しそうに目を細める。
「ものすごーく冷たい言い方をすればそうなりますね。でも、それだけじゃないんですよ? ユリのこともありますし、他にも……」
「あぁ、ユリちゃんが頼んでくれたって聞きました」
今度は楽しそうな笑顔で、アメリアさんは口元に手を添える。
「そうそう! そうなんです。あの娘が私にお願い事をするなんて初めてだったんですよ? できたら叶えてあげたいという気持ちもありました。ただ、レイズさんの気持ちに関係なく蘇生をしたことは事実です。それは本当にすみませんでした」
「それはまぁ……俺の意思は確認のしようがなかったでしょうし……」
「レイズさんは?」
「え?」
「レイズさんは、どうして冒険者になったんですか?」
アメリアさんはいつものように微笑み、首を傾げた。
冒険者は、あまり自分の過去を語らないし、他人の過去を詮索することもしない。
それだけ色々な素性を持った人間がなることも多い職業だからだ。
そのため、クリスの話をあまり他人にしたことはなかった。
ただ、アメリアさんは純粋な冒険者ではないし、図らずとも俺はアメリアさんの悲しい過去を聞いてしまったわけだ。
お互いのルーツを話すことは、時に良好な信頼関係を作ることに繋がるかもしれない。
「……その、恥ずかしいんですけど、笑わないで下さいよ?」
「えー? どんな話なんだろ?」
ホクレイへと戻ったレイズは、再び情報収集を始めた。そして、街に立つ掲示板の前で、見知った人物との再会を果たす……
次話 第16話 生意気な後輩
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