エピローグ
「起きなさい!」
今日も、母親の怒鳴り声に起こされる。
幸せな夢を見ていたような気がするが、すっかり忘れてしまった。
「今日から学校でしょ!」
「え?」
思わず小さな声が出た。
学校が始まったのは、昨日だったはずだ。
ノックもせずにドアを開けた母親と目が合う。
「うわっ寒い。またクーラーつけっぱなしで寝て」
消し忘れて、そのまま眠ってしまったらしい。
リモコンに手を伸ばし、冷房を消した。
「ほら、雑巾。」
言葉と同時に投げられた、ボロ巾。
派手な花柄の、古いタオルで作られたそれには、マジックで大きく名前が書かれていた。
ぐちゃぐちゃな縫い目は、指でなぞると凸凹している。
「サンキュ」
お礼を言うと、母親の目が丸くなる。
「何よ、気持ち悪い。熱でもあるんじゃない?」
俺の額を触る指には、絆創膏が貼られていた。
「ねえよ」
「なら、さっさと起きなさい」
そう言うと、母親は部屋を出ていく。
俺は布団を蹴り飛ばし、皺ひとつないYシャツに腕を通した。
リビングへ行くと、ご飯と味噌汁が並べられていた。
盛られたばかりなのだろう、湯気が立っている。
「いただきます」
手を合わせて小さく呟くと、冷蔵庫から納豆と漬物を出してくれた。
目の前の椅子に、母親が座る。
「始業式終わったら、まっすぐ帰ってくるの?」
「わかんねえ」
「遊びに行くなら、メール入れといて」
「ああ」
「今日も帰り、遅くなるけど」
「知ってる」
「夕飯、テーブルの上に置いとくから」
「鍋のままでいい」
「え?」
「シチューだろ?」
「そうだけど、何で知ってるの?」
「さあな。ごちそうさま」
「もう行くの?」
「ああ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」




