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「凄いね」
長い間黙っていた女は、息を吐くように言った。
「なんて言ったら良いのか、全然分かんないけど、凄い」
それはきっと、母親に対する言葉だろう。
「そう、かもしれないですね」
「もし、この子の父親が死んだら、なんて想像できないわ」
「はい」
「でも、この子は絶対に私が守る」
「京子」
突然、穴の向こうに男の顔が現れる。
「迎えに来てくれたの?」
穴の中から、嬉しそうに女が返す。
「こんなところで、男と密会か?」
制服姿の俺を見て、冗談を言う。
「ええ。雨宿りしてたら、遅くなっちゃった」
「とっくに止んでるぞ」
「あら、本当。気づかなかったわ」
本当に気づいてなかっただろうに、白々しく答える。
息の合った猿芝居が、可笑しくも微笑ましい。
「さて、帰ろうか」
男は優しく言って、女に手を差し出す。
「ええ」
女はその手を取り、お腹を庇いながら、ゆっくりと穴から出る。
そして、此方を覗きこみ、俺に問う。
「行く宛がないなら、うちへ来たら?」
「いえ、俺も帰ります」
「そう。じゃあ、ばいばい」
男と手を繋ぎ、帰っていく。
その背中を見送り、俺も穴から這い出た。




