第3章-1
もうすぐ中元節の季節である。宮廷でも準備に追われる人たちを見かけるようになった。
「ねえ、ちゅうげんせつって何?」
小鈴が香蘭の身支度をしている玲玲に向かって尋ねた。香蘭の高く結い上げてほしいという希望のために、玲玲は懸命に手を動かしてくれている。香蘭は紙に書き付けて小鈴の疑問に答えた。
『地獄の門が開いて、死者の魂がやってくる日と言われているの』
「えっ」
小鈴が怯えた顔をしたので、香蘭は慌てて書き足した。
『ご先祖様もやってくるってことよ。だからお供え物をしたり、宴をしたり、ご先祖様の魂が道に迷わないように、香を焚いたりするの』
「宮廷行事としては、やっぱり灯籠流しですね。宮廷内に流れる川に浮かぶ、たくさんの灯籠は見事ですよ」
髪を結い終わった玲玲がそう教えてくれた。小鈴はうきうきとした様子でにっこりと笑った。
「じゃあ、おいしいものがあって、綺麗なものがある日なんだね」
「まあ今はそれでいいかな」
宮廷でも宴が催されるらしいから、小鈴の認識を持っている者は多いだろう。もちろん先祖への敬意も忘れずに。
『玲玲、今日も尚香局への手紙を届けてくれる?』
「かしこまりました」
香士として、中元節の宴で使われる線香を作ることになっている。
公的な宴で使うものはもちろん、貴族や妃嬪からの依頼もあるため、作る量はかなりのものになるだろう。そのための尚香局だ。長官から香士の助言を求める書簡が届いていた。香蘭本人が尚香局へ行って指示を出すとかつての同僚からの反感を買うのは明らかだ。
だからこうして玲玲に手紙として長官へ届けてもらうことにした。
「香蘭さん、少し楽しそうに見えます」
『そう、かしら?』
玲玲にそう言われて、香蘭は自分の顔に手を当てる。当てたところでどんな顔をしているか自分ではよくわからない。
中元節の香を作るのは、香士としてなかなかの大仕事だ。緊張するけれど、わくわくしている自分もいる。春香の代わりに、と考えかけて手を止める。
――これは、誰の仕事? 姐姐の仕事? それともわたしの仕事……?




