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第10話


『♪~逆風のなかでも~俺は進むよ~~不可能なんてないさ~~』


「ウォウウォウ~~」


純浦さんと王塚の尾行中。やけに前向きな曲を流しながら、白い巡の車はゆっくりと走っている。巡はご機嫌に歌っていて……正直うるさい。


後部座席から前の景色を覗きつつ、私は2人のデート妨害プランを真面目に考える。


「レストランに先回りして、『本日満席』の札を出すとか……巡が王塚をナンパするとか……」


「おいおい嫌だよ?男ナンパする趣味なんてないからね!?」


「わかっとるわ!てかデートを妨害するよりも、まともにアピールする作戦の方がまだ立てやすい……どうしても2人の邪魔をしなきゃいけないのか?」


「うん、しなきゃダメ!あのレストランで食べるステーキがきっかけで、2人は牛肉の美味しさに目覚め……焼肉デートが増えちゃうんだよ!だから何としても邪魔したい!!」


「……それも100年ループの知識か?」


「もちろん!!」


「焼肉くらい好きに食わせてやれよ……」


「やだやだ!これ以上差をつけられたくないもん!!」


「はいはい……」


そんな会話をしながら少し走っていると、道を歩く2人の姿が見えてきた。王塚が道路側を歩き、自然に純浦さんをエスコートしている。やはりポイントが高いな、この男。


そんな2人の行く先……道路側に大きな水たまりが見えた。どうやら反対車線側の公園から流れているようだ。水道の故障か?まあいい。私は巡に助言をしてやった。


「あの水たまり、使えるぞ」


「ん?」


「タイミングよくあの上を走って、王塚に水をかけてやるんだ。服が台無しになればレストランには入れまいよ」


「なるほど!依留ちゃんあくどい!!」


「うるせえ!私だってこんなことしたくはないわ!」


「んじゃ早速…………はいドーーン!!」


「うおおおおっ?!」


急なスピードで走り出す車。私は慣性の法則に従って、後部座席に身体を沈めてしまう。


――バシャン!


直後に聞こえたのは、水しぶきの音。そして。


「うわっ!」


王塚の声。どうやら巡はうまく彼に水をかけたようだ。


「よーし、これでおっけー!」


「あーあ、やっちまった……すまない、王塚よ」


後部座席の窓から後ろを見れば、水を被ったらしい王塚と、彼にハンカチを渡す純浦さんの姿が見えた。


「あっ純浦さんのハンカチが汚れる!断れ王塚!!」


バックミラーで確認したらしい巡が抗議の声を上げる。私は呆れて目を細めた。


「水くらい拭かせてやれ」


「ちっ……仕方ない。適当なとこに停めて2人の様子を見よう。レストランには行けないだろうけど、ちゃんと帰るとこまで確認しないと安心できん!」


「へいへい」


適当な私の返事を聞き流し、巡はコインパーキングに車を停めた。急いで車から降りて2人のところに戻ると……ちょうどどこかに歩き出したところだった。


私と巡は車内になぜかあったサングラスをかけ、2人を尾行し始める。


「どこに行くつもりだ?こっちは純浦さんの家の方向ではないが……」


「お前、アパートまで確認してんの?流石にストーカーは庇えんぞ」


「ちっげーよ!過去の周でたまたま知ったの!ストーカーなんてしてないから!」


「そういう事にしておくよ……お、曲がった。あの建物だ」


2人は明るい看板の立つ建物に入っていった。私たちは急いでその建物を確認する。そこは……



――健康ランド『どらごんの湯』



「ああ……とりあえず汚れを落とそうってことか?」


私がそう言いながら看板を眺めていれば、巡はわなわなと身体を震わせ始めた。


「お、おおお、温泉デートだと?!湯上り純浦さんを拝もうって魂胆か!王塚ゆるさん!俺だって拝みたい!」


なんか訳の分からんことで怒りだしたようだ。湯上りだからってなんか変わるのか?こいつの感性はよくわからん。


「行くぞ依留!2人っきりになんぞさせてたまるか!!」


「いや結構混んでるぞここ……2人っきりにはならんだろ、物理的に」


「いいから入場!はいゴー!!」


「う~い……」


気のない返事をしながら、私は巡に引っ張られていく。入場料を払って中に入ると、もうすでに2人は風呂に行った様子だった。


私たちは風呂の出入り口付近で待ち、様子を窺うことにした。そうして30分程が経過した頃合いに、2人はほぼ同時に出てきた。


「んふふっ!」


巡が気色悪い笑い声をあげた。正直気持ち悪い。


……だがこの時の私もまた、笑いを堪えていた。そのため巡を責めることはできなかった。何故なら……



――『乳酸菌命~since1990~』



淡いクリーム色のTシャツに、達筆に書かれた意味不明な文字……王塚は謎のセンスの服を着ていたのだ。


流石に無視できなかったのか、純浦さんも一瞬硬直した様子だ。


「あの男、服のセンスもなかったのか!よし、これで俺の勝率はまた高まった!」


「……いや、違うだろ。見ろ、売店」


にやにやとしている巡に真実を伝えるべく、私は視線を売店の方に誘導してやる。するとそこには、所狭しと並べられた『乳酸菌命』の文字が。


「Tシャツ、これしか売ってねえ……」


「oh……」


流石の巡も、感嘆詞しか出てこないようだ。何なんだこの売店。温泉と何の関係もないぞ。


そうしているうちに純浦さんが再起動したらしく、2人は会話をしながら売店の方に歩いてきた。私と巡は慌てて物陰に隠れる。


「すごいTシャツですね、それ」


「いや~……ちょっと恥ずかしいですね」


「ふふふっ……どうやらここ、ヨーグルトを推しているみたいですね。ドリンク飲んでみませんか?」


「そうですね、せっかくなので」


自然に会話をしながら、2人は飲み物を買って食堂の方へと移動をする。うん、普通にいい雰囲気だ。これはこれでいいデートになっているのでは?


(いや、デートが上手くいってどうするんだ。妨害の予定だったのに……)


私がそう思っていると、巡も同じことを考えたのか真面目な顔つきになった。


「……どうする、このままだと普通にいいデートだぞ?」


「うん……でも今やるべきことは決まった。ちょっと待ってて」


そう言ってそそくさと売店に近づいていく巡。戻ってきたその手には、ドリンクカップが握られている。


「純浦さんとお揃いのドリンク買ってきた!」


「バカかよ」


「ズゾゾッ……美味しい!ヨーグルトの味だ!」


「ああ……よかったね……」


私は巡を置いて、とりあえず食堂の方に移動することにした。


2人のデート妨害はもう難しいが、とりあえず事の成り行きを見守らないと。そう思い食堂の隅っこの席に座った。遅れて巡もその席に座る。


純浦さんと王塚は、メニューを指さしながら楽しそうに会話をしていた。


「これ、お肉をヨーグルトにつけてから焼いているみたいですね」


「へえ、こだわっていますね。純浦さんは料理されるんですか?」


「そうですね、人並みには。最近はお菓子作りも楽しくて」


「素敵ですね、いつか食べてみたいです」


「まあ、機会があれば。私はこのお肉にしようかな……でもこっちのお魚も美味しそう」


「じゃあ私が魚を頼みましょう。ちょっとずつ交換して食べませんか?」


「いいですね、小皿もお願いしましょうか……すみませーん!」


そんな会話を聞いていた巡は、ドリンクを神妙な顔で飲んでいる。


「……美味しいけど、なんかくやしい」


「だろうね」


私はこれ以上の妨害は完全に諦め、店員にソフトクリームの注文をした。巡はまた純浦さんとお揃いにしようと、お肉の定食を頼んでいる。


「注文まで寄せて……空しくないの、それ」


「同じ空間で同じものを食べてるっていう事実は変わらないから、実質デート!」


「……論理的な思考を放棄するな。お前はサルか」


「人間だもん!ウキッ!」


「はあ……疲れるよ、ほんと」


私はため息をつきながら、横目で純浦さんたちを眺める。ちょうど料理が運ばれてきたようで、小皿におかずを盛りながら会話をしている。その雰囲気は普通にカップルだ。


一方でこちら。2人と同じくして到着した肉料理を頬張る巡と、ヨーグルト味のソフトクリームを食べる私。その表情は『無』である。


「オニクオイシイ……デモ、クヤシイ……」


片言で言葉を発する巡に、私は当然の事実を告げてやる。


「お前は寄せてるだけ、あっちは共有。体験の本質が違うんだよ」


「ツライ……デモ、オイシイ……」


「よかったな」


私はソフトクリームをちまちまと食べる。ヨーグルト味は爽やかな酸味があって美味しい。風呂上がりに食べたらより美味く感じることだろう。




そうして何とも言えない食事を終え、2人が店を出るのを待って私たちも外に出た。


玄関にはタクシーが到着している。どうやら王塚が呼んだもののようだ。彼はまたもや自然なエスコートで純浦さんを車に乗せ、運転手に代金を先渡ししている。


「それじゃあ純浦さん、気を付けて。今夜はすみませんでした」


「いいえ、案外楽しかったですよ。Tシャツもお似合いのようですし」


「いや、ほんと……恥ずかしいんで」


「ふふっ……すみません。では、また次の機会に」


「ええ、また連絡します。おやすみなさい」


そう挨拶を交わし、タクシーは出発していく。それを見送った王塚は、どうやら電車で帰るようだ。スマホをちらりと確認し、駅の方向へと歩いていった。


そんな2人を見送った私たちは、出入り口で静かに会話をする。


「……いい雰囲気のデートだったな」


「ウン……」


巡はいまだ片言で、ダメージから回復しきっていない様子だ。


「なんかこれ……結果的に邪魔しない方がよかったんじゃ……」


「ソウカモ……」


力なく答える巡。私はそっとその肩を叩いてやる。


「すまんな、私が水たまりとか言ったばかりに」


「イイヨ……依留チャンノ、セイジャナイヨ……」


「……」


「……」


「……帰ろうか……」


「……ハイ……」



とぼとぼと、コインパーキングへと歩き出す私たち。暗い夜道、私は空を見上げながらひとつ考え事をする。


(このまま純浦さんと王塚がくっついたら……世界滅亡、か。正直無理ゲーすぎるぞ、守護龍よ……)


夜空に浮かぶ守護龍が、ゆっくりと身震いをした。



――はらはらと降る鱗片は、また、白かった。



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