第二十八篇|背後偷襲、返り討ち
冬至の夜は、いつもより早く訪れる。街灯がひとつ、またひとつと灯り、雪景色を淡い黄色に染めていく。
曉雨は外から帰ってきたばかりで、頬は冷気に染まり、溶け残った桜の花びらのようにほんのり赤い。
もこもこの手袋をはめているのに、両手はまだ氷室から引き上げたばかりのアイスキャンディーみたいに冷えきっていて、指先はじんと痺れている。
足をとんとんと踏み鳴らして靴の雪を落とし、顔を上げると——
玄関先でさつき(筱月)がしゃがみ込み、ゆったりと靴ひもを解いているところだった。
肩にかかる髪。横顔は暖かな灯りに照らされて、やわらかく、どこか無防備に見える。
あめはぱちりと瞬きをし、瞳の奥にいたずらっぽい光を宿した。
つま先立ちで、そろり、そろり。
こっそり忍び寄る子猫のように、冷えきった手のひらを——
さつきのうなじへ、そっと近づける。
指先が触れる、その寸前。
まるで背中に目でもついているかのように、さつきはひらりと身をかわした。
「ん?」
振り返った唇に、狐みたいな笑みが浮かぶ。
「なにするつもり?」
言い終わるより早く、彼女の手があめの腰を掴んだ。
次の瞬間——
冷たい手が、するりと服の裾から潜り込み、腰肌へぴたり。
「きゃあああっ! 冷たい! 冷たいってば!!」
あめは跳ね上がり、必死に肩を押して後ずさる。
「ずるい! 先にやったのそっちじゃん!」
さつきは楽しそうに笑い、さらに一歩詰め寄る。
指先がわざとゆっくりと滑る。
「先に仕掛けたのは、どっち?」
頬を真っ赤にしたあめは、隙を見て体をひねり、
今度こそとばかりに凍えた手をさつきの首元へぺたり!
「これでおあいこでしょ!」
しかし——
さつきは小さく「ひゃっ」と息を漏らしただけで、眉ひとつ動かさない。
「ふふ……それだけ?」
そう言って、今度は手の甲であめの腰に再びぺたり。
「いやああ! 二回攻撃は禁止——!」
あめは力が抜けたように崩れ落ち、さつきの腕の中で震える。
「降参……もう無理……悪魔……」
さつきはようやく手を離し、彼女を抱き寄せる。
乱れた裾を直してやりながら、やさしく囁く。
「で、誰が悪魔を呼び出したの?」
あめは肩口に顔を埋め、小さくぶつぶつ。
「背中に目でもついてるんでしょ……」
さつきはくすりと笑い、指先で彼女の鼻先をちょんとつついた。
「背中にはないよ。
でも、心の中には——いつも君がいる。」
外ではまだ雪が舞い続けている。
けれど、この家の中だけは、
春みたいにあたたかかった。




