13話 資格
俺は思いつく限り、ありとあらゆる場所を駆け巡った。
街の掲示板や商人ギルド、行商人の露店、教会に酒場、宿屋や役所など、回れるだけの場所を回る。
しかし、そう都合よくはいかず、日暮れまでに思ったような情報は集まらなかった。
その反面、このシアイン帝国を取り巻く情勢などについては、それなりに知ることができたと思う。
どうやらシアイン帝国は、この一ヶ月弱の間に、ディバロより南の地域を三分の一ほど失ってしまったようだ。
これは歴史的に見ても、かなり危機的な状況にあると言って良いだろう。
軍や聖騎士団、冒険者を中心とした義勇軍の奮闘もあり、最近ではなんとか膠着した状態を保ってはいるようだが、その戦況は相変わらず厳しい。
そして現在は、南側地域への侵攻が主だった魔族たちが、徐々に北側地域にも姿を現すようになっており、近々更に規模の大きな侵攻もあるのではないかと噂されているようだ。
シアイン帝国側も、南に集結している兵士たちをすぐに動かすことなど不可能なため、少数精鋭の聖騎士団や、冒険者を中心とした義勇軍を北側に差し向けているらしい。
俺が時計台の下に着いた時、アメリアさんとユリちゃんは、既に噴水脇のベンチに腰かけていた。
一点に教会を見つめる、アメリアさんの少し睨むような目つきが印象的に映る。
「アメリアさん!」
俺が声をかけると、アメリアさんはすぐに表情を変え、こちらに微笑んだ。
「レイズさん、お疲れ様です。何か手がかりは得られましたか?」
「いえ、これといったものは……この国の状況に関しては、分かったこともあるんですが」
「そうですか。良い情報があると良いんですけどね。冒険者ギルドのほうでも、あまり個人の話は教えてくれなくて……お役に立てず、すみません」
アメリアさんは申し訳なさそうに俯き、肩を落とす。
「それは仕方ないです。次は俺も一緒に、冒険者ギルドに行きます。もしかしたら知ってる顔もいるかもしれませんし」
「そうですね。鉱石採集が終わったら、私たちももっと手伝えると思います。一緒に色々見てみましょう」
アメリアさんは、とても俺に協力的だった。
俺を屋敷から出すことを渋っていたのが、嘘のような変わりように思える。
俺の身体がアメリアさんの魔法に依存している以上、アメリアさんの厚意は非常にありがたい。
アメリアさんに感謝しつつ、既に手配してくれていた宿屋に向かう。
宿は決して賑わっているとは言えなかったが、それほど経営が差し迫っているというわけでもなさそうだった。
南側の地域ではこうはいかないのだろうが、食料品や酒類なども置いてある。
「それじゃあレイズさん、また明日ロビーに集合でお願いしますね」
「はい。分かりました」
「……レイズさん、また明日」
「うん。ユリちゃんもまた明日ね」
軽く夕食をとった後、アメリアさんたちと別れる。
当然部屋は男女別部屋だ。
宿の共用風呂で身体を流し、フロントで酒を買って部屋へと戻る。
そして小さな机の上に、購入してきた幾つかの新聞記事を広げた。
四月一日。
新聞の帯に書かれているのは、数日前の日付だ。
そしてその見出しには、俺にとって非常に興味を引く内容が掲載されていた。
『鮮烈!! クリスチーナ・レングス! 街の窮地を救った救世主!』
見出しが躍り、戦いに敗れた魔族たちと、一人の女性が描かれていた。
女性の名前はクリスチーナ・レングス。
俺の幼馴染みの名前だ。
描かれているクリスは、聖騎士団の制服を着て敬礼をしている。
その立ち姿は清廉で美しく、とても凛々しい。
長かった前髪も綺麗に整頓され、大きな可愛らしい目が露になっている。
昔の少し陰気だった雰囲気は消えていて、すっかり垢抜けた美人になっていた。
記事に目を通すと、聖騎士団の新人であるクリスの活躍が、英雄譚さながらに祀り上げられていた。
魔族たちに囲まれた街に単身で乗り込み、人々の窮地を救って数百の魔族を撃滅したとのことだ。
恐らくこの時世であるから、クリスの卒業や聖騎士団への入団時期も、多少繰り上げられたのだろう。
全てが事実ではないのだろうが、それにしても凄まじい活躍だと思う。
ぺージをめくると、可愛らしい服を着て、笑顔でポーズをとるクリスが描かれていた。
色のない記事でも、清楚な雰囲気が滲み出ている。
その下にはインタビューが記載されており、好きな食べ物とか趣味とかそんな話が延々と続く。
まるでアイドルのような書かれ方だと思った。
若くてルックスも良く、魔法の腕も超一流となれば、こんな扱いになるのだろうか。
俺の幼馴染であり、目標でもあったクリスが、更に遠のいてく気がした。
クリスは、俺が死んだと思っているだろう。
まぁ、本当に死んだのかもしれないが。
例えば、俺はこんな身体でクリスに会っても良いのだろうか。
どこまで人間と言えるのかすら分からない身体で、クリスにどんな顔をして、どんな言葉をかければいいのだろうか。
ずっと必死で目指してきたクリスは、もう触れてはいけない存在になってしまったのかもしれない。
今の俺には、クリスの隣を目指す資格すらないだろう。
そもそも、人間ですらないのだから。
崩れゆく胴体。その先には、凍てつくような眼差しがあった……
次話 第14話 返り血を浴びた少女
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