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リバイバル・マジック〜女神はなぜ死者を愛でるのか。人ならざる身体に男は惑い抗う  作者: IT
2章 DOLL

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12話 アメリアの計らい

 空気は澄んでいて気持ちが良く、柔らかな風が吹き、さえずる鳥の声が聞こえてくる。

 何となく懐かしい感じのする森だった。


「こ、ここは……?」


「ここは、ホクレイ近郊の森の中です」


「え?」


 にわかには信じられないことだった。

 シアイン帝国は、大陸の中央からやや東くらいに位置する国だ。

 大陸の南端からは、本来数週間はかかる。

 屋敷の一室からこんな一瞬で移動することなど、不可能なはずだ。


「驚いたでしょう? これがリンク・ストーンの力です。まぁ、使い方に多少の制限はありますが、とても便利なことには変わりありません」


「本当に、ここはシアイン帝国なんですか?」


「はい。まぁ、信じられない気持ちも分かります。ひとまず街まで行ってみましょうか。そうすれば、おのずと分かると思います。と、その前に……」


 アメリアさんは、森の中で黄色い光を放ちながら宙に浮く鉱石に向かい、魔法を唱える。


「“スプーフィング”」


 アメリアさんがそう唱えると、転移石は桃色の光に当たりながら、みるみる内に低木へと姿を変え、森に溶け込んでいった。


「……!?」


 物体の姿を変える魔法など、見たことも聞いたこともなかった。

 俺は、ただただ驚愕し、立ち尽くす。


「これは、いわゆる認識阻害の魔法です。あまり知られていませんが、ある地域ではそれなりに使い手のいる魔法ですね。犯罪に利用されることも多いので、使用は法で制限されていますが」


 その制限のお陰で、俺はこの魔法を知らないのだろうか。

 何にせよ、このスプーフィングという魔法が、革新的な魔法であることには違いない。

 

「これは……凄いですね」


「まぁ、それなりに便利な魔法ではありますね。特に私にとっては……」


 アメリアさんが再びスプーフィングを唱えると、アメリアさんの長い耳が、みるみるうちにその美しい髪の中へと消えて行ってしまった。


「これで、リンク・ストーンも、私の耳も、隠すことができました。それなりに強い濃度の魔力に触れると解除されてしまいますが、基本的にはこれで大丈夫です」


「俺からしたら、どこから突っ込んで良いか分からないくらいですよ」


 アメリアさんは、いつものように小さく微笑む。


「そうですよね。まぁ、二、三日は大丈夫なんですが、リンク・ストーンに何も知らない方が触れてしまうと、私の家に移動してしまうことになりますので、使用後はこうやって隠しています。エルフであることも、バレないほうが良いですしね。あまり目立ちたくはないので」


 アメリアさんの言っていることは分かる。

 赤の他人が屋敷にきて欲しくはないだろうし、エルフが人里に現れれば騒ぎになることは目に見えている。

 特に、エルフの女神を崇拝する“リリア教団”が放っておくわけがない。

 

 それにしても、こんなことが人知れず行われているなど、俺は知ってしまっても良かったのだろうか。

 このリンク・ストーンも、スプーフィングも、世界に大きな変化をもたらすものであることは、間違いないだろう。


「レイズさん」


 不意に、アメリアさんの人差し指が、俺の唇に重なる。


「大丈夫だとは思ってますけど、このことは秘密ですよ」


 アメリアさんの微笑みから、いつもとは違った圧力を感じた。


「それは……はい」


「なら、宜しい!」


 アメリアさんは無邪気に笑い、俺に背を向けた。

 そして、ユリちゃんを伴って、歩みを進め始める。


「あっ、ちょっと! 周辺の地図は? まずは位置の把握を!」

 

 何はともあれ俺は、再び母国の地を踏み、その街へと向かった。





 森を出て街道沿いを歩く。

 その道すがら、冒険者や商人など様々な人にすれ違った。

 その姿は、装備が貧弱だったり馬車の積み荷が明らかに少なかったりなど、戦争の影響を感じさせるものだった。


「二人は冒険者でもあったんですね。驚きました」


「あくまで副業なんですけどね。鉱石採集のついでに、お金も貰えるならと思いまして」


 新たに知ったことだが、アメリアさんとユリちゃんも冒険者登録をしていたらしい。

 活動は限定的であり、鉱石や薬草などの採集のついでといった程度の活動だそうだ。

 二人はレイヤ2を示す、赤い線が二本ひかれたプレートを所持していた。


 やがて関所に差しかかり、通行税を払って街に入る。

 関所に目立った傷や綻びはなく、まだ戦火に包まれていないことが分かるが、その中にはくたびれた老兵しかおらず、抑止力としての意味を成しているのかさえ怪しい始末だった。

 恐らく、若い兵士たちは戦地へと駆り出されているのだろう。

 街に入っても、浮浪者のような身なりの者も多く、鬱々とした空気を感じる。


「それではレイズさん。私とユリは冒険者ギルドに行って、目的の山間部付近での依頼があるか見てきます。レイズさんは、どうぞご自由になさって頂いて良いですよ。集合は……あの時計台が一番目立つでしょうか。あまり気乗りしませんけど、あそこの下に日暮れ前ということで良いですか?」


 アメリアさんは、この街で最も高い建物であろう時計台を指差して言った。

 確かに、あそこならどこからでも見えるし、土地勘がなくてもたどり着けそうだ。

 恐らくアメリアさんが気乗りしないのは、このシアイン帝国において、ああいった施設の近くには、必ずと言っていいほどリリア教団の教会があるからだろう。


「分かりましたけど……良いんですか? 買い出しとか、色々準備もありますよね?」


「それは私とユリでやっておきます。レイズさんのお仲間や、ご家族の安否についての情報収集も今回の大事な目的ですから。街にいる間はそちらを優先して頂いて大丈夫です。鉱石採集はあくまで私の都合ですし」


「それは……すみません。ありがとうございます」


 アメリアさんは優しく微笑み、俺は彼女に心から感謝した。

 しかし、早速駆け出しそうになるところを呼び止められる。


「呼び止めてすみません。レイズさん、これを」


 渡された巾着袋はずっしりと重い。

 緒をほどき中を見ると、少し過剰なほどの硬貨が入っていた。


「情報を得るには、お金が必要なこともあるでしょうから……そのくらいで足りますか?」


「それは十分ですが……こんな物は受け取れません」


 確かに、一文無しでは行動にも制限がつくだろう。

 ただ、衣食住と世話になっておいて今更ではあるが、こうして金銭を直接渡されると、それを受け取ることは気が引けた。

 俺は元々、冒険者としてそれなりに稼いでいたのだ。

 そのプライドもあるし、自分の金くらいは自分で用立てるべきだと思う。


「何も気にしなくて大丈夫ですよ。これは、報酬の前払いと思って下さい。なので、私とユリで何かしら依頼を受けてきますが、レイズさんはタダ働きです!」


 アメリアさんは明るくそう言った。


「なるほど。つまり、依頼の報酬額に関わらず、俺の報酬は固定というのが前払いの条件というわけですね。失敗した場合は?」


「ん~……その場合は、次もタダでお願いします」


「依頼が成功するまで、この前払い金で雇うというわけですか」


 依頼の報酬額の分配方法などは、そのパーティーによって様々であり、各冒険者に委ねられている。

 単純に山分けもあれば、このように何かしら条件の元で報酬を決めることもよくあることだ。

 今回はアメリアさんの厚意であることは間違いないが、巾着袋の中の金額とその条件は、おおむね釣り合いが取れているように思える。

 

「分かりました。それであれば、ありがたく頂きます。色々気を遣わせてしまってすみません」


 俺はアメリアさんに感謝し、その厚意をポケットにしまう。


「いえいえ。私も冒険者ギルドで何か情報がないか聞いてみますので、レイズさんも頑張って下さい」


「はい! ありがとうございます!」


 今度こそアメリアさんたちと別れ、街中へと向かう。

 沈んでいた気持ちが、少し晴れやかになった気がした。

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