表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/17

第13話 中編


さてやってきました秋田県。


今日はゴールデンウィーク2日目という事もありそれなりに人はいるが、余り人気の観光地とは言えないこともあって賑わいはそこそこだ。だが、それがいい。余りにも人が多すぎると、人酔いとかするからな……私が。


「おお~黄色い!一面の黄色!そしてちょっとだけ残ってるピンク!」


菜の花畑でカメラを構えるのは、もちろん巡。最盛期を迎えた菜の花畑、それをパシャパシャと撮影している様子だ。


東北は桜の開花が遅いのか、巡の言うように少しだけ遅咲きの桜が残っていた。ピンクと黄色のコントラストがとても可愛らしい。もっと早い時期に見られたら、より鮮やかな景色が見られただろう。


「保坂せんせ~い、私たちアイス買ってきます!」


「秋田と言えばババヘラアイス、らしいですから」


そう声をかけてくるのは、研究室の院生たち。佐久間と早川だ。2人とも快活な性格の女子で、パンフレットを片手にワクワクとしている様子だ。


「ほいほい、行っておいで。はいこれ、私たちの分もよろしく」


「お小遣いゲット!ありがとです!」


「んじゃ買ってきます!並ぶかな~?」


和気あいあいと会話をしながら、アイスを販売している年配の女性の元に並ぶ2人。なるほど、ババヘラアイスとはそういう意味か……大丈夫だよな?性差別とかそんな文句付けられないよな?これはそういう文化の名前だから!


「って、変な心配している場合かよ……問題はあいつだ」


視線を花畑に戻すと、そこには変わらず写真を撮りまくっている巡。そしてそれを眺める純浦さんの姿が。


(会話チャンスはいくらでもあるのに……ここまで目立った収穫なし、か。予想していたとはいえ思ったよりきついな)


そう、ここまでの新幹線等の移動の間、巡は純浦さんとの会話チャンスに何度か恵まれている。それなのにも関わらず成功回数はゼロ。私や院生がなんとか会話をつないでいたのだ。


純浦さんはスマホを取り出して、菜の花を撮っているようだ。しかし何かが気に食わないのか、首をかしげては何度も取り直している。


「純浦さん、どうかしましたか?」


気になって話しかけてみると、純浦さんは振り向いてスマホを見せてくれた。


「ええ、ちょっと……もっと臨場感のある写真が欲しいんですが、なんだか平面的なのしか撮れなくて」


「ああ、確かに……それなら巡が詳しいですよ。あいつ、あれでもそれなりに写真は撮っていますから。おーい、巡!」


「ん~?」


巡は返事をしながらカメラを下ろし、こちらを振り向いた。私の隣にいる彼女に驚いたのか、一瞬びくりと身体を跳ねさせる。


「な、なに?!」


「写真、もっと臨場感のあるのが撮りたいらしいんだが……なんかアドバイスくれ」


「なにか簡単な方法とか、ありますか?」


私と純浦さんの質問に答えるべく、やつはのそのそと花を避けて歩いてくる。足元にもちらほらと菜の花が咲いていて、意外と歩きにくいのだ。


「こ、こう……しゃがんで空も一緒に撮ると……イイカモ」


実際にしゃがんで角度をつけ、自身のカメラで撮影をして見せる巡。そのデータを見せてもらうと、なかなかいいものが撮れていた。


「へえ、花の黄色と空の青さが合わさって……いいな、これ」


私の感想に純浦さんも同意するように頷いた。


「ああ……本当ですね、花の高さも伝わります。菜の花って意外と背丈があるんですよね、面白いです」


「ア、ハイ……デスネ……」


「本当に、綺麗……ありがとうございます、龍崎さん。早速スマホで撮ってみます」


「ハ、ハイ……!」


ぎこちない声で返事をした巡は、再び菜の花畑へと身体を向けた。その横顔はどこか満足げで……彼女と会話できたことが嬉しかった様子だ。私は少しため息をつきながら純浦さんに声をかけた。


「ごめんね、純浦さん。アイツなんか緊張しちゃってるみたいで……決して、純浦さんが苦手とかそういうのじゃないんだよ……!」


「大丈夫ですよ?悪い人じゃないってわかってますし、こういうのは慣れもありますからね」


なんとも寛大な心で接してくれている純浦さん……本人じゃないけどすごく申し訳ない。早く巡が普通に話せるよう、私も何かできればいいのだが。こればっかりは本人の心持ちと努力次第だ。頑張ってくれ、巡。


そうこうしていると、アイスを買いに行った院生たちが帰ってきた。2人で5つのアイスを買ってきたようで両手が一杯だった。


「せんせ~い、純浦さんも。アイス受け取ってくださ~い」


「早くしないと溶けちゃう!龍崎さんも!」


私たちはそれぞれアイスを受け取って見たのだが、その造形に少し驚いた。


ピンクと黄色のシャーベットアイスが、花びらのように盛り付けられていのだ。花を見に来ていることもあって、これはなかなか目にも楽しい。


皆そう思ったのか、それぞれスマホを取り出して自撮りをしている。巡は輪から少し離れ、私たち全員をカメラに収めていた。


「皆撮ってるよ~ヘイ!笑って!」


「あっ、は~い!いえ~い」


「ピースピース!」


巡の掛け声に気づき、院生たちがポーズをとる。その横で私と純浦さんは控えめに微笑みを浮かべた。


そうして写真が撮り終わると、皆がアイスを口にし始めた。ぽかぽかとした陽気の下で食べる、シャーベットアイスはなかなかに美味しい。ほんのりとバナナの風味がしている。


「なんというか、小さい頃に食べた味がするな」


私の率直な感想に、純浦さんも同意を示した。


「わかります、なんというかこう……駄菓子屋さんのアイスケースに入っている、そんな感じのアイスの味ですよね」


「うん、そんな感じ。結構うまいんだよな、あれ」


私たちの会話に、院生たちはいまいちピンと来ていないようだ。


「駄菓子屋……行ったことないなあ」


「でも盛り方とかそれっぽかったよね。なんかしゃもじみたいな平たい金属のヘラでうす~く削って、コーンに盛り付けてたんですよ」


「それね!職人技っぽいって言ったら、『なんも、んだことね』って!方言でいわれちゃった」


突然の方言の真似に、私は興味をそそられた。折角東北に来たのだ、地元の言葉に触れるのも楽しいだろう。


「へえ、なんて意味だって?」


「『全然そんなことないよ~』って意味らしいです」


「すごい言葉違うよね、びっくりしちゃった」


「旅行の醍醐味だ。方言や文化、存分に味わってくれ」


「は~い!」


そんな会話をしていれば、あっという間にアイスを完食してしまう。コーン部分も食べ終えたころ、巡も写真を存分に撮ったのか輪の中に入ってきた。


「いや~いい写真がいっぱい撮れたよ。現像するの楽しみ」


「そうか。良く撮れたやつはくれ。研究室に貼っておこう」


「おけおけ!てかデータなら皆で共有できるっしょ。送ろうか?」


「あ、そうだな。巡、今のうちに皆のアドレス教えてもらえ。私から送る手間が省ける」


「んもう依留ちゃんたら、そうやって横着する!」


巡がふざけて起こったふりをすれば、院生たちは笑いながらスマホを取り出した。


「龍崎さん、メアド教えるよ~……ほい」


「おっサンキュー!」


わちゃわちゃとスマホをいじり、巡と女子たちのメアド交換がされていく。それを純浦さんも参加したしたそうに眺めている。


「ほら、純浦さんも交換しましょ?」


「フォッ!」


私がそう声をかければ、巡はこちらを振り向いて固まった。カチコチとした巡の元に、純浦さんはそっと近づいていく。


「私も写真欲しいので……お願いします」


「アッ、ハイ!もちろんヨロコンデ!」


「ふふ、ありがとうございます」


巡は先ほどと違いもたもたとした様子で、メアドを何とか登録していく。その姿を院生たちは面白そうに見ている。


「おっ……これは……ねえ?」


「だよね……いひひっ……」


どうやら彼女たちにも、巡の異常な行動の理由は分かってしまった様子だ。まあ、ある意味わかりやすいからな。仕方がない。


「……気づいたとは思うけど、あんまりからかうなよ?アイツ、あれで繊細なとこあるから」


こっそりと2人に耳打ちしてやれば、彼女たちは心得たとばかりに頷いた。そして楽しそうにニヨニヨとして巡の方を見ている。


「いや~最近そういうのなかったからね、こりゃ楽しみだ」


「純浦さんはガードが固いぞ?さてどうするのか……」


「……頼むから、本当。放っておいてやってくれよ?」


私は一抹の不安を覚えながら、巡たちを見守ったのだった。



――青い空、黄色い花畑。守護龍もどこか気持ちよさそうに泳いでいる……ように見えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ