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突然、何かがぶつかった。
「ごめんなさい。誰もいないと思って」
顔を上げれば、女がいた。
寝惚けた頭を働かせて、象の中にいたことを思い出す。
「雨、まだ止んでなかったんですね」
ずぶ濡れの彼女は、スカートが汚れるのも気にせず、地面に座り。
「秋の長雨なんて、よく言ったわね」
彼女の言葉で、すっかり涼しくなったことに気付く。
昼間の汗が冷えて、むしろ少し寒い。
もうすぐ、長い夏が終わるようだ。
「狭いけど、やむまでいさせて」
鞄からハンカチを取り出して、長い髪を拭う。
「見慣れない制服ね。中学生?」
その台詞は、近所の人間が使うものだ。
「すぐそこの、丸川中です」
狭い空間でふたりきり。
これほどの至近距離では、いくら知らない人でも、無言が続くと辛い。
「家出でもしたの?」
何故、そう思ったのだろう。
「まあ、そんなところです」
「行く宛は?」
「いえ、そこまでは」
そこまで本格的な家出をするつもりはない。
「どっちにしろこの雨じゃ、どこにも行けないわね」
若い女性に向かって、話し方がおばさん臭い、とは言えなかった。
「そうですね」
「早く止まないかしら」
「はい」
「夕飯の支度、しなくちゃならないのに」
「夕飯、作るんですか?」
「新婚だもの」
ふふふ、と幸せそうに笑う。
「高校生じゃ、なかったんですね」
相手によっては、失礼な発言だったかもしれない。
しかし、女性は気を悪くすることなく、あっけらかんと言った。
「3ヶ月前まではね。辞めたの」




