第三羽 激化の香辛料(スパイス)
読んでいただきありがとうございます。
本作はペンギンたちが文明を築いた世界での戦争を描いた物語です。
学業の関係で不定期更新になりますが、基本的に毎週日曜日の20時に投稿していきます。
それまで戦場を駆けていた吹雪は、自然と収まっていった。それに伴い白い大地は地獄の光景へと近づく。兵士の屍、激しい術の跡は、星の記憶に刻まれ続ける。
幸・北部防衛線。
ここでの戦闘は一羽のペンギンの介入によって、大きく変化した。
柏木・禹廻神。
血の渇きを求めるようなその目は、どこを向いているか分からない。
そして、いまだに彼の恐ろしさを
理解しきれない者はーー
「うおおお、突っ込めえええ!!」
「あいつさえ殺せば、勝利は確実だ!」
感情に任せた攻撃。戦闘の先が見えていなければ、自分の人生の終着点は数刻で決められる。感情を知らない鬼にとって、生物がここまで必死になる理由が分からない。
頭の中にまた浮かぶ。
「戦うな」
灰堂の言葉。
「なんだそれ?鬼は他人の言葉で止まるのか?」
スパイの嗤う声。
鬼の脳は、他人の声が独占していた。
「これは誰の意思だ?」
自身に問いかける。
答えを見つけられないまま、また銃剣を構え、剣を振るう。だがーー
「命令は…ない」
今この場では、自分の判断で動いている。
「くっ…来るな!」
ペンギンズ地方の兵士が叫ぶ。最後の力を振り絞って鬼に争う。放たれた渾身の術は、空間を裂く。
当たれば即死…その攻撃が直撃する。
だが、鬼の怯む様子は全く見られない。
「は???」
兵士が漠然と立ち尽くす。効いていない。
瞬間ーー
距離が詰まる。
振るう。
声を出す間もなく兵士たちは、無惨に崩れていく。聴こえる音、見えている光景すら、遅れて認識される。
速い。
そんな話ではない。
無駄を全て削ぎ落とし、戦いに全てを捧げたものが行き着く境地。それを一瞬でも見れたものは幸運である。目に入る頃には、大地に永遠に眠り続けるのだから。
攻撃は全て最短で終わる。
防御など必要ない。戦いの設計図をその場で組み立て、完成させる。
「どっ毒の効き目もない…だと」
毒沼地方の傑作。術の発動阻害の毒兼、皮膚毒。しかし猛毒にも耐性がある禹廻神にとって、それは変な水がかかる程度のものであった。
遠く、ブラックテリトのスパイがその光景を見ていた。
「動いた、か」
「その上命令ではないと」
口元が歪む。
「いいね、壊れ始めた」
その言葉はまるで、未来を知っていたかのような物言いだった。しかし誰もそれに頷くことはなかった。
誰もが三辺同盟の勝利を確信した。
だが、その直後――攻撃の勢いがさらに増していく。
無数の高い出力の攻撃が、戦場に傷をつける。爆煙が広がる場所には、底が見えないほどの深い穴ができた。
「あれはなんだ!?」
今までにない数多の音が、迫る。それは爆発の音とは異なる…
「もしや…!」
兵士の顔が崩れていく。
援軍の到着。
それが意味するのは、毒沼領・南部防衛線の陥落。そこは、三辺同盟の最高戦力が出動していた場所であった。
敗北の文字がまた脳裏によぎる。
だが、鬼に動揺は見られない。それどころか少し笑っているようにも見える。
突如、平次箱協定が禹廻神に仕掛ける。
毒媒錬撃術
先刻とは異なる毒を混ぜた追尾攻撃。それを倍になったとも言える軍勢が放つ。地獄への道を開けたあの攻撃が威力を増して繰り出される。
標的は、ゆっくりと近づいて来る。流星のごとく降る攻撃にもはや逃げ道などは、存在しない。
はずだったーー
毒沼地方がばら撒いた毒を、鬼は自身の服や体に塗り始めた。
「それは、自殺行為だろ!?」
この毒には’術を乱す効果’がある。そう’術を乱す’のだ。
禹廻神に全ての攻撃が命中する。
しかし同時に。
その毒によって、術を操る側――平次箱協定の制御が崩れる。
手詰まり。
全てを出し切った、兵士たちはもう神に祈ることしかできない。ここからは、鬼が一方的に殺戮を繰り返すだけであった。毒と黒と血がその地には、残り続けた。
「大海底連邦率イル三辺同盟ガ、幸・北部防衛線デ勝利シマシタ」
ラジオで臣民に勝利が伝えられる。しかしここには、毒沼・南部防衛線での敗北、英雄の名前…いや鬼の名前ともに存在していなかった。
そしてその頃、三辺同盟の会議ではーー
「なぜ、お前は毒沼の方に来なかった!?」
「お前がいれば最高戦力を残した状態で、平次箱協定を追い詰めれたのだぞ!!」
禹廻神は責められていた。
「これは、彼に指示を出した私の責任です。責めるなら私にして下さい」
灰堂が下を向きながら言う。
「いやどっちに来ていても、どちらかは潰されていた」
「今は彼に感謝すべきでは?」
擁護の声がちらほらと聞こえてくる。しかし…
「えーい!うるさい!!」
「お前たちは何も分かっていない!!」
「あの国々が、あの程度で沈む訳がない!!」
誰もそれに対して、言い返すことができなかった。
長い沈黙が会議室を占領する。
誰もが話すのをためらう中、その一羽は突然と喋り出した。
「だったら、私一人であの協定を壊滅させます」
鬼であった。鬼は空気を読むことができない。
「そのようなことは、あたりまえ…」
言いかけたときに、気づく。
刀に手をかけている。
とんでもなく無礼な行為だ。
しかし、誰も指摘できない。
鬼は颯爽と会を抜けていく。
勝利を喜んでいる訳でもない。
叱責を怒る訳でもない。
ただ次の戦場に向かうだけ。
戦いはまだ火蓋を切ったばかりだ。
続く…
ここまで読んでいただきありがとうございました。
よければ感想・評価いただけると嬉しいです。
次回は、戦争から帰った禹廻神の小さな日常です。お楽しみに。




