第2話
翌日の午前、科学魔法の実験学習が始まった。
「私の担当は科学魔法。今日は守護龍の鱗片を使った簡単な入門実験だ」
各学生の実験用デスクには小さな守護龍のうろこのかけら―鱗片が配布されている。今日の実験はそれを用いてごく小規模な火をおこす。初歩の初歩だ。
こんな簡単な実験で爆発が起きるなど、到底あり得ない。私はそう確信していたのだが…
――ボンッ!!!!
――熱風が頬をかすめ、焦げ付くような臭いが広がる。
「うわあっ!」
ある学生のデスクから、突如巨大な火柱があがった。
学生たちが立ち上がるよりも早く私は反射的に消火器を持ち出し、薬剤を叩きつけた。素早く鎮火したつもりだが…残念ながら周囲には大きな焦げ跡がついてしまった。
「なぜこんな火柱が…」
そう呟きながら私は実験デスク周りを確認する。するとそこには、小さなスプレー缶が落ちていた。
「これは、君の私物か?」
「…あ、はい。そうです」
火柱をおこした学生に尋ねてみれば、返事は是だ。なるほど……そういうことか。
手袋をつけてそのスプレー缶を持ち上げてみると、それにはポップな文字で『嫌な虫も一発!』と書かれている。いわゆる殺虫剤だ。
「引火性の高いものは持ち込まないように注意したはずなんだが…」
「す、すみません!俺、完全に虫だめで…これがないと不安で…」
「それでも時と場合を考えたまえ。大体実験室は基本的に清潔だ!」
「すみませんでした!」
虫嫌いの学生は深々と私に謝罪し、周囲の学生にも謝罪を始めた。仲間からは苦笑が漏れている様子だった。
そうして結局この時間の実験はこれでお開きとなり、学生たちは実験レポートの作成に加え安全管理についてのレポートも作成する運びとなった。
私は一人実験室に残り、焦げてしまった天井を見上げた。
(張り替えが必要だな…ついでに壁紙も。デスクの交換も含めて費用は…それに報告書と始末書と…ああ、頭が痛い…)
頭を抱えながら、私はふとあの予言を思い出した。
――研究室の修繕工事が必要になるぞ。
「まさか……当たるのか?あんな馬鹿な話が……」
巡の言っていた予言は、あとは何だったか。レポートの誤字、犬の乱入……それからお茶の淹れ間違い。
「いや、まさか。そんな立て続けに起こるわけがないさ」
巡の予言を振り払うように、私は頭を振った。そして実験室を後にすると、すぐにカフェテリアへと移動をする。
(疲れた時には休憩だ。とりあえず落ち着こう)
そうだ、コーヒーに茶菓子も付けようか。呑気にもそう考えながら私は歩いていた。
――巡の予言通りの、厄日への道を。




