第二十九篇|日常のあまいひととき|ピーナッツ春巻き(´,,•ω•,,)♡
午後の陽光が斜めにリビングへ差し込み、空気にはほのかにピーナッツの甘い香りが漂っている。
曉雨はカーペットの上にあぐらをかいて座り、春巻きの半分をくわえたまま、もぐもぐと頬をふくらませていた。まるで食いしん坊の小さなハムスターみたいだ。
気づいていないのは本人だけ。唇の端には細かなピーナッツシュガーが少しだけついていて、陽の光を受けて、きらりと甘く光っている。
その向かいに座る筱月は、頬杖をつきながらじっと彼女を見つめていた。口元にはそっと浮かぶ笑み、瞳の奥には春の水面のようなやわらかな光が揺れている。
視線に気づいた曉雨は顔を上げ、まだ片方の頬をふくらませたまま、もごもごと尋ねた。
「……食べる?」
残った春巻きを差し出す指先には、まだ少し粉がついている。
「うん、いいよ~」
筱月は甘くとろける声でそう答えた。
次の瞬間、彼女は身を乗り出し、春巻きではなく曉雨の唇の端へと近づく。舌先でそっとなぞり、ついていた砂糖をさらっていった。
曉雨は一瞬で固まり、目をまんまるに見開く。耳までみるみる赤く染まっていくのが分かる。
「な、なにするの!」
あわてて後ずさりし、手は宙に止まったまま。春巻きが落ちそうになる。
筱月は素早くそれを受け取り、そっと皿に戻した。その仕草は、彼女の乱れた鼓動まで整えるみたいにやさしい。
そしてもう一度近づき、指先で曉雨の顎を軽く持ち上げる。
「せっかく誘ってくれたんでしょ? なら、このひと口ももらわないと。」
言葉が落ちるより早く、唇が重なった。
からかいでも冗談でもない。やわらかく、けれど確かなキス。春風が芽吹いたばかりの若葉を撫でるように、静かに、でも逃がさずに。
曉雨の呼吸は乱れ、指先は無意識に自分の服の裾をぎゅっとつかむ。文句を言いたいはずなのに、なぜか突き放せない。
しばらくして、筱月はゆっくりと離れ、額をこつんと合わせて微笑んだ。
「うん……春巻きより甘い。」
曉雨は真っ赤な顔のまま、そっぽを向いて小さくつぶやく。
「だ、誰が勝手に……」
「先に差し出したのは、そっちでしょ?」
筱月はいたずらっぽく瞬きをして、最後に付け加える。
「心も春巻きも、ちゃんと受け取ったよ。」
陽光は静かに流れ続け、その瞬間を金色に縁取っていた。




