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「ギルド長の俺、1ヶ月のつもりで旅に出たら5年経っていて元仲間全員ヤンデレになっていた」  作者: 赤い赤鼻


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第2話 置き手紙

アルトが旅に出たいと言い出してから一週間が経った。


だが、状況は何も変わっていない。


「だから、一ヶ月だけだって」


食堂のテーブルに突っ伏しながらそう言うと、向かいに座るレオナは小さく首を横に振った。


「やだ」


即答だった。


「なんでだよ」


レオナは少しだけ視線を逸らした。


「……心配だから」


「子供じゃないぞ?」


「知ってる」


「なら大丈夫だろ」


「大丈夫じゃないもの」


そう言って紅茶を口に運ぶ。


話は終わりと言いたげだった。


結局レオナの説得は失敗。


俺は大きなため息を吐いた。


そのまま中庭へ向かう。


花壇の手入れをしていたセレナが俺に気付いて微笑んだ。


「アルトさん、お疲れ様です」


「お疲れ」


その笑顔を見て少し期待する。


セレナなら分かってくれるかもしれない。


「なあセレナ」


「はい?」


「旅に出たい件なんだけど」


「ああ、そのお話ですか」


セレナは優しく頷いた。


「旅自体は良いと思いますよ」


「おっ」


ようやく理解者が現れた。


そう思った瞬間。


「私も一緒なら」


「ダメじゃん」


「ダメですね」


セレナはくすくす笑う。


「一人旅なんて危ないです」


「俺もそこそこ強いぞ」


「知っています」


「なら」


「それでも心配なんです」


真顔だった。


説得失敗。


その日の夕方。


今度はリリアの研究室へ向かう。


部屋へ入ると、山積みになった本の向こうからリリアが顔を出した。


「何しに来たの?」


「旅の件」


「却下」


早い。


まだ何も言っていない。


「最後まで聞けよ」


「どうせ一ヶ月だけだから大丈夫って言うんでしょ」


「その通りだけど」


「却下」


リリアは本を閉じた。


「一人旅なんて非効率よ」


「またそれか」


「護衛がいない」


「必要ない」


「回復役がいない」


「必要ない」


「私もいない」


「ん?なんか言ったか」


「なんでもない」


絶対何か言った。


だが問い詰める前に追い出された。


説得失敗。


そして最後。


訓練場。


予想通りというべきか。


「ご主人様ー!」


ミアが全力で飛びついてきた。


反射的に受け止める。


「だからご主人様じゃないって」


「ご主人様ー!」


聞いていない。


いつも通りだ。


「ミアも一緒に行く!」


「ダメ」


「やだ!」


「ダメ」


「やだー!」


説得失敗。


これで四人全員だ。


一週間。


本当に一週間頑張った。


結果は全敗。


「参ったなぁ……」


執務室へ戻ると、エマが書類を整理していた。


「だから言ったじゃないですか」


「反対されるって」


「予想以上だった」


「でしょうね」


エマは苦笑する。


「でも引き継ぎは全部終わったぞ」


一ヶ月分の業務予定。


緊急時の対応。


各部署への指示。


全部まとめてある。


「本当に行くんですね」


「一ヶ月だけだからな」


「皆さん怒りますよ」


「帰ったら謝る」


エマは何か言いたそうだった。


だが最後は小さくため息を吐くだけだった。


翌日。


最後の確認も兼ねて冒険者ギルド本部へ向かう。


そこで顔見知りの受付嬢、フィーナを見つけた。


「アルトさん!」


「久しぶりだな」


「最近全然来ませんでしたね」


「仕事ばっかりだったからな」


フィーナが笑う。


昔から気さくで話しやすい。


「そういえば聞きましたよ」


「ん?」


「休暇を取るんですって?」


「一ヶ月だけな」


「いいですねぇ」


フィーナは羨ましそうに言った。


「帰ったらお土産期待してます」


「了解」


「約束ですよ?」


「もちろん」


その時だった。


「アルト」


聞き慣れた声に振り返る。


そこにはレオナが立っていた。


「レオナ?」


「誰?」


いきなりだった。


「誰ってフィーナだよ」


「ふーん」


レオナはフィーナを見る。


フィーナはなぜか少し困った顔になった。


「どうしたんだ?」


「別に」


そう言いながらも。


「……楽しそうだったから」


小さくそう呟いた。


「普通に話してただけだぞ」


「そう」


納得した顔には見えなかった。


フィーナは慌てて頭を下げる。


「じゃ、じゃあ私は仕事がありますので!」


そう言って逃げるように去っていった。


「なんで逃げるんだ?」


「さあ?」


レオナは視線を逸らした。


意味が分からない。


ギルドへ戻ると今度はセレナが待っていた。


「アルトさん」


「ん?」


「女性と楽しそうに話していたそうですね」


「なんで知ってるんだ」


「たまたまです」


絶対たまたまじゃない。


「ただの知り合いだぞ」


「そうですか」


セレナは安心したように微笑む。


だが次の言葉がおかしかった。


「女性と二人でいる時は教えてくださいね」


「なんで?」


「心配なので」


「何を?」


「色々です」


意味が分からない。


夜にはリリアから。


「その受付嬢」


「フィーナか?」


「名前は覚えてるのね」


と言われた。


さらにミアからは。


「ご主人様取られちゃダメー!」


と抱きつかれた。


本当に意味が分からない。


その日の深夜。


誰もいない執務室。


俺は机へ向かい、一枚の紙を取り出した。


みんなへ。


少しだけ旅に出てくる。


心配するな。


一ヶ月くらいで戻る。


引き継ぎは全部終わらせてある。


ギルドは頼んだ。


帰ったらまたみんなで飯を食おう。


アルト


手紙を机の上へ置く。


短い。


だが十分だろう。


どうせ一ヶ月で帰る。


大袈裟にする必要はない。


翌朝。


まだ空も薄暗い時間。


誰もいないギルド本部を見上げる。


五人で建てた場所。


たくさんの思い出が詰まった場所。


「行ってくる」


そう呟き、俺は歩き出した。


久しぶりの一人旅。


胸が少し高鳴る。


一ヶ月なんて、きっとあっという間だ。


そう思いながら、俺は王都を後にした。

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