七不思議の生まれる場所 前編
野瀬思中学校七不思議攻略戦、七日目。またの名を最終日。
すでに、僕も室長も笠酒寄も荷物をまとめてる。
今日チェックアウトして、そのまま帰路につく予定なのだから当然と言った当然なのだろうけど。
・・・・・・一週間。短いようでそれなりに長かった。
だけど、ちょっとした出張も今日で終わりだ。
帰ったら潰れてしまった春休みの予定の埋め合わせをしないといけないだろう。
一番にやらないといけないのは親に対する言い訳だろうけど。その辺は小唄が上手くやってくれていたら必要の無いことだろうけど、僕は妹を信用していない。
能力を疑っているわけじゃなくて、その性質から信用できないのだ。
プチ室長みたいな中学二年生を信じることができるだろか、いや、ない。
というわけで、僕は荷物をまとめながらも今回の言い訳を考える羽目になっていたわけだ。
七不思議のことは考えない。僕が考えても無駄だ。
その辺は現場で臨機応変に対応することになるだろうし、そもそもメインで解決するのは室長だ。助手の僕と笠酒寄はそのサポート。
役割は、間違えない。
「コダマー、入るぞー。笠酒寄クンも一緒だ」
ノックと同時にドアを開けたんじゃ全く意味が無い。
「なんですか室長? 僕はまだ荷物をまとめていないんですけど」
「普通のスーツケースなんて使うからだ。後で私の私物が一つ空いてるから貸してやる」
「お断りします」
絶対にろくなヤツじゃない。
多分、中が滅茶苦茶広かったり、生きていたり、自立的に捕食したりするような類いの物品だ。僕の私物がどうなってしまうのか想像もしたくない。
「で、何の用ですか? ・・・・・・笠酒寄まで一緒になって」
「ちょっと、な」
なにやら意味深な感じで室長はベッドに腰掛ける。その隣に笠酒寄も。
心拍数が上昇する。
わざわざ室長がやってくるなんて・・・・・・一体何事だろうか?
今夜の七不思議はもしかして事前打ち合わせが必要になってくるぐらいに手強い?
いやまさか、そんなわけがない。
今までの七不思議はどれもこれも僕がいままで遭遇してきた『怪』に比べたら子供だましみたいなもんだ。
妖刀やら妖怪やら、魔術師やらに比べたら全然大したことない。
用いられているのも、一つを除いては特別でもなんでもない。
やがて、重々しく室長は口を開いた。
「やっぱりデモこれのイベントは一回限りだったみたいだ。以後一切このイベントは行われないという告知があった。・・・・・・帰ったら私はどうしたらいいんだ? 皆が限定レヴィアたんを見せびらかしているのに、歯がゆい思いでそれを眺めているしかないのか? ・・・・・・くっ!」
知らねーよ。
大層深刻そうな顔して話題がそれかよ。
この人がかなりの凄腕魔術師だっていうことを否定したくなってくる。
少なくとも、この台詞だけを聞いてヴィクトリア・L・ラングナーが約四百歳の吸血鬼だと推測できる人物はいまい。
「・・・・・・いや、なにそんな顔でアホなことを言ってるんですか? それだけなら出て行ってください。チェックアウトまであと一時間しかないんですよ」
僕はとっとと下着類を詰めたいから。
異性の前で自分の下着を見せびらかしたいヤツがいたら顔を見てみたい。
「それはそれとして、今夜ぶっ飛ばす『怪』について先に説明しておこうと思ってな」
「チェックアウトしてからじゃダメなんですか?」
「ダメだ。ホテルから野瀬思中学校に直行して取りかかる」
? 妙な、話だ。
今までの七不思議の解決は決まって夜間に行っていた。
それは七不思議の発生が夕方から夜にかけてだという理由もあったのだろうけど、人目につかないように、という一面もあったはずだ。
真っ昼間から『怪』とやり合おうなんてことは、今までも少ない。
なのに、なぜ?
「下準備が必要になってくる。もっと大人数ならそうでもないんだが、今回は三人しかいないからな。手が足りないのならば時間をかけるまでだ」
理屈は納得できる。
が、肝心の部分が聞けていない。
「そこまで、準備が必要な七不思議・・・・・・いえ、『怪』って何なんですか?」
「『怪』を生み出す『怪』。七不思議を生む七不思議だ」
野瀬思中学校七不思議、最後の一つ。
それは、全ての七不思議を体験してしまったら、何処へともしれず消えてしまうという不思議。
幸いにして、被害者は未だに発生してしないし、こんなのはよくある最後の七不思議だと思う。
ほら、良くあるじゃないか。『最後の七不思議は誰も知らない』とか、『全ての七不思議を知ってしまうと新しい七不思議になってしまう』とか、枚挙にいとまが無い。
普通なら一笑に付してしまうような悪あがきだ。
しかしながら、現状の野瀬思中学校においては違う。
『怪』が現実になっている事例もある以上、もしかしたらそれは本当かも知れないのだ。
そうだとしたら、七不思議の解決をもくろむ僕らは格好のターゲットだ。
消えてしまう。それはどういう風に消えてしまうのだろうか?
他の場所に転送されてしまうのか、それとも存在そのものを抹消されてしまうのか。
どっちも嫌だ。
しかしながら、直面する脅威であることも事実。
というわけで、現在の僕達は野瀬思中学校のグラウンドにてせっせと変な薬品を撒いているのだった。
室長曰く、『準備』らしいのだけど、何の薬品なのかは知らない。
ついでに言うと、本来は元気に汗を流しているであろう生徒達は僕達に全く関心を払っていない。
いや、正確にいうと気付いていない。
今まさにグラウンドを疾走している陸上部もだ。
隠蔽の魔術。
室長お得意の付与系列なのだろうけど、正直気味が悪い。
「撒きおわりましたよ。次はなんですか?」
「ああ、次は迎撃用の魔術を仕掛けに行こう」
は? 迎撃?
どういうこっちゃ?
とっとと歩き出す室長と、それをおう笠酒寄。
慌てて僕はその後を追った。
「・・・・・・よし、と」
野瀬思中学校の体育館の壁面にでかでかと奇妙な文様を書き終わった時には、すでに夕方近くになっていた。
四時間ほどはここで作業していたことになる。
どうやらこの文様自体にも隠蔽の魔術はかかっているようで、前を通り過ぎる生徒達はまったくの無関心だった。
「準備完了ですか?」
「ああ、後は夜になってから来よう。それまでは休憩と腹ごしらえだな」
どこからともなく持ってきた脚立をたたみながら室長は答えた。
「わたしフレンチがいいです!」
この辺りの地理に詳しくないのにフレンチの店があるかどうかわかるのかお前は笠酒寄。
「ないなぁ」
どうやら室長のほうは地理ぐらい頭の中に入っているご様子。
「イタリアン!」
「ないなぁ」
「・・・・・・むむむ、和食!」
「そば屋ならあったな」
「・・・・・・不満を表明します」
「ファミレスでいいかな?」
「・・・・・・はい」
そりゃそうなるわ。
というわけで、僕達の夕食はチェーン店での安っぽい食事となった。
日も暮れて、夜。
野瀬思中学校を見るのもこれが最後だと思うと、少しだけ感慨深いモノがある。
母校でも何でも無いけど、小指の爪の先程度の思い入れが湧いてしまったのかも知れない。
が、それはそれで、七不思議の解決は別。
僕達は、僕達の役目を果たさないといけないだろう。
「で、室長。今日はどこに向かうんですか?」
最後の七不思議。その原因になっているモノは一体何だろうか?
気になる。
「ああ、中庭ではあるんだが、多分かなり盛大に歓迎してくれるだろうからテンションは上げていった方がいいぞ」
「どういう・・・・・・」
「さあーいくぞー。『怪』は待ってくれない。ハリアップ!」
おもっくそ発音がカタカナ英語だったのは突っ込み待ちなのか、そうでないのか。僕には判別がつかなかった。




