違和感
「これから一か月。適合率をもとに、あなたの運命が変わっていくことでしょう。」
女性が立ち上がり、ずいっと顔を近づけると言った。
「それでは。この世界をお楽しみください。」
その声はどこか跳ねるように楽しそうで、不気味なほどの明るさを持っていた。
画面はひとりでに切れ、通信がとだえる。あるのは
13パーセント
という不気味なほどに煌煌と明るく点滅する文字だけ。
履歴を見ても、開いた形跡すらない。ついさっきまで中継を映していたはずの広告パネルも、今はいつものように賑やかなCMに変わっていた。
「ドラマか何かの撮影だろ?どうせ」
「でもさすがにスマホまで映らなくない?」
あまりに信じがたい光景に皆ドッキリや嫌がらせ、ドラマの撮影など納得できる理由を見つけようと必死だ。
当たり前だ。
ただ、意味不明な火災をはじめとした現実では測れない何か。それを見てしまった後ではそれをフェイクだと嘲笑することは出来なかった。
このあたりで最も大きい駅、天星駅に入ると、たいていの列車は運休か遅延のランプが並んでいた。だが、その中でもかろうじて徐行して運行している列車が到着しているようだ。
今こうしていても仕方がない。今はとりあえず家に帰ることを最優先にすべきだ。父や母はまだ帰ってきていないかもしれないが、他に行くところもない。帰ったらきっと大丈夫。ぽたりと落ちてきた汗を袖でぬぐった。
何があっても日常がそう簡単に終わるわけもなく、列車に乗り込むと席は満席で、皆一心不乱にスマートフォンをにらんでいる。
いや、それともいつも通りに過ごすこと。電車に乗って、いつもの仕事をして、口うるさい上司の愚痴を言う。例えば隣に座るスーツ姿の男性二人のように。そうしてやっと心の平常を保っているだけで。きっと皆分かってはいるのだ。
いつもなら10分ほどの区間だが30分くらいはかかるだろう。家は最寄駅、天ヶ崎駅から徒歩10分ほど。
後ろに流れていく変わらない街並みをぼんやりと眺める。
――――次は雲代 雲代駅 お出口は~
アナウンスに、席から数人が立ち上がったり支度を始める。
雲代……いつの間に灯ケ崎を通過した?普通列車だったはず。間違って快速列車か何かに乗ってしまったのだろうか。思わず舌打ちをする。すると隣に座っていた老婦人があからさまに顔をしかめた。
すみません、おりますと人をかき分け列車から降りる。
そして、とりあえず逆向きの列車の列に並んだ。もちろん普通列車であるのは確認済みだ。さすがに二度も同じへまをするわけにはいかない。どうやら疲れているようだ。
どんな日だってこんなことはなかったのに。
扉が開き、ドアの両端に八の字に並んだ列が吸い込まれていく。
相変わらず座ることはできず電車に揺られた。
「ねえ。大きなゲームセンターあるでしょう。」
「知ってる。家の息子もよくあそこ行くのよ。やめてほしいんだけどね。」
まったく、と近くで化粧の濃い夫人2人が大声で話している。
「あんなところへ行ったらバカになるわよ。」
「本当に。ほらあそこの息子さんだって……」
話しているのは灯ヶ崎駅前のゲームセンターだろう。一度友人に連れて行かれたことがあるものの確かに周辺の治安はいいとは言えなかった。
しかし、年代物のレアな沢山のゲーム機も置いてあり、夢のような場所だとその友人は言っていたし、実際時間を忘れて楽しんだ。
スマートフォンを見ていた青年が苛立ったように二人を見てイヤホンを付けている。
朔矢は、正直そこまで嫌悪することもないのにな、などと勝手に考えていた。
「このあたりあそこだけだものね」
「雲代のでしょう?変な輩が集まってきて嫌よ。あんなところ、行かせたくないわ。」
違和感を覚える。雲代の?勘違いをしているのだろうか。瞬きの瞬間、ノイズが走ったように視界が乱れた。
――――次は、天星。天星駅。
どこかくぐもった声が聞こえる。世界が、一瞬その時を止めたように見えた。
どうして。
天星に戻ってきた。




