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「ギルド長の俺、1ヶ月のつもりで旅に出たら5年経っていて元仲間全員ヤンデレになっていた」  作者: 赤い赤鼻


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第5話 帰還

あれから数日。


俺は乗合馬車を乗り継ぎながら王都を目指していた。


正直なところ、未だに信じられない。


五年。


たった二週間のつもりだった。


海を見て。


温泉に入って。


飯を食って。


少し冒険して。


帰ろうとしただけだった。


それなのに。


気が付けば五年。


最初は誰かの悪い冗談だと思った。


だが、違った。


新聞の日付も。


町の変化も。


道中で聞こえてくる話も。


全てが同じことを言っていた。


五年。


俺の知らない五年が過ぎていた。


「……」


馬車の窓から外を見る。


見慣れた街道。


のはずだった。


だが、知らない建物が増えている。


昔はなかった宿屋。


新しく作られた見張り塔。


整備された街道。


たった五年。


そう思っていた。


だが実際は違う。


世界は確実に前へ進んでいた。


俺だけを置いて。


「もうすぐ王都だぞー!」


御者の声が響く。


乗客達が立ち上がり始める。


俺も顔を上げた。


そして。


遠くに見えた。


巨大な城壁。


王都だ。


「……帰ってきた」


思わず呟く。


嬉しいはずなのに。


胸の中には不安の方が大きかった。


みんなはどうしているんだろう。


レオナは。


セレナは。


リリアは。


ミアは。


そしてエマは。


五年。


俺の知らない五年。


何があったのだろうか。


馬車が門を通る。


見慣れたはずの王都へ足を踏み入れる。


だが。


「……なんだこれ」


思わず立ち止まった。


人が多い。


建物も増えている。


昔よりずっと賑やかだ。


新しい店が並び。


見覚えのない広場ができている。


王都なのに。


知っている王都じゃない。


まるで別の街みたいだった。


「本当に五年なんだな……」


改めて実感する。


俺の知らない時間が確かに流れていた。


しばらく街を歩く。


見覚えのある道を辿る。


そして。


自然と足が向かう。


黎明の翼。


俺達が作ったギルド。


五人で立ち上げた場所。


きっとみんなもいる。


そう思った。


「ここを曲がれば……」


懐かしい路地を抜ける。


その先に見えるはずだった。


俺達のギルドが。


しかし。


「……え?」


足が止まる。


そこにあった建物は。


俺の知る黎明の翼ではなかった。


看板は色褪せている。


壁にはひびが入っていた。


窓ガラスも何枚か割れている。


入口の扉も傷だらけだ。


かつて王都でも指折りだったギルドの面影はない。


それでも。


看板だけは残っていた。


色褪せながらも。


確かにそこに書かれている。


『黎明の翼』


「なんで……」


言葉が出ない。


俺達は成功していた。


王都でも有名になっていた。


依頼も絶えなかった。


新人も増えていた。


未来は明るかったはずだ。


なのに。


どうしてこんなことになっている。


「何があったんだよ……」


建物の前で立ち尽くす。


誰もいない。


人の気配もない。


風だけが吹いている。


どこへ行けばいいんだ。


誰に聞けばいいんだ。


レオナ達はどこにいる。


エマは。


みんなは。


頭の中がぐちゃぐちゃになる。


その時だった。


後ろから。


信じられないほど聞き慣れた声がした。


「……アルトさん?」


心臓が跳ねる。


ゆっくり振り返る。


そこにいたのは。


少し大人びた女性だった。


栗色の髪。


見慣れた顔。


忘れるはずがない。


「エマ……?」


エマがその場で固まる。


持っていた書類が手から滑り落ちた。


ぱさり。


紙が地面へ散らばる。


それでも彼女は動かない。


ただ。


信じられないものを見るように。


俺を見つめていた。


「久しぶりだな」


そう言って手を上げる。


だが。


エマは返事をしない。


ただ震えていた。


「エマ?」


呼びかける。


すると。


エマの唇が震えた。


「……本物ですか?」


かすれた声だった。


「え?」


「本当に……アルトさんなんですか……?」


俺は頷く。


「そうだけど」


その瞬間。


エマの目から涙が零れ落ちた。


ぽろりと。


一滴。


そしてまた一滴。


五年間。


ずっと我慢していたものが溢れ出すように。


「帰ってきたの…」


小さな声だった。


次の瞬間。


「アルトさん!」


エマが駆け出した。


俺が何か言う前に、そのまま胸へ飛び込んでくる。


「うおっ!?」


思わずよろめいた。


エマは俺の服を強く掴んだまま離さない。


肩が震えている。


泣いているのだと気付くのに時間はかからなかった。


「エ、エマ?」


返事はない。


代わりに服を掴む力がさらに強くなる。


まるで今離したら消えてしまうと思っているみたいだった。


「本当に……?」


震える声が聞こえる。


「本当にアルトさんなんですか……?」


「だからそうだって」


「違う……」


エマは首を横に振った。


そして恐る恐る俺の頬へ手を伸ばした。


まるで幽霊か何かを確認するように。


そっと触れる。


その瞬間。


エマの目からまた涙が零れた。


「温かい……」


「そりゃ生きてるからな」


「本当に帰ってきた……」


その言葉に胸が少し痛くなる。


五年。


俺にとっては一瞬だった。


でもエマ達にとっては違う。


本当に五年だったんだ。


「エマ」


「……」


「とりあえず落ち着け」


「無理です」


即答だった。


思わず苦笑する。


少しだけ昔のエマに戻った気がした。


「まあ、それもそうか」


「五年ですよ……」


エマは涙を拭う。


「五年も待ったんですから……」


その言葉に何も返せなかった。


しばらくして。


ようやくエマは深呼吸を一つした。


そして少しだけ表情を整える。


「すみません」


「気にするな」


「いえ、ギルドの前で泣くなんて副ギルドマスター失格です」


「相変わらず真面目だな」


「誰のせいだと思ってるんですか」


「……ごめん」


「謝らないでください」


エマはそう言って首を横に振る。


そして色褪せたギルドを見上げた。


俺もつられて視線を向ける。


ボロボロになった黎明の翼。


五年前とは別物みたいだった。


「何があったんだ?」


思わず呟く。


「レオナ達は?」


その瞬間。


エマの表情が少し曇った。


「……」


「エマ?」


しばらく沈黙が続く。


やがてエマは小さく息を吐いた。


「その話は」


言葉を選ぶように間を置く。


「ここじゃダメです」


「え?」


「長くなりますから」


そう言ってエマは苦笑した。


だがその笑顔はどこか寂しそうだった。


「それに」


エマはギルドの扉へ視線を向ける。


「立ち話で済む話でもありません」


「……そうか」


「はい」


エマは頷いた。


そしてゆっくりと古びた扉へ歩き出す。


「中へ入りましょう」


ギィ、と軋んだ音が響く。


その音を聞いた瞬間。


五年という時間の重さを。


俺は少しだけ実感した気がした

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