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空木コダマの化生/剣豪録  作者: 中邑わくぞ
最終怪 七不思議学校
48/51

七不思議の生まれる場所 中編

 正門を跳び越えて内部に侵入。


 特に変化があったようには感じない。

 室長の意味深な言葉はなんだったんだ?

 怪訝に思いつつも、僕達は中庭に向かうためにグラウンドを横切ろうとして、足が止まる。


 ぽつんとグラウンドに佇んでいる人影。


 それだけでも奇妙と言ったら奇妙なのだけど、問題はそいつが背中にあるモノを背負っていることだ。

 薪。

 そう、まごう事なき薪なのだけど、普通の薪じゃない。石で出来ていた。

 ついでに言えば、そいつ自身も石で出来ていた。

 二宮金次郎像。これだけで説明は十分だと思う。


 え、なんでそこにあるんだ?


 んなことを考えて僕が思考停止していると、石像はこっちまで足音が聞こえてきそうな勢いで駆け出してきた!


 「む、迎え撃ちますか?」


 混乱するけど、なんとかそれだけは言えた僕自身を褒めてやりたい。


 「いや、いい。あの程度なら『出られない』からな」


 室長の言葉とほぼ同時に二宮金次郎像は見えない壁にでもぶつかったかのように吹っ飛んだ。


 ・・・・・・はい?


 室長はタバコを取りだし、点火。

 細く、長く白い煙を吐き出すと、けだるそうに言った。


 「昼間撒いたのは結界用の媒体だ。それなりの魔力か質量でもないかぎりは突破できない。効力は今夜が精々だが、十分すぎる」


 はあ、なるほど・・・・・・ってなるほどじゃねえよ!


 「いやいやいや! 待ってくださいよ室長! なんですかアレ⁉」


 ビシッと僕は倒れた状態でジタバタしている二宮金次郎像を指さす。


 「なにって・・・・・・二宮金次郎像だろ。知らないのかコダマ?」

 「知ってますよっ! そうじゃなくて! なんで走り回っているんですか⁉」


 七不思議が八不思議に増えてるじゃねえか!


 「いい加減に私達に気付いたんだよ。元凶、というか根本がな。自分達の存在を否定されてまくっていたら実力行使も致し方なしというところだろ。まあ、あの程度なら些事(さじ)だ。気にするな」


 気にするなっていってもなぁ・・・・・・無理だろ、あれは。

 まるで壊れたおもちゃみたいにバタバタと足を動かす石像という存在感の塊を無視するのには相当の気力が必要になりそうだ。


 「・・・・・・なにか、きた」


 いつの間にか人狼の耳を生やしていた笠酒寄が呟く。

 くそ、めちゃくちゃ気になるけど後回しにするしかない。


 「どっちだ笠酒寄⁉」

 「あっち・・・・・・って、あ」


 笠酒寄の指が示す方向には、三人ほどの人影があった。

 一人はロングヘアの女性。ただし顔の下半分を覆うようなでかいマスクを装着している。

 一人はうさんくさいマント姿の男。ご丁寧にシルクハットまで被ってる。

 最後の一人はおばあさん? しかしながら、悪鬼のような形相だ。


 「ええと多分、口裂け女と赤マントとターボババァ・・・・・・かな? なつかしい都市伝説どもがそろいもそろっての夢の共演か」


 なんじゃそりゃあ⁉

 なんで都市伝説が現代日本に降臨してしまっているんだよ! わけがわからない。

 もはや何不思議だよ⁉


 「どうなってるんですかぁ⁉」

 「だから、全力で迎撃にきたんだろ。茨の拘束(ソーン・バインド)解放(リリース)


 以前、僕も使ったことがある無数の茨が体育館の壁から飛び出す。

 口裂け女と赤マントはそれであっさりと捕まった。

 が、ターボババァだけはその名に恥じない身のこなしで回避する。


 そのまま一気に僕達のほうに向かってくる!


 「黒沼(ブラック・スワンプ)


 コンクリートの地面が一瞬にして沼に変化する。

 突っ込んで来ていたターボババァはそのまま沼に踏み込んで足を取られる。

 どうやらこの沼、非常に粘り気が強いみたいだ。足を引き抜くこともできずにターボババァはどんどん沈んでいく。


 「まったく、この程度じゃ足止めにもならんぞ。もっと気合いを入れてこい」


 うわー、動じないなこの人。

 僕はドン引きだ。

 沼を迂回するようにして室長は中庭へと進んでいく。

 かなり嫌な予感がしたのだけど、僕はその後についていった。





 「何見てんだよぉ!」

 「やかましい」


 室長の見事なハイキックによって人の顔をした犬は吹っ飛ぶ。


 「い、今のは?」

 「人面犬だ。残ってたな、そういえば」


 小石でも蹴っ飛ばしたみたいな塩対応だった。

 なんでこうも奇妙奇天烈摩訶不思議存在のオンパレードになってしまっているんだよ⁉ 僕が一体何をした?


 目的地である中庭まではあと少し。だけど前方の集団は、はいそうですかとは通してくれそうにもなかった。

 落ち武者の集団。

 どいつもこいつも得物を手にして、ぎらぎらした視線を送ってきている。 

 気持ち悪いんだよっ、こんちくしょう!


 「これは想定していなかったな。どうやら過去にこういう類いの怪談が流行してんだろうが・・・・・・生憎と構ってやってる暇はない」


 す、と僕の眼前に差し出される室長の白い腕。


 ・・・・・・ああもう。はいはいわかりましたよ。


 無言で僕は子どもみたいな室長の腕にかぶりつく。

 流れ出る血液をすすれば、僕の能力が完全に戻る。

 もちろん、もれなく頭痛と倦怠感もやってくるので活動限界は十分程度だろうけど。


 「しばらくしたら僕は使い物にならなくなりますからね」

 「安心しろ。そのときには片付いてる」


 ならいいけどっ!


 感覚が拡張されて、落ち武者の一体一体をあらゆる角度から僕は観測する。

 あとは簡単。ねじれろ。


 子どもに捻られてしまった人形みたいに、落ち武者達は一斉にねじ曲がる。

 脊椎ごといってしまったので、生きているのなら死亡。生きていなくても、回復能力が相当に優れていない限り戦線復帰は不可能。


 「雑魚はコダマに任せるに限るな」

 「うーん。敵が沢山いるほうが空木君って輝くよね」


 二人して褒めているような褒めていないような微妙なラインを攻めてこないでくれ。僕はこう見えてもけっこう傷つきやすいんだぞ。

 さて、目下のところ邪魔になりそうな集団は片付いた。


 もう、中庭は目前だった。





 中庭。


 緑を保つためか、そこここに木が植えられていたり、花壇があったりはするのだけど、それらが『怪』の原因だとは思えない。

 このおもちゃ箱をひっくり返したような馬鹿騒ぎをその辺の木やら花が起こせるっていうのならば、世界はもっとしっちゃかめっちゃかになっているからだ。


 では、原因は一体何だ?

 隣の室長に視線を送る。


 「ええと、確かこの辺に・・・・・・ああ、あった」


 何かを見つけた室長はずんずん進んでいく。

 気は進まないけど、僕と笠酒寄はそれについていく。

 そうして、やって来たのは白い箱みたいなモノの前。


 なんだこれ? 小学生ぐらいの身長に掲げられている箱・・・・・・だろうか。なんのために存在しているんだ?


 「さて、今回の七不思議の原因。それがこれだ。この箱・・・・・・いや百葉箱(ひゃくようばこ)、いやいや、ここは一つ『百妖箱(ひゃくようばこ)』とでも表現したほうが的確か?」


 思い、出した。


 小学生の頃の理科の時間に習ったことがある。

 中には温度計と湿度計が存在しているはずだ。

 だけど、それがなんで『怪』の原因になるんだ?


 「百葉箱。その目的はなんだ? はい笠酒寄クン」

 「え? は、はい! 温度と湿度を計ることです」


 なんだこの小芝居は。


 「正解。つまり、こう言い換えることが出来る。『百葉箱は常に野瀬思中学校を観測している』とな」


 観測。つまりは見ているということ。


 野瀬思中学校で起こった出来事を。交わされている会話を。人々の人生を。

 創立四十周年を越えてる野瀬思中学校。ということは四十年分か? それだけの時間を観測に充てるというのはどういうことなのだろうか?

 それが、現状なのだろうか?


 「室長、それじゃあ・・・・・・何処の学校の百葉箱もそういう『怪』を引き起こす存在になってしまいますよ。日本全国津々浦々(つつうらうら)、怪談があふれて無くちゃおかしいですって」

 「そこが肝だ。普通は流されてしまうような怪談。それが何者かの手によってえらく現実味を帯びてきてしまった。そうなると、『他もそうじゃないのか?』と考えてしまうが人情だ。人間は悲観的な情報ほど拡散しやすい。在校生の親やら卒業生に現状が広まってしまったら、当然、その思念が集中しやすくなる」


 呼び水、ということだろうか。


 何者かによって実現されて拡散され始めた七不思議。それらが更なる不思議・・・・・・いや、『怪』を生み出す。その媒体になっているのは、この小さな箱。

 そういう、からくりなのか?


 「媒体になっているのは間違いない。百葉箱は観測して記録する。つまりは情報がため込まれているんだ。ほんの少しつついてやるだけで中から勝手にあふれてくる」


 とんでもないことだ。

 日本全国どの学校でも今回みたいな事件が起こりうるっていうことだろ。

 僕達みたいな非常識ならなんとか対処できるだろうけど、一体いくつ学校があるんだ。


 全部に可能性は潜んでいるはずだ。

 絶望的な気分に僕が浸っていると、室長は白衣のポケットを漁りだした。


 「・・・・・・なにを、するっていうんですか? どうせこれが解決しても、次から次に『怪』はやってくるんですよ?」


 暗澹(あんたん)とした気分の僕に構うこともなく、室長は『何か』を掴んだ手をポケットから引き抜く。

 握られていたのは、柄だった。


 「らしくないなコダマ。その程度をこの私が想定していないとでも思っているのか? 本当に思っているのならば、キミはもう一度義務教育からやり直せ」


 ずるずるとポケットから柄が引き抜かれ、(つば)が現れ、刀身が現れる。

 日本刀。それは間違いなく日本刀だった。

 そして、僕はそれに見覚えがある。


 「・・・・・・童子切り安綱(どうじきりやすつな)!」


 「そうだ。増えていたから一振り失敬しておいた。いやあ、統魔に隠し通すのは苦労した。・・・・・・まあ、あと一日もしたら崩壊してしまうような劣化コピーだからこそ見逃したのかも知れないがな」


 色々と事情はありそうだけど、今の問題はそれで何をするつもりなのか、ということだ。

 いや、刀でやることと言ったら一つしか無い。


 「それで斬るんですか?」

 「ああ。こいつの力を動員したら同じ百葉箱共にもダメージがいくはずだ、たぶん。全国で謎の破損が起こるだろうが、この先のことを考えたら・・・・・・な」


 同感。

 隣で笠酒寄も頷いている。


 「やってください、室長」


 ふ、と軽く笑みを浮かべたのだろうけど、僕にはその笑顔が少しだけ怖かった。


 「しゅっ!」


 鋭い呼気と共に振り下ろされた童子切り安綱が百葉箱を見事に両断する。

 だけど、だけど。

 中には何もなかった。


 あるはずの温度計も湿度計もない。

 ただの空っぽだ。


 「ど、どうなっているんですか、これ」

 「先に持ち出されていたか。・・・・・・出てこい怪奇製造者ストレンジ・クリエイター


 剣呑な調子の室長の言葉に応えるようにして、僕達の後ろから声が聞こえた。


 「バレバレかぁ~、残念! あたしもまだまだだなぁ~」


 やけに軽い調子の女性だった。

 だけど、おかしい。

 僕の能力で視えなかった。


 目では見えている。しかしながら、同時に展開しているはずの僕の視る能力、そっちでは彼女は存在していないはずなのだ。・・・・・・どういうことだ?

 格好は普通。どこにでもありそうなラフな格好。

 だけど、その手には二本の棒状の物体があった。


 「その温度計と湿度計を渡してもらおうか。お前の目的もそれなんだろうが、私達の目的はそれの破壊だ」

 「そんなの断るっしょ。あたしはやりたいことやるだけ。こんな楽しいことを邪魔されたらたまんないでしょ?」


 まるで中高生みたいな言い分だけど、多分成人している。

 それに、気になるのは怪奇製造者という単語。

 初めて聞く単語なのだけど、嫌な予感がぷんぷんする。


 「渡さないつもりか?」

 「そりゃそうっしょ。これからコイツを研究して応用しないといけないんだから」

 「交渉決裂、だな」

 「まったくもってそうだね」


 「なら・・・・・・」「そういうことで・・・・・・」

 「ぶっ飛ばしてやる」「逃げさせてもらうわ」



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