表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/22

第1話



「この世界、あと1年で滅んじまうんだ」


そう言って、龍崎巡は苦いコーヒーを一口飲んだ。


あまりにも突然で荒唐無稽な話題に、私は学生のレポートをめくりながら適当に返事をした。


「そうか。じゃあ今年は何としても花見をしておこう。桜の見納めだ」


花見弁当でも注文しようか。そう言う私を見ながら、巡は顔をグッとしかめた。


「…本当なんだよ」


深刻な表情でそう言う巡。いつものおちゃらけた雰囲気はない、真剣な口調に私は顔を上げた。


「どうした、どこかで頭でもぶつけたか?」


「そうなら良かったんだけどな……」


巡は言いづらそうに、だがどこか確信を持った様子で語り始める。


「……守護龍が落ちてきて……すべてが終わるんだ」


「……は?あの、守護龍のことか?」


「あれだよ、今も空の向こうにうっすらと見える、バカでかい規格外の龍」


そう言いながら巡は窓の外を指し示す。


研究室の大きな窓の外、雲のさらに上空にはぼんやりとした白い輝きが見える。太陽の光を通さぬそれは、確かに物質として空に存在しており、大地に大きな帯状の影を作り出していた。


あの巨体が――落ちてくる?


全長は地球外周半分ものサイズの龍が、落ちてくる――?


何てことを言いだすんだ、この幼馴染は。そんなことになったら地表は跡形も残らないぞ。

この地球守護龍の研究者でもある私-保坂依留は、ありえないとばかりに首を振った。


「馬鹿馬鹿しい、あまりにも――」


「荒唐無稽だ。そもそも龍とは地球重力に縛られない存在であり、落ちてくるなどありえない…だろ?」


私の言葉に被せるように、彼は口を開いた。そして一言一句、私が言いたかったことをそのままなぞらえて見せる。


私は眉間にしわを寄せながらため息をついた。


「わかっているじゃないか。ならば―」


「そんな御託を並べている暇があるならば、そろそろ仕事に戻ったらどうだ…だろ?」


「むっ…」


またしても言いたいことを当てられてしまう。私はなんだかばつが悪くなってしまい、冷めたコーヒーを口に運んだ。


「…わかっているなら、仕事に戻りたまえよ。フリーランスとはいえ、就業時間くらいはちゃんと確保すべきだ」


「いや、仕事はこの1年は休む」


「…は?」


「マジなんだよ。1年後、守護龍が落ちてきて世界は滅ぶ。それを防ぐためにも俺は、やらなきゃいけないことがあるんだ」


巡は言いながら、ポケットから小さなメモ帳を取り出した。


「そのためにはお前の力が必要なんだ」


「…仕事を休むことはお前の勝手だが、その事情に私を巻き込むつもりか?」


「ああ」


私はため息をつきながら、コーヒーカップをデスクに置いた。巡の目をまっすぐに見つめながら、クソ忙しい今後の予定を述べてやろうと口を開く。


「いいか、私は―」


「明日の科学魔法実験、学生の不手際により爆発が起こる。研究室の修繕工事が必要になるぞ」


「…は?」


突然何を言い出すんだ、こいつは。

私はぽかんとしながらも、巡の発言に耳を傾ける。


「さらに明日の昼、お前はコーヒーをこぼして白衣をダメにする。午後一番に提出される学生レポートには誤字が20か所もあり、再提出を言い渡す。夕方には構内に犬が3匹侵入してくるので、捕獲の手伝いを言い渡される。そして夜、寝る前にはジャスミンティーを飲むつもりがミントティーを淹れてしまう」


「…なんだ、それは。予言か?」


メモ帳を閉じてポケットに仕舞い込みながら、巡はソファからゆっくりと立ち上がる。


「そんなとこ。明後日また来るからさ、そしたらもう1回話聞いてくれよ」


訝し気な表情をしたであろう私に、巡はさらにダメ押しをした。


「それからそのレポート、『科学魔法』の『科』が間違ってるぞ」


研究室の扉を静かに開け、へらりとした笑顔で彼は去っていった。安いサンダルの音を鳴らしながら歩く足音が、段々と小さくなっていく。


私は椅子に深く腰掛けながら、彼の予言を思う。

確かに明日、少々危険な実験はするが…爆発まで起こるだろうか?白衣をダメにして?しかもレポートの誤字に犬の侵入?バーブティーの淹れ違いまで?


「…もし本当ならどんな厄日だよ」


私は頭を抱えながら、目の前の学生レポートに目を落とした。


「…誤字、発見」


『科学魔法』の『科』が…『化』になっている。


(……よくある間違いだ、だからどうしたというんだよ)


赤ペンでチェックを入れつつ、簡単に読み進めていく。そのレポートではそれ以上の誤字は見つからなかった。


「20か所とか…どんな猛者だ」


そう呟きながら空を見上げる。ちょうど龍が身震いをしたらしく、小さなうろこのかけらが降ってきた。

白くキラキラと輝き降り注ぐそれは、どこかはかない笑顔の幼馴染と重なった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ