第4話 仲の良い義姉妹はお茶を嗜むものなのです
メイドどころかハウスキーパーさんにもあったことはないパンピーです。
到着した次の日が次兄嫁とのお茶会だった。
バジルは持って来た荷物のなかから目的のドレスを着る。
もちろん王城から手伝いは来ない。
わたわたする俺達を嘲笑いたいんだろうが、どっからかやって来た黒子さんがささっとバジルを仕上げてしまう。
真っ昼間から黒覆面の全身真っ黒仕様のハウスキーパーさんである。
夜間隠密の黒だよね、真昼間の王城じゃメイド服のが目立たないんじゃないのかな。
まぁ、この離宮にはメイドもいないので黒子さんが堂々と仕事している。
もう隠れる気もなさそうだ。
ちなみにバジルのドレスは貴族令嬢がお高いドレスショップにお茶会用に注文したが、たまたま残念なことにサイズを作り間違えてしまった物だ。
それをたまたま実家の繋がりでお安く譲ってもらったら、たまたまバジルにサイズがぴったりだったのだ。
うんうん、世の中上手くできていると頷くバジル。
うんうんじゃないわ!
そんなたまたまあるかい!
ドレス台無しにされたご令嬢が可哀想すぎる。
ドレスを着てささっと化粧をしたバジルは楚々としたご婦人に見えるから不思議だ。
いや、本当におかしいな。
バジルのが母さんより所作が優雅だぞ。
え、前職でに貴婦人達を見てたから真似してみた?
え、トレースレベルが狂気の沙汰なんですが。
見よう見真似で淑女になれるなら世の中の令嬢は金切り声をあげるだろうよ。
気にはなるがバジルさんの前職には触れるまい。
意気揚々と茶会のある後宮へ出かけて行くバジル。
やっぱり来ない迎えを気にせず、離宮から王城へ迷いなく歩く姿を俺は見送った。
たぶん俺より実家の道を知っているよな。
ちょっと悔しい。
いや、ってかたぶん国家機密(王城見取り図)流出しとるで。
バジルが第二王子妃の私室に着くと部屋の外に立つ近衛兵も中に居た人々もぎょっとした顔をして固まった。
迎えも行かず困ったところで呼びつけ、遅刻を叱責しようと思っていたのだろう。
しかし招待状を持参されては部屋に入れないわけにはいかない。
「第三王子妃 バジルに御座います。
第二王子妃ヒスリーテ様にお初にお目にかかります」
部屋に入ったバジルは王族顔負けの所作と発音で挨拶をするとそこにいた人達は小さく息を呑んだ。
1人、ソファーに座っていたヒスリーテだけが顔を怒りに歪ませ扇子をバキリと折る。
平民のなっていない所作をつつきまくって虐めようとしていたのに出来なくてご立腹であった。
ヒスリーテは真っ赤なクルクルドリルヘアーと瞳からのイメージまんまで気性が荒い。
たくさん付けたアクセサリーをしゃらしゃら鳴らしてわなわなと震わせながら乱暴な様子で着席を促す。
甘やかされたお姫様はゴロツキ並に我慢がきかないのだ。
「付け焼き刃の挨拶でみっともないわね。
ぼけっと立ってないでさっさと座りなさい」
自分よりずっと楚々と美しい所作で座るバジルにヒスリーテはさらにギリギリと奥歯を噛み締めた。
流石に背後の侍女が小さく咳をして替えの扇子をヒスリーテに渡す。
ヒスリーテはいかんいかんと気持ちを切り替えふっと笑う。
まぁ、いいどうせ下賤な出なのだ。
口で言い負かせて泣かせてやろうと。
その貼り付けた笑顔が歪むのが楽しみだと。
ヒスリーテは高圧的な態度と声でバジルを揺さぶる事にした。
貴族が怒れば平民は首が飛ぶのでこれでガクブルいわせてきたのだ。
「おほほほ、平民が放蕩王子とはいえ王族と結婚なんてまるで夢物語ね。
貴女はわからないだろうけど貴族には序列があるの。
私はその中でも上の侯爵家よ」
ヒスリーテからの攻撃。
『平民ごときでにはクズ王子ですらもったいない!
結婚したからって勘違いするなよ下民が』
というニュアンスだろう。
バジルは穏やかに頷き受けとめる。
「はい、この度は第三王子殿下とまたとない数奇はなご縁で結ばれ望外の喜びでございます。
下賤な身ながら同じ王族となりましたので、ヒスリーテ様の淑女の立ち居振る舞いを見習わせていただきたく存じます」
バジルのターン。
『ヒャッハーさすが私、玉の輿だぜ。
序列がどんなもんじゃ今は同じ王族よ。
悔しかったらその残念な淑女の振る舞いをどうにかするんだな!』
「ぐはっ」
ヒスリーテに大ダメージ。
ヒスリーテは女好きな第二王子とねんごろになり親の金と権力で妃になったのだ。
ヒスリーテは金と権力が効かない相手にめっぽう弱い、弱いのだ!
たが諦めないのがヒスリーテの良い所!
果敢にバジルに舌戦を挑むヒスリーテ。
「貴女ような下賤の者の血が王族に混じるなんて虫唾がはしるわ。
まぁ、貴女達から碌な王子が生まれないでしょうけど。
親子共々王位を狙うなんて身の程知らずは考えないことね」
ヒスリーテは貴族の話法をかなぐり捨ててドストレートな嘲りを浴びせた!
「どんな子も子供は可愛らしいですが、ヒスリーテ様の子はさぞやお可愛らしいでしょうね。
きっとヒスリーテ様の様な素晴らしい王族になられるでしょう」
『四の五の言わずにお前が子供を産んでみろや。
そのお粗末な教養で立派な王族(笑)が育つといいな!』
バジルの口撃に未だ子供が居ないヒスリーテはキィ!と鳴くとハンカチを取り出して噛み締めた。
怒鳴り散らしたいのを我慢しているのだろうが無様すぎる。
その後も舌戦はヒスリーテの惨敗であった。
ぜえぜえと息をつくヒスリーテはテーブルに突っ伏し、バジルは来た時のまま優雅に座っていた。
その頃には部屋に居る侍従達はバジルに恐れ慄いていた。
こんなに完璧に淑女になりすませられる平民が只者なわけがない。
だが一人、分かっていないヒスリーテ。
「お、おほほ、お話が楽しくて喉が渇いてきたわね」
ヒスリーテは急にいやらしくにやにや笑うとお茶を用意させる。
本来なら着席後すぐにお茶を用意するが、バジルの喉が渇いたところで特別なお茶を出す予定だったのだ。
今猛烈に飲み物を欲しているのはヒスリーテだったがアレを飲ませれば溜飲も下がる。
「貴女のために特別なお茶を用意したのよ」
自慢げにわざわざ言ってしまうのがヒスリーテの素直で良い所である。
ヒスリーテとバジルの前にある茶器の中の液体はやや色味が違うため茶葉から別物なのだろう。
だかあからさまに怪しい飲み物を出されたところで礼儀としてバジルは飲まなければならない。
自分で飲まなければ侍従に取り押さえさせて無理矢理にでも飲ませてやればいい。
そう思うとヒスリーテにも余裕がうまれてつい余計な事を言ってしまう。
「本当は私が飲みたいくらい良いお茶なのよ。
ありがたく思いなさいね」
「ほほほ、ありがとうございます」
バジルは茶器を手に取り、口の中で上品に笑うと礼を言う。
ヒスリーテはバジルを馬鹿にして鼻で笑うと自分の分のお茶を飲み干す。
この時ヒスリーテは喉が渇いていて一気飲みしたため、ほんの少し感じた違和感を見過ごしてしまった。
俺達は自分達で用意した食事を食べながら意気揚々と帰ってきたバジルに何があったのかねほりんはほりん聞いた。
俺は茶会に碌なものが出ないだろうと気合を入れて料理をしたが無用な心配だったかもしれない。
しかし、俺のせいで苦労をかけてしまったな。
「バジル、茶会お疲れ様。
ヒスリーテはヒステリックで意地悪だから疲れだろう」
「いえいえ、感情豊かでお優しい方でしたよ」
え?ヒスリーテが優しい???
俺は驚いて固まる。
「私が気分を害してしまったのに最後は笑ってお茶まで出してくださったんです。
本当は私の分が飲みたかったそうなのでこっそりお譲りしましたが」
茶会に茶を出さずしてなんの会やねん。
いや、きっと碌な茶を出さなかったんだろうけど。
それよりも。
「こっそりすり替えた!?
ど、どうやって?」
バジルはべろりと舌を出すと奥の方、見えずらいところにある魔法陣を指さす。
え、これ魔術焼印じゃんめちゃくちゃ痛そう。
どうやら相手が『バジルの持っている「ほにゃらら」が欲しい』的なことを言って、バジルが『ほほほ、ありがとうございます』と返すと発動するらしい。
今回はヒスリーテの『本当は私が飲みたいくらい』が『私が欲しい』にバジルの脳内で変換されたようだ。
だが自分の持っている物と相手の差し出したものが同じようなものでないと発動しない。
今回は液体同士で交換できたそうだ。
それ普段、間違えて発動しないのか。
あ、そういえばバジルはいつも「くふふふっ!」って笑うもんな。
呪文の方がマトモな笑い方だと•••。
まぁ、ヒスリーテが何を飲んだかはまたのお楽しみだな。
どうせバジルに飲ませようとした茶の効果が出ればヒステリックに騒ぎ立てるだろう。
俺もヒスリーテの事は言えないな!にやにやが止まらんぜ。
読んでいただきありがとうございます。
海外のお城って広いし入り組んでるしトイレ遠くて困る。
日本の城は本丸の目の前に公衆トイレを設置するの優しさに溢れてると思う。




